第4章 疑惑〜8〜
第4章 〜8〜
道行く人の反応。
そこに、微妙な違和感が。
「あらぁ、颯希ちゃん…」
「はい。こんな曲の方が、自分は楽しめるのかもしれないです」
「可愛らしい歌ばっかり」
何故か少し照れる。別に自分が褒められた訳ではないのだが。
「あ、それと…」
「はい?」
「…君…です」
―あはははははは!
「じゃ、今日も20:00ね。私もまた手伝うから」
「助かります!」
曲目を変えてみた。
自身のハイトーンヴォイスに注目が集まった。
女声であるかのように聴こえるが、男声のようでもある。興味の対象は、きっとそこなのだろう。
それでも構わない。聴いてもらえているのなら、演り甲斐もあるものだ。
決して多くはないが、足を止める人も現れ、その内の数名がトングを手にしてくれた。
2度目の路上ライブが終わった。
「まずます…かな? でも一つずつにしてるから、ゴミ、残っちゃいますね」
「そうね。美化運動なんやから、1人いくつでも拾ってもらいたいところやけど…でもそれじゃ、歌の方の満足度調査にはならへんねぇ」
「そうなんですよね…」
ライブ終了後、周辺に散らばったゴミは自身で回収する。美化運動を謳うのだから、それはやっておくべきだ。
しかし、ライブとしての結果が欲しい。演るからには、その結果はやはり気になるのだ。
「それじゃ、また来週も演りますので」
「はぁい、お疲れ様」
その翌週も、颯希は八坂署を訪れた。
事前に許可は申請してあるので、ライブ実施の旨を確認するためだ。
3回目ともなると、その窓口へ行くにも迷う事はない。しかし―。
「今日ね、西田には帰宅してもらいました」
「え? あ、はい」
「日向さん…だっけ? 美化協力ありがとう。でもね、西田も勤務外だし、個人的にお手伝いしてはるだけやからぁ」
美化運動が目的として、八坂署が許可を出している。そこに署員である西田がプライベートで絡んでいくのは、少々問題だと言う。
確かにそうなのかもしれない。颯希は、任務の一環として手伝ってくれているものだと思っていたのだが。
「やってもらってる事は凄くありがたいんです。西田も前向きに、協力したいって言うてます。だからって、警察としてお手伝い出来るのにも限界があって…」
「もちろん分かります。許可はいただいてますので、あとは1人で大丈夫です。えっと…」
そうなると、ゴミ袋について疑問が浮かぶ。
「あの、ゴミが集まった場合は…」
「20:30終わりでしょ? 警らに回って行くので、その時に一緒に運びましょうか?」
「わぁ! ありがとうございます!!」
時間が迫っている。
颯希は署を後にしようとした。
「日向さん」
「はい?」
「女の子1人やし、気ぃつけや」
返事に困った。
とりあえず、会釈だけはしておいた。
いつもの場所、四条大橋の下に陣取り、ギターケースを置く。
西田が居ないことが、少し緊張感を高める。
ゴミ袋とトングを並べると、愛器をチューニング。そして、MCもなくそのまま歌い始める。
「don't cry anymore」(miwa)
女声であっても難しいと思われる程のハイトーン。今回は、ギターを半音落としたチューニングをした。
PAを使わずともよく通る程の大きな声を、腹式呼吸で腹の底から頭に突き抜けるように放出する。
気持ちいい。
少し無理をして原曲キーで歌った前回とは、比べ物にならない程だ。
ところが―。
「どっちなんやろ?」
道行く人達の反応は微妙だ。
暗くて顔がよく見えない夜の街。
女声とも男声とも言い難い独特のハイトーンヴォイス。
歌う姿で目に付くのは、その服装だ。
元々ユニセックスなファッションを好む颯希だが、あくまでも男子である。
その姿と、声、選曲のバランスが、どうやら人々に違和感をもたらしているようだ。
―どっちなんやろ? え?
この日もゴミ拾いは空振りだった。
帰りの地下鉄の駅。コンコースには、客同士の衝突防止のための鏡が設置されている。
颯希はそこで、自分の姿を見た。
―何かが違う。何かが。
読んでいただき、ありがとうございます。
西田さんの協力、大変ありがたいんだけど…
これを公私混同的に捉えられると、やっぱり困りますね。
実際のところは、警察は道路利用許可は出せても協力する事はないと思います。
だからプライベートとしてはいるのですが、これもどうなんだろ?
あくまでもフィクションとして見てくださいね。




