22.巫女姫
不審者を追い払えたので、私は少女のそばに戻った。
不安そうな表情はしていたけど、怪我はしてなさそう。
さっきは不審者のせいでゆっくり少女のことを見れなかったけど、改めて見るとびっくりした。
とても可愛らしい少女だったから。
年齢は十代前半のようで髪と瞳は綺麗な青色をして、どこか儚さを感じさせるような雰囲気を持っていた。
「大丈夫?」
「は、はい」
私が声をかけると少女はまだ襲われたショックが抜けてないのか、弱々しく返事をした。
「家まで送るね」
「あ、あの、その⋯⋯」
なぜか少女は答え辛そうに言いよどむ。
「キョーコ様。このお方は巫女姫様でございます」
「巫女姫様?」
「はい。巫女様のお世継ぎでございます」
「お、お姫様!」
本物のお姫様に会うなんて当然だけど初めてだった。
でもそんなお姫様がどうして一人なんだろう。
超VIPだよね。
「お供の人はいない──あっ、いないんですか。まさかさっきの不審者に、やられてしまったんですか?」
いくら年下に見えるといっても、お姫様にタメ語はまずいと思い慌てて言い直す。
私にもそれくらいの常識はあるつもりだ。色々と常識外れのことをしている自覚はあるけど⋯⋯
「いえ、共は連れて来ていません⋯⋯私は宮殿と上層から滅多に出れなくて、でも直接外の世界も見たくなってしまって⋯⋯それでひとりで」
どうやらひとりで宮殿から飛び出してしまったらしい。なかなか行動力のあるお姫様みたい。
「事情はわかりました。宮殿までお送りしますので、今日のところは帰りましょう。宮殿の方が心配していると思いますし」
「わかりました⋯⋯」
私の提案に残念そうな顔をしつつも、頷いてくれた。
まだ帰りたくないんだろうけど、そういうわけにはいかないし。
「キョーコ様、馬車をご用意しますので、少々お待ちいただけますでしょうか」
「うん。それはいいけど。この人たちはどうしよう?」
ファティに気絶させられた男女二人の不審者が、まだ地べたに横たわっている。
このままほっとくのは良くないし。
「放置いたしましょう」
「──えっ!?」
「警備隊の詰め所に運ぶのも手間でございます。それとも巫女姫様とご一緒に詰め所に参り、あとはすべて警備隊にお任せいたしますか」
「巫女姫様。私たちと一緒に宮殿に戻るより、このまま警備隊の詰め所に行きませんか?」
ファティの話を聞いて、私はその方がいいんじゃないかと思って提案した。
でも巫女姫様は頭を横に振った。
「このままご一緒に宮殿まで戻ることはできないでしょうか? もう私の名前はご存じだと思いますが、名乗らせてください。私はメアリ・レクス・グラールと申します」
そう言われて、まだ私たちも名乗っていなかったことを思い出した。
「私は楽堂響子と申しまして──」
と名乗ってから、ファティの方に顔を向けると
「ファティと申します」
と意図を汲んで名乗ってくれた。
「ガクドウキョーコ様⋯⋯不思議な響きのお名前ですね」
「そうかもしれません。遠い場所からこの国にやって来ましたので」
「キョーコ様は旅をされているんですか」
召喚されて異世界に来たので、ある意味そうかもしれない、もう帰ることはできないと思うけど。
巫女の神域に住んでいます。とも言えない。
「そんな感じです」
結局そう言葉を濁すしかなかった。
完全な嘘をついてるわけでもないし。
「素敵です」
巫女姫様は旅に憧れでもあるのかな。宮殿を飛び出すくらいだし。
「では馬車の用意ができるまで、ここで巫女姫様をお待たせさせるわけにはいかないから、どこか座れる場所を探そう」
「かしこまりました」
「いえ。私はここでも⋯⋯」
巫女姫様は遠慮したけど、このままここにいるのは危険だと思う。
「この不審者の仲間が、またここにやってこないとも限りません。移動した方が安全です」
「わかりました⋯⋯」
巫女姫様は私の意見に素直に頷いてくれた。
ファティは気絶している男女の不審者に近寄ると、手をかざした。
すると二人の不審者の身体が淡い金色の光に包まれる。回復魔法をかけてくれのだ。
仕方ないけど、不審者はこのままここに置いていくことにした。
回復魔法をかけたし大丈夫だよね。多分⋯⋯
逃げていった女の魔法使いから私が奪ったロッドは、気絶している二人のそばにそっと置いた。
移動を開始する前に巫女姫様の顔を見られて、騒がれないようにしたほうがいいかな。多分、有名人だろうし。
「巫女姫様。帽子などお持ちではないですか」
「持っていたのですが、走って逃げている最中に無くしてしまいました」
「そうですか」
「それでしたらこれをお使い下さいませ」
ファティはそう言うと収納魔道具から何か大きな物を取り出した。
それを広げて見せると、フードのついたローブだった。しかもとても高級そうだ。
美しい純白の生地に、ところどころにさり気なく青と金の刺繍が施されている。
ファティは巫女姫様の背後に回ると、そのローブを着やすいように持った。
「どうぞ。お召しくださいませ」
「えっ!? でも⋯⋯こんなすごいローブ⋯⋯」
「ご遠慮なさらず、どうぞお召しを」
巫女姫様はローブを着なければ移動できないと思ったのか、遠慮がちに袖に手を通した。ファティは慣れた手つきでローブを着せていく。
ローブを着終わった巫女姫様は、とても似合っていてキュートだった。
でもフードで目立っていた青色の髪を隠すことはできたけど、今度は逆にローブで目立ちそう。
まあ、巫女姫様と気付かれなければいっか。
「それでは、行きましょう」
私が出発を告げると
「はい」
「かしこまりました」
と巫女姫様とファティが返事をした。
 




