石版印刷
スライムとの死闘の後に師匠は、弓を持ったモンスターと目隠しをして闘えだの、魔法を維持しながら剣を扱えだのと、多様な条件を付け足しつつ召喚を繰り返した。
そして今、僕が素手で骸骨のモンスターを殴り倒して、打ちのめされた骸骨が消滅し始めた時、長い訓練は終わりを告げた。
「おし、そろそろ時間も近づいてきたし、終いにすっか」
休憩も入れていたとはいえ、ほぼ連戦のようなものだったから、僕は息が上がってしまっていた。
「あ、終わりですか……。 ふぅ……」
痺れる拳を労りながら、鍛錬場にゆっくりと腰を下ろした。
空を見上げると、日はかなり高い位置にあり、戦いの本番が近いことを知らせてくる。
「疲れただろうが、無論、無駄な事は一切してねえ。 今やったどれもが戦闘に役立つ技術だ」
ならば二つほど前にやらされた、右足の小指で攻撃する訓練も無駄ではなかったのだろう。
半信半疑の目を師匠へ向けていると、どこからか石版を取り出した。
一見、変哲もなく、小綺麗な石の板という感じだが……。
「どれ、ちょいと成果を確認するか。 ……動くなよ、聖魔法『ファクルタス・アポカリプシィ』」
師匠が石版をなぞりながら唱えると、石版は眩く輝き始めた。
一体どのような魔法なのか、皆目見当もつかない。
けれど、この光を見ていると、何故か落ち着くような気がする。
やがて光が収まると、石版には白い文字が刻まれていた。
師匠はそれを眺め、納得したように深く頷いた。
「上々の出来だ。 これならドラゴンに……負けることは、ほぼないな」
”負けることは”……。
勝てるとは言わない。
つまり、相打ちの可能性を指しているのだろう。
大陸の人達からすれば、僕が死んだとしても、ドラゴンさえ討てていれば何ら問題は無いのだから当然だ。
とはいっても、見ず知らずどころか、異世界の人達のために犠牲になるほど僕は善人じゃない。
可能であればの話だが、どうにも勝ち目がないようであったら、躊躇なく僕だけでも逃げ出すつもりで……。
「嫌なら、逃げたって構わねえぞ」
……え?
「大陸の人間だって、馬鹿正直に残るわけじゃない。 ……まあ、生まれ故郷を手放したくないって、奴も時々いるが、結局自分の命が大事なんだ」
心を見透かされたようで、言葉を失う。
「実際に今までも、結構な数の召環者が逃げたり、自棄になって取り押さえられたりした。 悪炎竜は討伐されないが、永遠に残るわけでも、世界を滅ぼすってわけでもない」
師匠は話し続ける。
「だから、逃げたって俺は責めねえし、追いもしない。 正直なこと言うと、お前が負ける可能性と逃げる可能性、足したって大して変わりやしないんだ」
初めてパソコンから投稿するので少し遅れてしまいました。
申し訳ない…。




