48.対峙
魔道鏡に映し出されたのは、ダンジョンにいるのが不思議な小さな少女だった。
くりっとした瞳の可愛らしい顔をしていて、髪は黄色だった。
着ていたのは水色のワンピースのような服。
「魔導人形フェーデ。プロフォンドゥム製でございます」
ファティが信じられないことを口にした。
あの少女が魔道人形⋯⋯? とてもそうには見えない。
動きも滑らかなのでどこにも違和感がなかった。
「あの魔道人形の強さは、おそらくランク10の戦闘系に匹敵すると思われます」
「じゃあ、ランク10が三人いるみたいなものだね⋯⋯」
「キョーコ様。申し訳ございません。私が警戒を怠ったばかりに、書庫アグノイアまで侵入されるという結果を招いてしまいました」
突然ファティは謝罪を始めて、頭を下げた。
「何でファティが謝るの? 謝る必要はないよ。ダンジョンはいつか攻略されちゃうものだと思うし、それにルベルさんも望んでいたんでしょ? 自分の芸術が見られることを」
私の言葉にファティは頭を上げると
「はい。仰る通りでございます⋯⋯」
と答えた。
「それではいかがなさいますか?」
「ん?」
「侵入者たちが書庫アグノイアから出て行っております。さらにダンジョンの奥に向かうつもりかも知れません」
魔道鏡の方を見るとファティの言うとおり、書庫から人がぞろぞろと移動しているのが映っていた。
『ここにこれほどの物があったのだ。さらに奥には一体どれほどの物があるのか』
赤い鎧の人の口元がニヤリとしていた。
魔道鏡が別の所を映し出すと
『待って! もう少し、もう少し待って〜』
と本棚から本を手当たり次第、収納魔道具に入れているエミリーさんの姿があった。
そのエミリーさんの腕を引っ張り
『ほら、もう行くぞ。また来れる』
と引きずるように連れて行く、ガイウスさんの姿も映り込んだ。
私は魔道鏡を見ながら
「この書庫の先には何があるの」
とファティに聞いた。
「目と鼻の先に、とこしえの大地に続く門がございます」
「えっ!? それってやばくない⋯⋯」
「何故でございますか?」
「門を通ったら古代級地龍のウヌスさんがいるでしょ」
「はい。おりますが⋯⋯」
ファティはそれが何か? って感じだ。
「ウヌスさんに勝てると思う?」
「いえ、あの者たちでは、ウヌスに勝つことは不可能でございます」
「そっか。じゃあ、この世界に蘇生魔法ってある?」
「あることはありますが⋯⋯」
「あるんだ!」
「はい。ですが蘇生魔法を使えるのは霊盃の巫女様と神龍のみでございます」
「あー⋯⋯」
私はその霊盃の巫女らしいけど、精神に負担がかかり過ぎるって理由で、魔法が使えなくなってるし。
霊盃の巫女以外に使えるのは──
「その神龍? は人が死んだ場合、生き返らせてくれるかな」
「いえ、人間を下等生物としか見ていない、忌ま忌ましい奴らでございます」
「そ、そうなんだ⋯⋯」
このまま見過ごして、死なれても困るし⋯⋯
「止めに行こう」
「キョーコ様がお望みであれば」
急いでファティの転移魔法で、とこしえの大地に続く門の前まで転移した。
まだ誰もいなかったので、ここにはたどり着いていないらしい。
と思っていたら門の正面にある通路に人影が現れた。その人影が近付くにつれて顔がはっきり見えてくる。
最初に現れたのは迷宮探索者ランク10のエルザさんとフォルティスさんだった。
そのすぐ後ろからフェーデちゃんが続く。
本当の名前は魔導人形フェーデらしいけど、そう呼びたくなかったので、勝手にフェーデちゃんと呼ぶことにした。
三人は私とファティに気付くとその歩みを止めた。
エルザさんとフォルティスさんが、鋭い視線を私たちに向けてくる。
フェーデちゃんだけが、変わらない可愛い瞳でこっちを見ていた。
「貴女たちは?」
最初に声をかけてきたのは、エルザさんだった。
「何者だ?」
エルザさんに続いてフォルティスさんは警戒するような低い声を出した。
フェーデちゃんは無言で、じっとこっちを見ている。
やがてその三人の後ろから、ガイウスさん、獣人の傭兵セルウィさんが続いて現れた。
「何で立ち止まってんだ。何か──」
ガイウスさんは私たちに気付くと、言葉が一瞬途切れて
「きょ、キョーコじゃないか! お前まだ低ランクのはずだろ。低ランクはこんな下層まで潜っちゃいけないって、わかってるよな」
と続けたので私は思わず笑ってしまった。気になるのそこなの?
「あ、貴女たち!」
ガイウスさんのあとから現れたエミリーさんも私たちに気付いて、警戒するような声を出した。
その側にはダークエルフのパルティアさんもいる。
エミリーさんは私に見られると、顔を強張らせてガイウスさんの後ろに隠れた。
「どうして立ち止まっている。おお! すごい門ではないか! んっ?」
やたらと目立つ赤い鎧を装備している人が、喋りながら現れた。
「貴様は⋯⋯見たことがあるぞ。そうだ。謁見の間で無礼な振る舞いをした黒髪とメイド」
私は貴方のことを思い出したくなかったんだけど。
「それで貴様はここで何をしている? その門の奥の財宝を独り占めにでもする気か?」
「私はただこの門の奥には行かないほうがいいと、伝えに来ただけです」
「何! 黒髪。やはり財宝を独り占めにする気か!」
私の言葉に赤い鎧の人──いや、宰相は勘違いをしている。
「この門の奥に財宝があるかどうかは、わかりませんけど、大変危険なところです」
「何故貴様にそれがわかる」
「門の奥を見たことがあるからです」
「⋯⋯ではどのような危険があるというのだ」
「古代級地龍がいます」
私がそう言った瞬間、ざわめきが起こった。




