第6章 飛翔〜7〜
第6章 〜7〜
Nick Shock ! の登場!!
音はなくとも、熱いステージを感じてください!!
ザワザワと観衆の声が響く会場。
定刻の19:30を少し回り、会場内にYURIの声が響き渡る。
雑談をしていた観衆は、皆、「待ってました」とばかりに声を上げた。
拍手の音が、会場から溢れんばかりに鳴り響く。
剛と彰人、そして莉玖が、まずステージに上がった。
―ドドタン!
ドラムスが、観衆の目線を集める。
ハモンドオルガンがAコードのロングトーンを奏で、グリッサンド。そして―。
ドーーーーーン!!
―わああああああ!!!
耳を劈く程の歓声を全身に浴びて、颯希の登場だ。
心地良いテンポで、彰人がリズムを刻む。即興で始めたオープニング曲『インスパイア』は、莉玖のハモンドオルガンが加わる事で完成した。
颯希のリードギターのフリーソロから、作り込まれたメロディへ。ハモンドオルガンとのユニゾンは、1960年代〜1970年代のロックを彷彿とさせる。
ゲインを落とし、クランチからオーバードライブ程の歪みを持たせたレスポールのトーンは、以前、南条から教わったセッティングによるトーンをモチーフに、自分なりのアレンジを施したものだと言う。
「良い! 良い音出してる!」
これには、剛と彰人も感嘆した。
リハーサルでも良い音とは感じていたが、曲になると本当に素晴らしい。
プロの指導というのは、底知れぬ可能性を秘めている。颯希はその成果を遺憾なく発揮している。
流れるようなメロディから、テンションコード。最早颯希にとって、特技と言ってもいい程に定番だ。
OPテーマ化したこの曲は、2分程度で終わる。
Amの短い音で、ギター、キーボード、ベースは休符に。彰人のバスドラムだけがリズムを刻み続けると、颯希は2〜4弦2フレット、即ちAコードの位置からスライドバーをブリッジ側まで走らせる。
「『クルーズ・オン・ハイウェイ』!!」
彰人が叫ぶと、剛の低音ヴォイスがAメロを歌い上げ、続いて颯希のハイトーンにバトンタッチ。
フルトラックになると、心地良い16ビートに乗って観衆が手拍子を打つ。
「Hey ! Rock 'n' Roll cruise on highway ♪」
曲を知る者は、「Hey ! 」のかけ声と共に歌う。その盛り上がりが心地良い。
「♪遠くから 友の声が この背中押す
そんな風に 感じたのなら そういうことにして
欲しいのなら 手に入れろ 今は無理だとしても
道は続く その向こうに 掴むべきものがあるはず
Hey ! Rock 'n' Roll cruise on highway ♪」
剛はふと思った。
自身に悩み苦しむ中で、颯希は答えを導き出そうとしていた。
詞の中の友、そこに自分も含まれるのだろうか。
まだ右も左も分からない小学校で、突然名も知らぬ女子から声をかけられ、女の子みたいな男の子を紹介された。
颯希との、そして莉玖との付き合いは、そこから始まった。
2人が自分の事を「友」と呼んでくれるのなら、今は最高に嬉しいと思える。
少しテンポを落とし、颯希のギターがリフを奏でる。
街の真ん中で泣き伏した、恋の物語。
『Girl 's on the Street』
泣いたって負けない。きっとこの恋は、自分の元へ戻ってくるから!
そんな意味が込められたロックンロール。
Bメロに入ると2/2拍子に変わる。力強さを感じさせるヴォーカルには、やはりかけ声のようなバックコーラスが入る。
曲の流れが分かると、観衆もそこに合わせて腕を振り上げる。
間奏はお馴染み、颯希のギターソロだ。
そして、自信たっぷりに莉玖がハモンドオルガンを重ねる。
そうだ。この楽曲は、少し前の莉玖の心境をモチーフにしているのだ。
エンディングには、その恋は叶う。そして、もう離さない。
ステージの袖では、南条が腕を組み、安心感にも似た笑みを浮かべていた。
凝った演出をしている訳ではない。楽曲そのものが観衆を魅了している。そんな様子が全身に伝わってくる。
颯希がプロミュージシャンの肩書きを得た。
一緒にステージに立つ者として、バンドメンバーも生半可な腕ではいけない。颯希を引き立てるような演奏では、何も起こらない。
颯希が凄腕なら、皆も凄腕にならなければ。
バンドとは、バランス。音楽は、音の一つひとつを紡いでゆき、重なり合って完成するもの。
剛は、彰人は、莉玖は、それを知っている。知っているからこそ、練習を絶やさなかった。
今、Nick Shock ! は本当の意味で一体となった。
ステージの袖で、南条はそんな風に観ていた。
ステージ上で、莉玖は颯希を見た。
その時颯希は、莉玖を見ていた。
『Girl 's on the Street』が終わると、ここで4人は初めて音を止めた。
歓声と拍手がようやく鎮まると、いつものように剛がMCを入れる。
「こんばんは! 肉食のNick Shock ! です」
外国人男性の名を想像させる「Nick」は、実は“肉”だ。そして「Shock」は食。肉食イメージのロックを演っていきたい思いから、剛が考案したバンド名だ。
拍手と共に、少し笑いが起こる。これも狙いどおりだ。
「メンバー紹介します!」
胸が高鳴る。伝えたい事、今この場で振られれば、その時こそ伝えるチャンスだ。
「ドラムス…さっきから見事なドラミングを見せてくれている、イケメンゴリラ。ゴリこと、柳井彰人!」
―わああああああ!
「コイツ…人の事、ゴリラ言うたなっ! あぁ、お前は男前さっ! そんな漢・タケこと、松山剛!」
―わああああああ!
「そして今回、お気付きでしょう! Nick Shock ! に、新たにキーボードが加わりました。我らが地下アイドル…」
「おいおいっ! 地下は要らんねんっ!」
―わはははははは
「我らがアイドル、福島莉玖!」
―わああああああ!
ちょっとしたツッコミに笑いがあった。莉玖は少し緊張が解れ、目の前のスタンドからマイクを取った。
「あ、あの…」
読んでいただき、ありがとうございます。
始まりましたね!
毎度ライブシーン書く時に思うんです。
音を表現する言葉って、少ないんですね。
いえ、沢山あるんですけど、楽器ひとつひとつを、そしてそれぞれのニュアンスまでも言葉で表現するなんて、ほんと難しい。
そんな時に、もっと表現する言葉があれば…なんて思う訳です。
今回のライブ、ガッツリお楽しみいただこうと思っています。
そこには大切な部分ももちろんある訳で…




