第3章 告白〜8〜
第3章 〜8〜
ライブを終えた充実感。
バンドリーダーとしての思い。
一方で、悩みが深まる莉玖は、その正体を知るべく動き出す。
―まず演る事。
南条の言葉を、Nick Shock ! の3人は何度も繰り返した。
挨拶代わりのセッションは、初対面のプロアーチストとの距離を瞬時に詰めた。
迷いや悩みも、無心に愛器を弾きまくっているうちに払拭した。
それは、音楽に限ったことではない。
おそらく、スポーツだってそう。勉強だってそうだと思う。
打ち込む事で答は見えてくる。
きっと、そうなのだ。
「不安がない訳じゃないけどな」
「それは俺らも一緒や」
「不安は刺激に変えるねん」
―ありがとうな、お前ら。
彰人が、颯希が、いつもついて来てくれた。
そうじゃない。もしかしたら、リードしてくれていたのかもしれない。知らない間に―。
正直言って、まだ完全に吹っ切れた訳ではない。オリジナル曲で観衆とのかけ合いをやるとなると、どこからともなく恐怖心が蘇りそうだ。
しかし…
「数こなしたら、もっともっとテンション上がるやろ」
こんな彰人の言葉がグッと来た。
これだけの言葉で、気持ちが和らいだ。
「よっしゃ! 9月も出るか!!」
「おおっ!!」
「出よっ!!」
彰人が、颯希が、続いて声を上げた。
剛が、ようやく前を向いた瞬間だ。
―んん?
1人でのんびり過ごす休日。
穂花は、電子書籍で漫画を読もうと、スマートフォンを手にする。
ふと見ると、着信通知が。莉玖からのメッセージだ。
『恋に悩んだ時って、その恋に夢中になって打ち込んだら気持ち晴れるんかなぁ?』
「ぷぷっ! 急に何言い出すんや、この子」
穂花は思わず吹き出した。
『何? どうしたん? 暇やし、会う?』
『ごめん。じゃあ、今から…駅前のカフェに行っていいかな?』
『うん! すぐに出るね』
―何で駅前のカフェやねん!
「え? おかしい事言うたかな? あたし…」
颯希がバンドの事で悩んだ時、ひたすらギターを弾きまくったらスッキリしたと言う。
そんな話を何度も聞いた。
夢中になれば、答が見つかる。
それは、今回のライブを観てリアルに感じた事でもある。
ならば、恋も? そう考えるのは、子供じみている気はする。第一自分はそんなに悩んでいるのか?
そんな事を思いながら、莉玖は三条京阪から地下鉄に乗った。
車内には、観光客がビッシリだ。座る事なんて出来ない。両手に荷物を持ち、ドアにもたれかかる。
穂花から、新しいメッセージが入った。
紙袋を両足に挟んで、スマートフォンを取り出す。
『どこ行ってたん?』
『河原町』
『珍しいやん。1人?』
『うん』
東山、蹴上と、観光客が下車していく。
しかし、わずかに空いた席には座らず、そのままドアに体を預けていると―。
『左側のドアが開きます。ご注意ください』
―あ!
下車する乗客達に囲まれた。そして莉玖は、ホームに押し出された。
「ちょ! ちょっと!!」
閉まりかけのドアを叩き、慌てて電車に乗り込む。他の乗客の目線が冷ややかに刺さってくる。莉玖は俯いたまま、隣の車両に移動した。
―ほんま、何やってんねやろ?
JR琵琶湖線との乗り換え駅で電車を降り、JR駅前へとエスカレーターを駆け上がる。
穂花はもう着いただろうか?
改札口に向かって右側へ通路を歩いて行くと、背後から肩をポン!と叩かれた。
「オッス!」
「あ、穂花…」
「何よ、青白い顔してぇ」
―えっ?
悩んでいるから顔色が悪いのではないと思う。きっと、さっきの電車での出来事が恥ずかしく、情けないから。
「さっきって? 何があったん?」
「な、な、な、何もないっ! あ、テイクアウトしてそこの公園行く?」
「あ、あ、いや…あそこはちょっと…」
テイクアウトして公園へ―。
嫌な記憶が蘇るではないか。
「穂花…どしたん?」
―え?
「あ、いや…何でも…で、莉玖ぅ、何買ってきたん?」
「夏物」
「いやん! 見せてぇ」
少し気恥ずかしい。
キラキラした穂花のファッションと比べたら、自分の着る服は地味に感じる。
かと言って、穂花のような格好が出来るかというと、それも自信がない。
今日は思い切って、可愛い色合いのものを買ってみた。果たして、着れるだろうか?
「ボートネックTやな。可愛い」
「そ、そんな事…普通やと思う」
「ううん、たとえばね、今履いてるデニムと合わしても、タックインしたら足が長く見えたりするねんで。今着てるTシャツでも、印象変わるで」
「そう…なんや…」
―用語が難しいわ。
思えば、女子らしい着こなしなど、殆どしてこなかった。
可愛い服を着てもイマイチな気がするのは、その“着こなし”のセンスが垢抜けないからなのかもしれない。
―よしっ!
穂花は立ち上がり、莉玖の手を取った。
「え? 何?」
「ボトムス見に行こっ!」
「ちょ、ちょっと…」
「あたしが見繕ってあげるし。9月やったらまだ夏物着れる時期やし、ライブには思いっ切り可愛い格好で行こっ!」
「あ、あ、あの…」
「大丈夫やて。H&NとかGYとか、安いけど可愛いのん置いてるで」
―ちゃうねん。ボトムスって何?
読んでいただき、ありがとうございます。
そうです。
恋と言えば穂花。
特に記していないのですが、実はラブコメ漫画ヲタなのです。
恋のシナリオは、星の数ほど知っている訳です。
それにしても莉玖っ!
ぼぉ〜っとしてますね。
穂花に助けてもらいなさいっ!!




