47.ランク10
『──これは世紀の大発見だ! ダンジョンにこんな素晴らしい書庫が眠っていたとは。まるで先程まで使用されていたみたいに、綺麗ではないか。みな喜ぶがいい! この発見によって私たちの偉業は、後世にまで語り継がれるだろう!』
青色の長髪の男性が書庫アグノイアの中で、舞台俳優みたい両手を広げ、興奮気味に語っていた。
それにやたらと目立つ真っ赤な鎧を装備している。偉い人なのだろうか。
というかどこかで見たことある顔のような⋯⋯
それにしても音声も聞こえるんだね。この魔道鏡も、きっとすごいレアアイテムなんだろうな。
──あれ?
魔道鏡の中に見知った別の顔が映し出された。
書庫アグノイアを舐めるように、視線を彷徨わせている。
驚いたことに、その人は千里眼店主のエミリーさんだった。
なぜ彼女がこんな所にいるんだろう。
『すごい! すごいわ! 本物よ! ここは伝説でのみ語られていた、書庫アグノイアで間違いないわ。この壁画が一番の証拠よ。霊盃の巫女ルベル様の天井画──』
エミリーさんは喜びを隠しきれないといった様子で、ルベルさんが描いた幻想的な風景の天井画を指差していた。その側にはガイウスさんの姿まであった。
よく見ると知っている顔は、この二人だけじゃなかった。
本を手に取って読んでいる人たちの中に、ダークエルフの女性の姿を発見したのだ。
巫女姫様を誘拐しようとした賊の中にいた凄腕アーチャー。
立って本を読んでいるその姿は、美貌とスタイルの良さも相まってとても絵になっていた。
「あの人は⋯⋯」
「傭兵のパルティアでございます」
「知ってるの?」
「はい、そこそこ有名でございます」
「ヘー」
次に姿が映ったのは、魔道鏡からでもわかるほど巨躯の人物だった。
その顔はフルフェイス型の兜をしていて見えなかったけど、その巨躯とプレートメイルで、私と斬り結んだあの獣人剣士だとわかった。
「あの人は知ってる?」
「傭兵のセルウィでございます」
「パルティアさんと一緒だね」
しかし不思議なんだけど、どうして二人が書庫にいるんだろう。
巫女姫様を拐おうとした賊と一緒に、捕まったはずなのに。
まあ、今はそのことを考えてもわかるはずがないので、目の前のことに集中しないと。
「この魔道鏡って、映したいところを自由に映せるの?」
「はい。私の魔力で動かしております。ですが書庫アグノイアの中だけ、という制限がございますが」
「それだけでも凄いけど。じゃあ他の場所は映せないんだ」
「魔道鏡は一対のアイテムでございまして、目の役割をする物が一つしかないのでございます」
「あーそういうこと」
色々な場所を同時に見れないとしても、十分に役立つアイテムだ。
そう思いつつ何気なく魔道鏡に映し出される書庫を見ていたら、明らかに周りの人たちとは違う雰囲気の人がいた。
その人物を見たとき、最初に頭に浮かんだのは勇者という言葉だった。
セミロングの美しい銀髪に、銀色に輝く意志の強そうな瞳の美女。
その身につけている胸当ては、装飾の入ったとても高性能っぽい装備品だった。
腰に佩いている剣は片手剣らしく、こちらも胸当てと同様に鞘と柄には、美しい装飾が施されている。
「彼女はランク10の迷宮探索者、エルザ様でございます」
私が銀髪の女性に注目していたのを察して、ファティが情報を教えてくれた。
「ランク10って最高ランクだよね! あの人が迷宮探索者の頂点⋯⋯なんかかっこいいね」
「さようでございますか? 私はキョーコ様の方がかっこいいと存じます」
「──そ、そう? あ、ありがとう」
ファティが真面目な顔をして、突然褒めるので照れてしまう。
「あ、あの人が誰なのかわかる?」
私は照れ隠しに、ちょうど魔道鏡に映った赤い髪の人のことを聞いた。
この人物もエルザさんと同様に、一際存在感を放っている。
髪と同様に瞳の色も赤く、獲物を狙うように爛々と輝いていた。
装備している重そうな鎧は凝った装飾がされていて、とても高そうだ。
背中にはグレートソードだろうか、とても威圧感のある大きな剣を背負っていて、なんかとても歩きにくそう⋯⋯
「エルザ様と同じく、ランク10のフォルティス様でございます」
「ランク10が二人も!」
「これで理解いたしました⋯⋯何故、書庫アグノイアまで侵入されたのかが。本来このお二方は一緒のパーティーを組むことなどあり得ないのでございます」
「そうなの?」
「はい。出身国が違う高ランク者は、他国のダンジョンに潜れない決まりになっております。エルザ様はこの国の、フォルティス様は帝国出身でございますので」
「そうなんだ。でも潜っているよね⋯⋯」
「はい。そこが解せないところでございます。ランク10ともなれば一人で、国の軍事バランスさえ崩しかねない存在でございますので」
軍事バランスを崩すって⋯⋯ランク10ってそんなに強いの。
その二人が揃って巫女の神域の攻略を始めちゃったら、最下層の十階にたどり着くのも不思議じゃないのかも。
「それにしても魔道人形が完成しているとは、思いもよりませんでした」
「魔道人形?」
「あれでございます」
ファティが魔道鏡に指を向けた。




