ライナス17歳 勇者の称号④
「……ああ、よく来てくれたな。ライナス殿。この度はこの国の王として、お主の命懸けの献身に心から感謝しておる…しておるが……その……」
……そんな目で見るな。王様(名前は忘れた)
気持ちは分かる…気持ちは分かるが……
「……随分と女性に偏ったパーティじゃの……いや、別に責めているわけじゃないんだが…」
……そんな好色男を見るような目で、俺を見ないでくれ!!
俺の意志じゃないんだ!! これっぽっちも‼
一人は妹とはいえ、女4と男1の白一点な性別バランスが悪過ぎる5人パーティ。
それを全てただの偶然と言い張るのは無理がある。
せめて男女比が逆ならば、「できる限り、腕力が強いメンバーを集めてより安全な旅をしたかった」でも何でも、言い訳が通じたかもしれないが(それでも下世話な疑惑を掛けられる可能性は十分にあるが…)、俺のように男一人の場合は何の言い訳もできない。
……王様の中で、俺に対する認識は女好きな好色男に間違いない。
他人にどう思われ様が、いいと言えばいいが、それにしたって不本意過ぎるレッテルだ。
……ん?まてよ。逆にこれを利用すれば……
「……俺の周りの希望者を集めたら、このように女性ばかりのメンバーになってしまいました。だからこそ、できれば男手として、旅の間だけでも兄であるレックスとロナルドを、休職扱いにしてお貸し頂ければ、と思っていたのですが……」
「フェルディア兄弟をか⁉ いかんいかん!! そんなことをしたら、我が国が滅んでしまう!! ……いや、女性ばかりという懸念なぞ、必要ない‼ どのお嬢さんも、我が国の中のトップレベルを誇る実力者ばかりではないか!! ……そもそも、セリエ嬢やミーシャ嬢のお父上は、娘が強く同行を希望するお主だからこそ、一緒に旅を許したのだ。ここに、他の男性を入れれば種族間の争いに発展しかねぬ……お主以外の男の、同行は許可せぬぞ‼」
……くそっ、顔だけは美形な糞兄貴どもがいれば、まだこいつらの意識も逸れると思ったのに、何故それに関しては頑ななんだ…!!
国が滅ぶって…上のレックスにしても、まだ二十代だぞ⁉ なんで、そんなビップ扱いになってんだ⁉ 普通に考えておかしいだろ!!
たった二人欠けただけで滅ぶような国、さっさと滅んじまったほうがいいんじゃねぇの⁉ 先行きが暗すぎるぞ‼
喉元まで出かかった罵倒をぐっと飲み込む。
……相手は一応国王だ。魔王を倒した報奨金を元に、悠々自適な作家ライフを送る為にも、一応礼儀は守っておかねば……。
「……それでは、仕方ないですね。国衛こそが兄上達の本分ですし、諦めます」
「そ、そうか!! ならば良かった‼ ……代わりと言っては何だが、女性のメンバーならいくらでも斡旋するぞ⁉ ……主のメンバーは、戦士、魔法使い兼薬師、武闘家、呪術師とバランスは良いが、いかんせん回復魔法に長けたものがおらぬ。僧侶職の者を一人追加したらどうじゃ?」
確かに、ディアナは剣、セリエは魔法と薬草学、ミーシャは打撃、ライラは呪術全般(呪解も含む)とバランスが良いが、回復魔法に特化したものはいない。これが現実ではなくRPGのゲームで人数制限が6人以上可能ならば、回復職のものを入れることも検討するかもしれない。
しかしこれはゲームではなく現実で、何より俺はこれ以上面倒事の種になりそうな、他の女性メンバーを増やしたくない。今でさえ、手に負えないのに、これ以上俺の周りを引っ掻き回してくれるな。この提案は、却下だ。却下。
俺は基礎的なものならば、回復魔法が使えなくもないし、恐らくは魔法に長けたセリエも同様であろう。もしそうでなくても、セリエは薬学の知識があると言っていた。そんだけあれば、何とかなんだろ。
「……せっかくのお話ですが、王様がメンバーを探しているのを待つ時間はありません。俺は一刻も早く、魔王を討伐して世界に平和をもたらしたいのです」
「……そうか。ならば、このメンバーで…」
「――回復魔法に長けたものを探す必要なんかありませんわ。お父様……ここに一人、いるではありませんか」
ふいに背後から聞こえて来た、凛とした澄んだ声に、俺は振り返った。
天窓から降り注ぐ光に照らされるようにして、そこに立っていたのは……
「アイエ姫……」
王の一人娘で、国民の間で【癒しの天使】と噂される、アイエだった。
腰ほどまである長いシルバーピンクの髪に、真珠のように白く滑らかな肌。
整った優しげな顔立ちは、その渾名の通り見るものの気持ちを穏やかにさせるような、不思議なオーラを放っていた。
赤みがかった紫色の瞳は、ミステリアスな輝きを纏っており、美しいがともすれば存在感がなくなってしまいそうなアイエの顔に、インパクトを与えている。
確かに、彼女は国一番の回復魔法の使い手だ。彼女の回復魔法は、重病人ですら癒せる為、医者が匙を投げたような患者はこぞってアイエの魔法を受ける為に王宮に集まる。
それ故に、有事のこと以外では、滅多に国民の前に姿を見せることがない彼女が、一体何故今現れたんだ?
