無防備なる師匠を
「しっ、師匠、危ない!」
ドラゴンは僕が声を上げる前に踵を返して、僕とは逆方向の、離れた所に居る師匠の元に、その巨体には似つかわしくない速度と軽快さで駆けている。
師匠ほどの実力者なら心配は無粋のはずが、今は状況が違う。
彼は魔法を構築している最中だ。
魔法の構築は魔法の規模が大きいほど集中力が要るため、咄嗟に動けないそうだ。
この様子では、先程の石の雨を降らせた魔法よりも規模が大きそうだ。
つまり、相当の隙ができる。
僕の剣、延いては僕がターゲットだと思っていただけに、この様な大胆な行動に出たのだろう。
とにかく師匠は、現在無防備だ。
僕がドラゴンを足止めしなくては。
死にはしないだろうが、負傷は免れない。
そうなれば、勝機が完全に消えてしまう。
不慣れな風魔法で吹っ飛ばされない程度に追い風を起こすが、飛翔速度が全く足りない。
師匠とドラゴンとの距離は残り僅か。
もう時間が無い、こうなったら……。
「ウェルテクス・エピタキンシ」
師匠が兵士を逃す時に唱えた魔法を模倣する。
……唱えたが、特に変わったことは起きていない。
効果は判る。 これを受けた兵士は急に加速していた。
そしてこの魔法は風魔法だったか。
風による加速――。
「ウェルテクス・エピタキンシ!」
すると、背中を押されるような感触。
強風が後ろから吹き出したのだ。
概ね予想通りとはいえ、思ったより威力が強い。
……そういえば師匠はこの魔法を地上で使っていた。
「わぁあああ?!」
必要以上に風に煽られた僕は著しく加速する。
思っていた以上に速い。
辛うじて目を開けるが、凄まじい風圧だ。
一秒毎にドラゴンとの距離が一気に縮んで行った。
まずい、このままでは衝突してしまう。
しかし止まる訳にもいかなかった。
もう師匠はドラゴンの間合いの中なのだ。
それを視認した僕は魔法の勢いを緩めることなく、剣を強く握り前に出す。
「止まれーーーっ!」
ドラゴンが振り向くと同時に、こちらも剣を振り切る。
硬いものを切り裂く感触。
偶然ドラゴンの首元に突っ込んだことで、急所へ攻撃できた。
「――――――ッ!!」
声にならない叫びを上げ、ドラゴンは狼狽えつつ僕たちから距離をとる。
追い打ちを掛けたかったのだが、何故か風魔法が発動せず、更にとてつもない疲労感を覚えた。
「ま、待て……」
歩みが覚束無い。
剣を握る手にも力が入らない――入らなくても勝手に握らせられるが。
そうだ、師匠は無事だろうか。
先程まで彼が立っていた場所を見る。
しかし、誰もいない。
「……、あれ……?」
辺りを見渡しても師匠は見当たらない。
魔法が発動した様子すらもなく、まるで最初からここには誰もいなかったかのようだった。
一体何処に……。
「悪かったな、心配かけて」
上空から、声。
驚いて見上げると、師匠はそこに居た。
「師匠!」
上手く行きました
改稿 (20/10/12)
1字下げ
修正 (20/10/27)
誤字修正




