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第3章 告白〜6〜

第3章 〜6〜


ライブ当日。

穂花に連れられてライブハウスに来た莉玖は、颯希との少年少女の頃の思い出話に戸惑った過去を思い出す。

「日向君って二重人格よね?」

「そ、そうなんかなぁ…」


 クラスメイトに突然言われた莉玖は、かなり困った。


 二重人格―。

 良い意味で言えば、二面性。悪く言えば、掴みどころのない変わり者。

 どちらの意味で言っているのだろう?

「そんな事はない」と言えば、不自然に否定する事になりそうだ。だからといって「そうだ」とも言えない。


 幼少期から一緒に遊んだ中で、颯希に対し、見て感じてきた事。

 それらが、あらぬ想像を掻き立てる。


「サッちゃんて、あたしと一緒な時とちがう時かある」


 遊びの中で、莉玖は颯希にそう言った。

 そんな記憶がある。

 気が弱かったり、強かったり。

 穏やかだったり、激しかったり。


 そんな言葉に、颯希は意味を取り違えたのだろう。その翌日、両親が見守るその前でこう言った。


「僕、いっつも莉玖と一緒や」


 物事が分かり始めてきた頃の記憶だ。

 莉玖は、颯希の両親の前で少し焦った。



     *


 GWが明けた後、最初の週末。

 Nick Shock ! の3人は、MUSE LABへと向かっていた。

 久しぶりのライブになるが、MUSE LABでのライブとなると2年近く振りだ。


 今回のライブは、持ち時間20分。5組のアマチュアバンドが出演する、言うならば、MUSE LABではルーチンとされる一般的ライブイベントだ。


 選んだ楽曲は、オープニングに定番となりつつあるインストゥルメンタル。そこから「Freewheel Burningフリーホイールバーニング(ジューダス・プリースト)」「Back in Blackバックインブラック(AC/DC)」、「We Rock(ウイロック)(DIO)」へと続く。

 要するにSoundboxで演奏したコピー曲達だ。


 インストゥルメンタルは、オープニング用としてトータル2分程度に縮めてあり、即興ではなく、ある程度作り上げている。

 短い持ち時間の中で披露するには最適だろう。



「今回って、莉玖ちゃん来るんか?」

「観に来るとは言うてたで。たぶん、ほのちゃんと…」


 莉玖には、声はかけたが手伝いまでは要らないと言っておいた。

 場数をこなし、通い慣れたと言っても間違いではない会場だ。周辺環境も、ステージも、楽屋も、久しぶりとはいえ勝手知ったるもの。


 ただ今までと違うのは、自分達はもう高校生ではない事、オリジナルであるインストゥルメンタルをオープニングに組み込んでいる事、そして―、

 礼が居ない事。


 大人達のイベントとなるので、酒類も提供される。これも今までとは異なるが、出演者側にとっては取り立てて影響もないだろう。


「あと1年か」

「何がぁ?」


 ふと剛が呟いた、1年という言葉。突然脱退を表明した時の礼を思い出し、颯希と彰人は少し焦りの面持ちになる。


「3人で酒飲めるのん」

「何や。『やめる』とか言い出すか思たわ。ビックリするやんけ」

「アホォ! 俺がやめたら、地球がひっくり返るわ」

「お前って地球規模の人間けぇ」

 ―どんな凄い奴やねん! あはははははは!


 思えば、この1年は長かった。

 それぞれが身を置く環境が変わった事。

 颯希に至っては、両親と離れて暮らし始めた事など、激動と言っても過言ではない。

 しかし気付けば、まだ3人共19歳。未成年のままだ。


「訂正っ! あと8ヶ月やっ!!」

「そっか、颯希は1月か。よしっ! 4ヶ月縮んだ」

 ―何のこっちゃ。はははははは!


 飲みたくて仕方ない。剛はそんな事を言って笑った。

 3人は、Soundboxの時とは違い、とても和やかで落ち着いている。他のバンドの演奏を聴く余裕さえ見せるが、そんな中でも、剛にはどこか心の奥底に“トラウマ”のようなものが燻り続けている。

 辛さ苦しさを紛らすため、酒に酔う。

 そんなシーンが、ドラマなどでよく展開されている。

 まだ酒を知らない剛だが、飲めば気持ちが楽になる、そんなイメージを持っていた。



「アッくぅ〜ん!」


 会場に着いた穂花が、目敏く彰人の姿を見つけた。

 莉玖はその横で微笑んでいた。


「おおっ! ほのちゃん!!」


 顔が緩む? まさにその瞬間を目の当たりにした剛は―。


「おぉおぉ、お熱い事ですねぇ。はっはは!」


 少し茶化してみる。何でだろう? この2人を見ていると、不思議と癒されてしまう。


 そんな横で、莉玖は颯希を見ていた。

 普通じゃないなんて、そんな事はない。自分と一緒(同じ)なんて事も、きっとない。

 Soundboxでのライブ以後、大人らしく成長し、大人らしく落ち着きを見せる颯希。

 今更ながら、詩織とのやり取りや子供の頃の自分の言葉を思い出し、恥ずかしくなった。

 ライブ直前、颯希のその姿がとても凛々しい。人知れず熱い目線を送ると、莉玖も、穂花と彰人を茶化すように言ってみた。


「タケさんもサッちゃんも、この2人に手ぇ合わしときや!」


 穂花も上手く乗っかってくれた。


「そやで! あたしら“神”やでぇ!」

 ―キャハハハハハ!

読んでいただき、ありがとうございます。


「一緒」っていう言葉には、複数の意味があります。

「同じ」と、「共に」

受け取り方で変わる言葉に戸惑った少年少女。

このライブを機に、何か変わるのでしょうか?


一方で、剛っ! 何をそんなに悩むの?

2人が素敵なメッセージくれたじゃないっ!!

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