6Chain.豆タンク無双
(ウソだろ……なんかスキル発動したままで動けるようになっちゃったんですけど?)
レベル99になったからなのか?
他に考えられないから、きっとそうに違いないとは思うが、オレの頭が足りないから気づかないだけで、実は他に原因があるのかもわからないが、とりあえず普通に考えてレベル99になった時点で急に動き出したわけだから、きっとそうなんだろうけど━━いやこれ、マジで普通に動き回れるんだけど。しかもなんかオレの身体軽くなってない?
メタルボディなのにメタルボディになる前より動けるとか、なんのチートだよって思うね。
━━っと、さっそく魔物に見つかってんだけど。って、当然か。死ぬほどたくさんいるもんな。そんでもって実際にみんな死んでるしな。よぉし、カタキはうってやる!
オレに任せろ、野郎ども!
そんな気持ちで、オレは魔物に立ち向かったね。国道沿いで声をかけてきたカツアゲ先輩には立ち向かえなかったオレだけどさ、それでも靴の中に隠してた一万円札は出さないで、ポッケの中の小銭だけ渡して切り抜けた経験だってあるからさ、つまり、なんだ、オレだって一方的に全部が全部負けっぱなしじゃねーってことだ。ミートボールにだって意地はある。力さえあれば、一発逆転でねじ伏せてやるのさ!
超重量級の格闘家みたいでゴリラ的な化け物が襲いかかってきたけど、オレは一切のダメージを受けないことがわかってたから、まったく恐くなかったんだ。傷がつかないどころか、どんなに激しくぶつかられても、まったく衝撃もないからね、このボディ。まさに無敵。絶対無敵、ライ……来週あたりにゃ、オレはこの世界から魔物を一掃してるかもしれねーな。マジでよ。
そんな妄想さえしながら、余裕のオレはゴリラみたいな化け物の巨大な拳を迎え撃ち、小さな小さなオレの拳を当ててやったね━━そしたら驚くほど激しく相手の拳が粉砕炸裂し、肉と骨がオレの綺麗なメタルボディを汚しやがった。でもまあ許す。なぜならオレのメタルボディは撥水加工が施されているかの如く、魔物の体液やなんかを流してしまうので、まったく汚れは残らないのだ!
すげーなほんと、このスキル。至れり尽くせりじゃんかよ。やっぱしどんなに動き回ってもさっぱり疲れないし、息切れすらしない。ふつーの呼吸をしたまま、激しい動きができるのは、オレ自身の体力を必要とせず動いているからなんだろう。とにかく異世界の独自ルールみたいなもんなので、仕組みなんてわかりゃしない。魔法だねって思っとくしか、納得のしようがないものだ。
オレはゴリラ野郎を潰した勢いそのままで、目の前に存在するモンスターどもを目掛けて突進する。まさにこれ、真の豆タンクなり━━もはや無敵の戦車と化したこのオレを、止められるものなど存在しない!
━━止められるもんなら止めてみやがれ、クソったれどもがっ!
凶悪な眼差しのリザードマン集団を片っ端から殴り殺していく。動けるようになったことで、受け身でも強かったオレの、本当の強さが発揮された。肩を殴れば腕が千切れ飛び、胸を殴れば貫通する。そんなチート級の攻撃力があったオレのメタルボディは、どんなに強そうな魔物でも、たったの一撃で葬ることが可能だった。
「うおらーっ! 人間ナメてっからこーゆーことになるんだよぉぉぉっ!」
これもレベル99の恩恵なのか、それともただ熟練しただけなのか、わかんねーけど都合よく口のとこだけメタルボディを解除できたオレは、自由に声を発することができるようになっていた。動いても動いても息は上がらないので、すごく呼吸もしやすいし、喋りやすい。ちなみに喋るほうが体力を使う。どんなに動いても酸素減らないのに、べしゃりは体力使うって、ほんとどういう仕組みなんだろな?
