第4章 疑惑〜9〜
第4章 〜9〜
「めっちゃスマホ見てたやろ?」
何気ない仕草から、思わぬ方向へ。
「お前にやられたんやん!!」
インターホンが鳴っている。
3回は鳴っただろうか。
その時颯希は、部屋でスマートフォンを凝視していた。
路上ライブの帰り、駅のコンコースで見た自分の姿。その違和感の正体を知りたくて、思いつくままにキーワードを打ち込んではネット検索する。
「サッちゃん?」
インターホンも聞こえない程に集中する颯希。莉玖は合鍵でドアを開けた。
「どうしたの?」
「え? あ、莉玖…」
「居るんやったら、ドア開けてぇやぁ」
「ごめん。あははは…」
スマートフォンの画面を消して、テーブルに置いた。何となく落ち着かない様子が見て取れる。莉玖はぎこちなく笑いながら、少し茶化すように言った。
「なぁにか企んでる?」
「企んでるって…?」
「めっちゃスマホ見てたやろ?」
「それは…」
別に如何わしいものを見ている訳ではないのだが、何故か後ろめたさを感じる。颯希は少し話題をすり替えた。
「莉玖、今日の服可愛いな」
「え? ほんま?」
「どこで買うの?」
「これは通販」
「COCO STREETとか?」
「うん。サッちゃんも探してみる? 今持ってる服の身幅と肩幅と着丈測ってメモっといたらぁ、買う時参考になるで」
「なるほどぉ」
化粧もそうだが、服装も褒められると嬉しいものだ。莉玖も釣られて話題に乗っかった。
颯希は再びスマートフォンを手に取ると、少しうつむき加減で、左手の人差し指で髪のサイドを撫でるように、耳に掛けた。
莉玖はその何気なくする仕草に、ふと閃いたように颯希の側に寄った。
「ここ…」
耳に掛けた髪に、そっと触れる。その一部を軽く引いて、耳から外し、垂らしてみる。
「わっ! めっちゃ似合う。ほら、鏡見てみ!」
莉玖はそう言って、颯希の耳に掛けた髪をピンで留める。
「お、女の子やん…」
「別にいいやん。男子が耳掛けしたらあかん決まりなんて、ないで」
「そう言われたら言い返せへんけど」
少し困った様子の颯希が、子供の頃の思い出を呼び覚ますかのように、莉玖の目に映った。
自分がリードする。颯希は一生懸命付いてくる。そして、時々追い付けなくなって眉を下げる。大人になっても、颯希は颯希のままだ。
何だか楽しくなってきた。
「化粧…してみる?」
「やめろってぇ…あはは」
―あはははははは!
バッグから取り出した、小さなポーチ。
もう化粧にもすっかり慣れた莉玖にとって、日課と言うよりは、至極当たり前の行為。
莉玖は、悪戯っぽい笑いで颯希との距離を詰める。
「ほら、じっとして…」
下地から、コンシーラー。
当然だが、莉玖とは肌質が違う。あくまでも悪戯だ。そんな事は気にしない。
「何でそんなん持ち歩いてんの?」
「何でやろ…ね。うふふ」
ファンデーション。
慣れたとはいえ、莉玖だってベテランとは言えない。手早く済ませるなら、パウダーファンデーションだ。
「眉は書く?」
「いいって…そんな…」
「じゃあ、アイシャドー。薄いから大丈夫」
「何が大丈夫なんか…」
―うふふっ!
チークはほんのり赤みを持たせる程度に。口紅も柔らかな色。
「ほらぁ! え!? いやん、サッちゃん可愛い!!」
「嘘やろ?」
莉玖の手に引かれて、洗面所へ。
ドライヤー、ヘアアイロン、ヘアブラシにコーム、ヘアオイル、シェーバー、ローション、BBクリームなど、普段使うアイテムが几帳面に収められた棚。
髭は嫌いだ。毎日丁寧に剃り、スキンケアも欠かさない。
そんな颯希だから、鏡だって汚れやくすみもない綺麗な状態を保っている。
「結構頑張ってるねんな」
「まぁね」
「じゃあ、鏡を」
―ジャーーーン!!
「へっ!?」
顔立ちがそうなのか、莉玖が上手なのか、意外なのか当然の結果なのか。
颯希は少し戸惑った。
八坂署の担当職員達が、皆同じように「女の子」と言った理由が、そこに在る気がした。
「莉玖…自分の顔って…」
正直、莉玖も驚いていた。
「お、男っぽい顔じゃない…ね」
もちろん颯希は気付いていた。それも、子供の頃から。
あれ程までに「女の子」と言われたら、子供であっても鏡を見ない訳がないだろう。
「なぁ、何でこんなの持ち歩いてんの?」
もう一度同じ事を訊いてみる。
「何で…やろ?」
莉玖は同じ言葉で答えた。
そしてその胸の内で、颯希の事を「鈍感」と呟いた。
「これ、置いといてもらっていい?」
「あかんとは言わへんけど、ここに置いたら…」
―だからぁ!
「これ、トラベル用。家にはもっと良いのがあるの。だから置いといてもらえたら…ね?」
「んんっ?」
「ねぇっ!!」
「あ、う、うん」
本当は分かっている。
分かっているからこそ、素直に受け止める事が出来ない。
颯希って、子供の頃からずっとそんな奴だった。
今、困り顔をしている颯希は、莉玖の手によって化粧されている。そんな状態で真面目に困ってしまっているのが、どこか滑稽だ。
―ぷぷっ!
「何がおかしいん?」
「その顔…サッちゃん、化粧してる…」
「お前にやられたんやん!!」
―わっはははははは!
読んでいただき、ありがとうございます。
第4章に入る前に、お化粧直ししましたね 笑!
書きながら、何度も「順番間違ってへんかな?」なんて、あらためてネット見て確認しなおしたり。
男女で肌質や皮脂の違いなんかも勉強になりましたよ。
颯希みたいに髪が肩ぐらいまであると、アレンジもしやすくなりますね。
余談ですが、日多喜瑠璃…ショートボブにしてるのを、もう少し伸ばしてみようかなぁなんてね。
そうなると、カットの仕方も変わるんですね。




