ドラゴン戦前夜
「迷宮……ですか?」
「おうよ」
何だか、訝しむというより、段々と楽しくなってきた。
「稀に内部構造が変わったり、定期的にモンスターや宝箱が再配置されて、ボスが出現したり……?」
僕の勝手な迷宮のイメージを列挙した。
「よく知ってんな。 お前の世界にそういうのは無いと思ってたが……」
合ってんのかい。
ゲームや小説なんかじゃよくある設定だと思うが、それを言うのも少し野暮な気がしたので、
「似たものがあったんです」
とだけ言っておいた。
「まあ、迷宮で取れる素材は、迷宮外で採れるものと同様に需要があるからな。 命を落とす事もあるが、それでも一攫千金の夢に憑かれて迷宮探索を生業とするやつも多いんだ」
そういう意味では、一次産業みたいなものか。
しかし知れば知るほど奇妙な世界だ。
つい昨日までの空想を、次々と目の当たりにしている。
こんな世界が在ればなと、思ったことがない訳じゃないが……。
「そんじゃ、話をする元気もあるようだし、休憩も終わりにすっか。 後半の練習メニューは、手始めに鍛錬場十周だ!」
しまった、自分で自分の首を絞めていた。
もう少し休んでいたいが、言ったところで彼は聞く耳を持たないだろう。
大分日が傾き、辺りも暗くなり始めていた。
鍛錬場に居た兵士らも、いつの間にかその殆どが姿を消していて、残っているのは数人くらいだ。
「……そろそろ潮時だな。 予定の八割くらいしか終わってないが、まあいい、想定内だ」
両足を縄で縛られた状態で男の攻撃を避けさせられていた僕に、その言葉は意外だった。
「え、もう終わりですか?」
てっきり日が暮れても続けると思っていた。
「なんだ? まだまだ足りねえってか?」
「違います」
危ない。 言葉を選び損ねるとすぐこれだ。
「……冗談だ。 鍛錬は無論まだ必要だが、散々動いた分、疲れを取るのも大事だ」
確かに男の言う通りだ。
そもそも、ドラゴンとの決戦は明日なのだ。
鍛錬をし過ぎて疲労困憊の状態で戦うとなれば、それこそ勝ち目はないだろう。
「てな訳で、今日のところはお終いだ。 城の客室まで案内してやる」
男は鍛錬場の出口に向かいながらこちらへ手招きした。
急ぎ向かおうとするが、程なくして転倒する。
「足の縄、解いてくださいよ!」
城内の広い廊下を、応接間とは逆の方に曲がった先にある部屋に僕は通された。
大きめのベッドに、タンスやテーブル等、最低限の家具が揃っており、どれも高価そうである。
「んじゃ、今日はここに泊まってくれや。 後で食事を運んでくる」
至れり尽くせりだ。 疲れすぎて身体を動かすのも億劫なので助かった。
「マローガ・ドラコが現れるのは恐らく明日正午と推測される。 それまでに、軽くだが鍛錬と、幾つかの技術を教える。 しっかり休んどけよ」
やはり明日も鍛錬はあるのか。 それどころか、本番さえ……。
鍛錬場一周は300mくらいを意識しています。
それより、台詞が前言ったことと被っていたらお見逃しください……。