「私が行けば、お父様が回復職の人材を探す時間を割くことがなく、必要と思われる人材は全て集められますわ。ライナス様に、迷惑かけることもなく」
「しかしアイエ…何故、お前が行く必要が…」
「臣下に命を賭けさせて、自分の命を惜しむようでは王族足りえないと、お父様はいつも繰り返しおっしゃっていたではないですか。この方々が、国の為に命を賭けて下さるとおっしゃっているのに、私はのうのうと城の中で守られているわけにはいきません……」
「だが、アイエ……お前がいなくなれば、国の重病の患者は……」
「……私は、最近思うのです。私が今やっていることは間違っているのではないかと。今、私がたった一人の人間を救う間にも、魔物によって何百もの人々が命を失っています。その中には、私の力さえあれば生きられた方もいるかもしれないのに。……私が救うべきなのは、自力で城に来ることができる一部の裕福な重病患者ではなく、目に届かない所で命を失いかけている多くの人々なのではないかと。……そういう人たちを救う為にも、私は旅に出るべきではないかと、ずっと前から思っていたのです。……それが結果的に魔王を倒す手助けになり、本来だったら失われる筈がない多くの人々の命を救えるならば、これ以上の幸福はありません」
「アイエ……お前、そんなことを……」
「男性ばかりのメンバーなら、少し不安でしたが、ライナス様のパーティは女性ばかりで安心しました。……これなら、私も一緒に旅に同行できます。お父様心配なさらないで……アイエは必ず、ライナス様達と一緒にまたこのお城に戻って参ります」
「……アイエ……!!」
………おおぃ。なんか目の前で勝手に感動劇始めてるが、俺は一言だって『連れていく』なんて言ってないからな?何勝手に、連れて行って貰うこと前提で話してるんだ?
他のメンバーならともかく、深窓のお姫様に野宿も普通な馬車の旅なんて我慢できると思えねぇし。そもそも俺、アイエ姫のこと噂でしか知らねぇし。心清らかで優しく、まさに聖女だと周りに讃えられているだとか、んな砂吐きそうな情報くらいしか。
嫌だぞ。俺はそんな、自己満足な聖女様ごっこに付き合わされるの。……さっさと魔王倒しに行きたいのに、あれを救わなきゃ、これを救わなきゃと振り回されて、旅を中断させられるのが目に見えている。
ひとでなしと言われるかもしれないが、正直俺は不幸に死に行く人々を救いたいだなんて気持ちはさっぱりない。ただ、魔王を倒して世界を平和にして、邪魔されることなく小説を書きたいだけなんだ。
世間知らずのお姫様の、偽善に付き合っている暇があるなら、一本でも多く小説を書きたいんだよ!!
「――あの、せっかくですが王様。アイエ姫の同行は……」
「……それに、お父様」
俺の拒絶の言葉は、続けられたアイエの言葉によって遮られた。
アイエはちらりと俺を横目で見ると、頬を赤く染めて俯きながら、とんでもない爆弾を落とした。
「……それに結婚前に、将来の夫となる方のことを、よく知っておきたいではないですか……」




