スライムって何だっけ?
魔法陣から湧き出た緑色の液体は、独りでに一箇所へと流れ込み、ビーチボールが潰れたような大きさと形になった。
それは先程までのドロドロの様子とは打って変わって、膜でも張ったかのように纏まりがあり、プルプルと弾力があるかの様だ。
しかもよく見ると、向こう側の地面が少し見える程度に透き通っていて、まるでゼリーの様だった。
しかし、それっきりその物体は殆ど動かない。
魔石陣の上に、ただ、ぽよぽよしているだけだ。
倒せと言われても……、これ、モンスターなのか?
「師匠……、これは?」
ところが、僕が声を発するや否や、緑の物体は蠢き出し、突如僕の方へと、勢いよく飛び掛って来た。
驚いて咄嗟に剣を前に出してしまったが、物体は刀身を空中で躱し、そのまま僕の片腕に接触して来た。
「な、なんだ……? って、痛っ!」
物体がくっ付いている辺りの肌にピリピリと、鋭い痛みが走る。
まるで酸でも掛けられたかのように皮膚が熱い……、掛けられたことないけど。
慌てて腕を振り回すと、物体は大方振り落とせたが、皮膚の表面には成分が残っているのか、痛みは続いている。
「おいおい、何やってんだ。 スライム如きにしてやられてたら、ドラゴンなんて夢のまた夢だぞ」
スライム……、スライム?
僕が先ず連想したのは、液状のアレだ。
一時期流行になって、ご家庭で自作! なんてこともあったが、今みたいに人体に害をなすような危ないものだったか?
いやいや、こっちのは明らかに敵意を持って襲いかかって来た。
そんなものをご家庭で自作しようものなら大惨事だ。
辻褄が合わないことに気づき、ようやく僕はもう一つの”スライム”を思い出す。
ああ、ゲームのスライムか!
RPGやなんかでは、常日頃から最弱の敵として親しまれているあのスライムだ。
ゲームによっては、再生能力が高く、集まって巨大化したりと、難敵として現れることもあるのだが、それでもあのプルプルしたフォームも相まって弱いイメージが拭えないのだ。
あれ、そしたら僕、そんなスライムに正面から打ち負けたのか……?
「何突っ立ってんだ? 時間もねえ、さっさとぶちのめせ!」
そうだった、ショックを受けている場合ではない。
どの道、僕はこの後ドラゴンと戦うことになるのだから。
それにしても、確か条件とやらは、『魔法を使わずに十体討伐』だったか?
これは……、骨が折れそうだ。
なんたってスライムは、数多くの作品で物理攻撃が有効打になり得ない。
つまり、それほど打たれ強いのだ。 奴らの弾力と粘度は伊達じゃない。
といってもそれは、あくまでゲームの話だ。 ……多分。
実際やって見たら、案外『スパッ』と行くかもしれないしな。
如何せん、僕の剣も、切れ味だけは半端では無いのだ。
件のスライムは、今にも此方に飛び掛ってきそうだ。
さっきは驚いて不意を取ったが、今度は当ててみせる――。
それから五、六分は経ったと思う。
楽観視して剣を握ったが、しかし嫌な予感は的中して、スライム相手に全く歯が立たない。
格好つけて『今度は当ててみせる――(キリッ)』とか心の中で呟いたまでは良いのだが、そもそもスライムに剣が通らない。
さすが粘体と言うべきか、空中で華麗に身をよじるせいで、剣筋を巧みに躱されてしまう。
稀にど真ん中に来れば、辛うじて刀身は当たるのだが、持ち前の弾力で『ポヨン』と受け流されてしまう。
正直、お手上げだ。
もはや意志の強さだとか切れ味だとか関係ないと思う。
魔法さえ使えたら、燃やすなり凍らすなりやりようはあっただろうが……。
「師匠、ダメです……、こいつ、軟らかすぎる……」
何度剣を振るっても悉く回避され続け、情けなくも、弱音を吐いてしまう。
それ程までに疲れてしまった。 特に心が。
僕がそう言うと、師匠は溜め息を一つついて口を開いた。
「ったく、情けねえなぁ。 もし自分で気付けたら戦闘センス抜群ってとこだったんだがな」
気付く? 何を言っているんだ?
文字数の割に展開が遅い……!
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