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12Chain.氷の魔獣

「ほ、本当によろしいんですか……騎士団はみな、あなたに従いますぞ」


 城を出て、城下町も出て、もう人がいなくなった場所まできて、レオンハートさんにそう言われたが、もう何回も同じことを言われ、同じようなことを言っていたからそこはもう無視したね。さすがに。


 でも、肝っ玉の小さいオレは無視が徹底できなくて、それから数分せずに口を開いた。


「ででで、ですから、ぼぼぼぼく一人で大丈夫ですから、で、ですから、実はレオオンハハートさんも、いらな━━いや、こなくっても、大丈夫なんですけど」


「しかし━━いえ、もちろんあなたの力はもはや疑ってなどおりませぬが、それでも本当に一人でというのはさすがに難しいのでは……」


 ったく、この男もなかなか聞き分けがないっつーか、頑固なのかなんなのか、話のわからんやつよのぅ。っていうか、ぶっちゃけマジでオレ一人でイケるんだよねー。むしろレオンハートさん足手まといってゆーか、邪魔なんスけどね。さすがにそれは言えねーってことで、かなーり遠回しにそれとなくそのようなことを仄めかしてみたつもりなんだけど、遠回しすぎて気づいてもらえなかったのかね。


 せめてわたしは一緒に行きますとか言って、ついてきたんだ。

 土地勘のまったくないオレからすると、道案内役としては確かにありがたいのだが、しかし、それだけだ。道案内としてしか、役に立たない。彼がどれほど強かろうと、騎士団最強の騎士団長だろうと、彼らが倒せなかった敵が相手ならば、もちろん今度も倒せやしない。おそらく倒せるのは、オレしかいないんだろうから。


 つまり、彼はオレにとってお荷物でしかないのさ。

 ━━元の世界じゃオレ自身がお荷物でしかなかったなんて、言えないけどな!


 過去世のことはとりあえず置いといて、忘れとくとしても、いざって時にレオンハートさんを守れるかどうか、保証なんてできないってのは本音だよね。もちろん騎士団長ともあろう人だから、それなりな身を守る術は持ち合わせているのだろうが。しかし、致命的な傷を負えば死んでしまう人間だということに変わりはない。致命的な傷を負わないオレとは、話が違うからな。


 万が一ってことがあったら、ほんとどうしよう。そうなると、ぽみえにもなんか申し訳ないし、城に帰った段階で非難されそうな気もする。袋叩きもあり得るな。あ、でもメタル化すれば大丈夫だな。少なくとも、身体は。メンタル的な部分は、ちょっと自信ないけど……。


「タクマ様、そろそろ結界の外です。スキルとやらの準備を━━」


「あ、はははいっ!」おー、べっくりしたぁ。考えごとしてて、ボケッとしてたよ。ってゆーか、レオンハートさんが厚手の外套を着用している。荷物として持ってきていたものを、いつの間にか着ていた。全然気づかなかったわ。レオンハートさんが敵だったら、オレもう死んでたパターンじゃん。


 と。


 ある場所を境にして、気温が一気に低下した。低下なんて生易しいものじゃない。ぼくらの夏休みが一瞬にして南極遭難旅行に変わったような━━なんだかよくわからんが━━そんな極端な変化に身体もべっくりしている。

 つーか、めちゃくちゃ寒いいいいいっ!


「スクィルゥ……はつつつつつどっおーん!」


 その瞬間。

 温かくなったわけではない。が、それまでの冷気が遮断されたことにより、天井が崩落してなくなった雪山に作ったかまくらの中から一瞬にして家賃十万オーバーの高級アパートの部屋にあるこたつの中に移動したみたいな━━なんだかよくわからんが━━錯覚をおぼえた。


 実際は━━まったくの無感覚。

 メタルボディになったオレは、暑さも寒さも熱も冷気も感じない。どんな攻撃も効かないのと同じように、いかなる状態変化も起こさない。オレの外側の世界は、オレには一切干渉することがかなわない。

 それがオレ。無敵のメタルボディ天空城タクマ様なのである!


「そのスキル━━メタルボディでしたか。その状態では、この寒さも感じないのですか?」


「ははい、まったくだいじょーびなんですぅ。あでも、喋ると口の中寒いので、あんまり……」


「なるほど、それは申し訳ない。しかしながら、本当にすごい……これがポリタンミカルンエミリン様の最後の一手。逆襲の切り札にふさわしい。この先は、無駄話は控えましょう」


 気の利くレオンハートさんは、そう言ってくれた。心遣いのできる人だ。前の世界、オレの周りにゃそんな奇特なやつ、いなかったから新鮮ですよええまったく。


『おいミートくん、この個室使っていいぞ。慣らしといた(・・・・・・)からよ』って言われて、別に小便器のほうでよかったのに個室に入れられたら佐々岡のやつのウンコが流されず丸々残っていて……慣らしといたって、どーゆーことだよ。意味わかんねーよ。くっせぇぇぇぇぇーっ!


