第25話
初めて正面から対峙したヒロインことエイミーは、ティファニーの記憶と同じ顔立ちをしていた。
白い肌、ほのかに桃色の頬、ぱちりと音のしそうなくらい大きな瞳は、暖かなカラメル色である。
曲がり角から突然現れた人間に驚いた顔をしたエイミーだったが、ティファニーの顔を見てさらにはっとした表情をした。そして一歩こちらに踏み出したかと思うと、手首をぐっと掴まれる。エイミーはティファニーの瞳を正面から見つめ、焦ったような声を出した。
「来て! 」
「……えっ!? 」
そのままぐっと引っ張られた。咄嗟のことに足がもつれる。
倒れる、と思った身体は、ずいっと出てきたアルベールの背中にドンとぶつかって不自然な形で止まった。
咄嗟に瞑った目を開くと、ティファニーを引き寄せようとしたエイミーの腕を、アルベールががっちりと掴んでいるのが視界に入った。
「……エイミー・グラント様、ですね? ティファニー様に何か御用ですか? 」
いつになく棘のあるアルベールの声色に、ティファニーは驚いて視線をやる。しかし当のエイミーからはまったく動揺した様子は見られない。それどころか、より力を込めて手首を握ってくる。
「あら、私が彼女に用があるとして、どうしてあなたを通さなければいけないんですか? 」
「それは……」
従者だから? しかしこの理論は通用しないことは、アルベール自身もよく分かっているはずだ。普段ティファニーはクラスメイトとアルベールと通さずに話している。
とはいえアルベールとしては、話したこともないクラスメイトが急に現れ、「ちょっと来い」なんてティファニーを連れ去ろうとしているのだ。従者としては当然警戒せざるを得ない。
答えに詰まったアルベールに、エイミーがさらに言葉を続ける。
「ごめんなさい、話は後でもいい? 私ちょっと急いでいるの」
「……ですから、どのようなご用事で? 」
「ああもう! とにかく、ちょっとでいいからあなたのご主人を貸してちょうだいって言ってるんです! 」
焦れたように言い放ったエイミーに、急に腕を引かれる。今度こそ倒れる! と思った身体は、今度はエイミーに正面から抱き留められた。ふわりと花のような香りが鼻腔を掠める。
そのまま右手で抱え込むように、がっちりと後頭部を抑えられた。
「振り向いちゃだめ! 」
ーーえ!?
次の瞬間、後頭部のあたりで強烈な光ーーまるでカメラのフラッシュのようなーーがバチっと光ったのが分かった。
「うわっ! 」
そして直後に聞こえたアルベールの呻き声、草の上に重い物が落ちるドサッという音。
「アルベール!? 」
「大丈夫、ちょっと目がチカチカしただけよ! さあ、早く! 」
目がチカチカする、ということは、まさか。
ーー治癒と浄化の為の光魔力を、目つぶしに使った!?
神聖なる光魔力を!? そんな使い方していいの!?
振り返ってアルベールを確認するより早く、走り出すエイミーに手を取られた。
「こっちよ、走って! 」
「え、ちょっと! 」
危うく躓いて転びそうになったところを、強引に手を引かれてなんとか立て直す。その勢いでティファニーも走り出していた。
ーーこれ、どういう状況!?
考えようにも頭が回らない。ただどうにか転ばないようにと、風に波打つピンクの髪の後ろを必死に追った。




