やっぱり魔法が使いたい
本当に静かな夜だ。
鍛錬場での喧騒が未だ頭に反響している。
窓からは仄かな月明かりが差し込み、優しく部屋を照らしていた。
「ぐぇぇ……、疲れた……」
男が去ってから、程なくして食事が運ばれた。
その後、魔法だか何だか知らないが、体温くらいに温められたお湯で汗を流すことが出来た。
剣がやはり手から離れないので、かなり手間取ったが、それを除けば意外にも快適に過ごせている。
異世界というのは不便なものだと勝手に思っていたが、魔法以外の元の世界との著しい差は無かった。
人の欲求なんてどの世界でも大差ないということだろう。
それより、その後が大変だった。
確かに鍛錬はしなかったものの、戦いに際しての知識を授業形式で一気に詰め込まれた。
間合いと踏み込み、剣の詳細に属性相性まで……。
一つ一つ確認する暇もなく矢継ぎ早に言われたので、全て合点したのは三度メモを見返してからだった。
今しがた整理がついたせいで、頭が変に冴えてしまっており、疲れているのに当分寝付けそうにない。
「ゲームしたいな……」
今この願いは白昼夢に過ぎないと分かっているが、それでもつい言葉を零してしまう。
部屋の一角に本でぎっしりの棚があるが、当然ながら言語は日本語ではなく、さっぱり楽しめない。
暇潰しに、僕は魔法とやらの自主練習を始める。
目の前で何度も見せてもらったが、自分が使えないとどうにも実感がない。
「えっと……、フランマ・ケオだったっけ……?」
魔法名さえ、うろ覚えだ。
当然、どういう意味かも分かってない。
名前に意味があるからば、何語なんだ?
――何語?
男が使った魔法の中で、やけに聞き覚えのある言葉が入っていた気がする。
「フランマ・カタルシス……?」
そうだ。 男はこれを詠唱して炎を起こした。
『カタルシス』……。
それこそ何語かは忘れたが、確か心理学の用語で、意味は『浄化』、だったか……?
そして二つの魔法名に共通して入る、『フランマ』。
こちらは全く馴染みがないが、どちらの魔法も炎属性だった。
『フランマ・ケオ』は実際に見ていないが、それも火に関係するのだとしたら、共通項は『火』……。
「火による浄化……、火を以ての浄化……。 『フランマ・カタルシス』」
呟いた瞬間、全身が焼けるように熱を帯びる。
掌から生まれ出た烈火が部屋を眩く照らした。
「やばっ! 部屋が燃える……!」
まさか本当に出来るなんて思わなかった。
「どうやって消すんだこれ……!」
無論、初の魔法なので扱いも分からない。
焦る僕を嘲るように、炎は盛んに燃えている。
腕に力を込めてみるが、特に変化は見られない。
掌を閉じようと剣を持つ手で抑えても、それ以上に火の勢いが強い。
「消えろ……、消えろ……!」
声を上げると、今までの試みが馬鹿らしいほど簡単に火が消えた。
剣の特性や魔法の起こし方と同じく、”結果を所望する”のが重要らしい。
一気に気疲れした。
魔法が使えたのは嬉しいが、流石にもう眠たくなってきた。
詳しいことは明日、師匠に聞こう……。