 という最悪な思い出を、思い出した。よし、もうあのことは忘れよう。もう戻ることのない世界。二度と会うこともないやつのことなんて。


「タクマ様……魔物の気配が近づいています。匂いでも嗅ぎ付けるのか、やつらは我々を見つけるのが得意なようだ」


 おっと……また余計なこと考えてたら事態は動きそうだぞ。

 ともあれ、オレはもうこの状態では、たとえボケッとしてても問題なしなのだがね。さあ、どっからでも来るがいい。魔王すらビビらせたオレ様の力、思い知るがいいわ!


 ぬわーはっはっはーっ!


 ━━もうオレが魔王みたいになりそうだが、それは本意じゃないし、ぽみえに「どーせそんなもんだと思ってたよ」みたいなことを言われるのだけは嫌だから、ぼくは真面目に働きます。お給料もいりません。名誉も必要ありません。他にやることないから、生きてる意味が欲しいのです!


 ってなわけで━━来やがった!


 四方八方から様々な化け物が現れた。わかりやすくわかりやすい狼系獣型魔物から岩石でできたクモみたいなやつまで、いろんな種類がいる。魔王島でもそうだったが、魔王の想像力が豊かなのかなんなのか、モンスターのバリエーションが意外に豊富!


 無駄に!


 イマジネーションに優れた魔王とか、なんかヤダけどな。芸術家タイプだから、雲隠れしたとか、そんなことじゃありませんようにと願うよね、ほんとに。


「うおおおおーっ!」気合い一閃、レオンハートさんが犬のような犬にしては異常なまでの筋肉と歪な胴体をした魔物を斬り捨て、次に備える。

 うん、やっぱ強いわこの人。でも、オレと違ってダメージ食らうと即終了なんで、必死だけど。


 一方のオレはとゆーと余裕すぎるので、とりあえずレオンハートさんを守る必要がないと感じたのもあって、わざわざやられに近づいてきたやつから順番に、普通に殴って倒していった。

 普通に殴ってるだけなんだけど、メタルボディのそれは、おそらくUFOと小動物が正面衝突したくらいの━━って、わかんねーや、自分で考えておいて。なんだよそのたとえ。


 とにかく、オレは魔王島で行ったような戦闘を、ここでもやるだけだった。とにかく強い。強いとか弱いとか以前に、絶対になんの影響も受けない。衝撃が衝撃として伝わってこない。まったくの無感覚劇場だ。


 ゆえに達成感ややりがいがあるかどうかと問われると頭を悩ませることになりそうなものだが、あいにくとオレはそのへん気にせず淡々とこなすことができる人間だった。工場のライン作業とか、とにかく単純な繰り返しが苦にならない、ある種真面目な人間なのだ。

 自分で言ってるだけだけどな!


 そんなこんなで、その場で迎撃してばかりもいられないので、オレとレオンハートさんは襲い来る魔物を倒しながらも、少しずつ前進し、距離を稼いだ。


 やがて、その洞窟へとたどり着く。

 そこは、かなーり巨大な入り口を持つ、かなーりでっかい洞窟だった。

 ちょっとあれどうなってるのって思うくらいデカイつらら(・・・)が上から……おっかねーな、あれは。たとえ落ちてきても、レオンハートさんはダメかもだけど、オレは大丈夫とわかってはいても、なお怖い景色が目の前にあった。


「ここが"巣"になります。今も我々の仲間の亡骸(なきがら)が眠る、忌まわしい場所。かつて地獄を味わった地に再び訪れた今、こちらには神のごときタクマ様がおられる。こんな日が来るとは━━」


 うん、なんか感動してるとこ悪いんだけど、ここから先はやっぱしオレ一人のほうがいいと思うんですよ。ってなことを、オレはどもりながらもなんとか伝え、この意志は石よりも硬いんですよーって教えるように、がんばって目を見て喋った。オレ、視線合わせられない系男子だから、メタルボディじゃなかったら多分「え、溶けるの?」って言われそうなくらいの汗をかいていてもおかしくないチャレンジだったんだけど、どうやらそのがんばりが奏功したみたいで、レオンハートさんは納得してくれた。


「わかりました━━わたしはこの場で待機しておりましょう。くれぐれもお気をつけて。中は魔物の巣窟です。しかも、最奥にはおそらく他とは比べ物にならないほどの、魔王の配下がいるはず」


 それを倒すことで、ある一定の地域を解放することになるようだ。現在地で言うならば、クソ寒いクソ寒地域を支配しているボスが、多分この奥にいて、そいつを倒すことでクソ寒くなっている場所すべてを救えるらしい。

 まあ、やってみなくちゃわかんないけど、ちょっとテレビゲーム感覚で楽しめそうな気がしてきた。よし、やる気でたわ。行ってきまーす!