まあんなこたぁどーでもいい。とにかくオレに都合がいいのはラッキーだ。いくらでも動けるんだから、限界なんて存在しない。見渡す限りのモンスターを皆殺しにしたってお釣りがくるってなもんだぜ。
ってなわけで、オレは今から魔物たちを皆殺しにしようと思うんだが、誰も異存はなかろうね。あっても聞こえてこないしね、勝手にやらせてもらうとしよう。
とりあえず手近なとこからメタルパンチでぶっ倒していくオレ。一撃で、多くても二回も攻撃すればどんな魔物もいちころだった。ほんとにマジで、引くほど強い。炎も氷も雷も放つ必要なんてなかった━━異世界最強のスキルは、熱も冷気もどんなダメージだって通さないメタルボディに他ならなかったんだ!
オレの無双乱舞により魔物密度が薄くなった空間の先で、今にも死にそうなボーイ(少年)がスタングレネードみたいな目潰しフラッシュのスキルで逃げ回っているのが見えた。ありゃ酷い。あれこそほんとに一生逃げ回るしかないじゃないか。目潰しでどうやって倒せってんだよな。
ピカッピカッとやたら眩しいほうに向かったオレは、ボーイを追いかけ回している数体の魔物を順に始末していった。言ってなかったかもしれないが、動けるようになったメタルボディのオレは、オリンピック選手顔負けの速度で走ることができる。逃げ回るボーイはもとより、それを追いかける魔物たちに追いつくのは、正直楽勝簡単だった。
「ていっ! おりゃっ! そいやさーっ!」
ゴーレムのようなやつを倒してやった段階で余裕ができたボーイはオレの姿を見るや、ピカッと目潰しを発動しやがりました。
「ちょっ……オレ魔物じゃねーですって!」眩しいので目を隠しながら叫ぶ。メタルボディでも眩しいものは眩しかった。もしかするとボーイのスキルが、唯一オレに効果のある━━いや、余計な話はあとだ。
「え、あんた人間なの?」ボーイは見たところ高校生かそれ以下に見える少年で、金髪で耳にはピアスがぶらさがっていたので、この人種はおそらくオレの天敵ですねー。
「そ、そそそう……人間だ、です」相手の見た目にすぐ怖じ気づくクソ雑魚なオレは無敵のメタルボディになったところで精神的には弱いままなのだった━━いや、仕方ねーだろ。何年クソ雑魚として生きてきたと思ってるんだ。上級生の薄眉毛サヴァイバルナイフ田中先輩とぶつかりそうになっただけで(ぶつかってはいない)瞬間的に土下座ができるヤツなんだぜオレは!
見た目が怖い人は中身もだいたい怖いんだよ!
「あんた……いや、あなた様、すっ、すごいっスね。めちゃくちゃ強ぇ」
「えっ?」
そんなはずはないんだが、なんかしらないけど睨まれてなにかを命令されるとばかり思ってたんで、少年のその言葉が意外すぎて━━ちょっと何言ってるのかわかんなかった。
あなた様って……リアルにはじめて言われたし。いや、言ってる人見たのもはじめてか。まあそれはいいとして、どうやら少年はオレを格上と認めたようだった。認められたのはいいが、そのように男として認められた経験のないオレは認められ慣れていないので、どう反応したものかもわからない。とにかくそうこうしているうちにも魔物は群がってくるので、そいつらを倒す必要に迫られた。
「と、とりあえずオレに隠れて、隠れたまえ!」と、よくわかんねーこと言っちゃった。今度こそバカにされると覚悟したが、しかし少年は「はいッス」と言って、従ってくれた。
あー、なんだろこの感覚。これが「先輩」って感覚なんだろうか……中学三年の時は下級生から「お肉さん」とか「ブタ丸」とか「転がんない大玉」とか言われて、高校三年の時も下級生に「玉袋」とか「切断されてくっついた系?」とか「ランゴリアーズ」とかいろいろ言われて……最後のは未だになんなのかしらないんだが、とにかく先輩として見られたことがないオレには、ちょっとなんか感動するくらいの衝撃があったということだけは、明言しておこう。
ああ、正直嬉しかったんだよ━━本当に。