 なんつって勢い込んでぶっこみをかけた洞窟に入るやいなや、臭いを嗅ぎ付けたのか気配を察知したのかわからんが、とにかく奥のほうからワラワラととんでもない数のモンスターが湧き出してきた。モンスターハウスの呼び鈴が鳴ってしまったに違いないというくらい、深淵の住人たちは来客の対応に余念がない。

 ごくろーさまでーすっ!


 ━━はいっ、あいっ、おいっ、それっ、あっそーれ、よっ、ほっ、はっ、えーい!


 と、小さいやつから大きいやつまでみな平等に、難なく片付けていくわたくし。最強の英雄勝ち確物語。楽勝過ぎてマジ眠くなってくるのはご愛嬌。人間、絶対の安全が約束されていると、どーしても余裕こいて調子こく。そんな生き物━━自覚はあるのよ。

 でもまあ、オレの場合ほんと万が一ってこともないくらい絶対無敵で永遠安心なんで、なにも心配いらないというのは事実だから仕方ない。なにしろ魔王が脅威を感じたくらいなのだ、オレを倒せるやつなんて、存在しない。


 ほんの小一時間ほどだろうか、洞窟の奥の奥まで化け物どもを律儀に順番に倒しながら到達したオレを待っていたものは━━最奥にある氷の大空洞にいた、絶対零度の巨大な獣だった。


 獅子のような頭に、熊のような身体。そして大きさは小高い丘ほどもある、とてつもない化け物。

 その巨体は表面が氷に覆われているのに、しかし凍りついているわけでもなく、自由に動いている。邪悪な冷気がうっすらと煙のようにたちのぼってすらいた。


 ━━おおお、超こわい!


 無敵じゃなかったら、この時点で穴という穴から汁という汁を漏らして半泣きで命乞いしていたかもしれんが……今のオレだからこそ、余裕をもって冷静に観察することができていた。


 戦いは合図もなくはじまったが━━結論を言えば、魔物が吐き出した、おそらくとてつもない冷気にも凍りつかず、直接的に踏み潰されても潰れることのなかったオレは、最終的に両腕を振り回して真っ正面から突撃するという方法をとった。


 で、その結果━━身体の真ん中に穴のあいた魔物はそこからヒビが入り、さらに暴れまくったオレにボロボロにされた下半分から崩れ落ちて、最後には溶けるように消えてしまった。


 はい、圧勝でした。

 予想通りの。予想を上回らない。


 こうしてオレは、何人もの犠牲者が出た洞窟で、人々の暮らせない領域を作り支配していた強大な敵を、格闘技の世界チャンピオンが5歳の男の子を倒すよりも簡単に、倒してしまいました。それこそ、5歳の男の子みたいな両腕ブン回し滅茶苦茶乱舞で━━。


 そして洞窟の外にたどり着く前に、迎えにきたレオンハートさんと合流した。

 なにやらすでに洞窟の外では変化が生じていたみたいで、オレが魔物の討伐を成功させたのだとわかったレオンハートさんが、いてもたってもいられなくて迎えにきたらしい。

 そんな彼と一緒に外へ出てみると━━確かに、来る時にあった常冬の世界はもうなくなっていた。

 春の日射し━━とまではいかないが、うっすらと陽の光もあって、なにより凍える寒さを感じなかった。ちなみに、洞窟を出た時点でスキルは解除している。それなのに、だ。


 まさかこんなにも変化があるとは、思わなかった。あの魔物一匹が、これほど世界を変えていた。本来の世界を、人の住めない大地に変化させ、支配していやがったのか。

 そう考えると、改めて怒りのようなものを覚えた。同時に、奇跡の能力を授かった自分の役割と責任も、オレはこの時はじめて自覚していたのかもしれない。


 オレはもう、以前のオレではない。

 新しく生まれ変わったオレは、この世界のために、役立つことができる。

 オレのやる気に、火がついた!

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