第24話
毎日が飛ぶように過ぎていく。気がつけば学園に入ってから1週間が経っていた。
今日は是非にと言われて、付き合いのある女子生徒たちと授業の後に庭でお茶会である。
実家にいた頃のお茶会と比べればこじんまりとしているものの、帰り道はいつもコンビニに寄っていた前世と比べると、考えられないくらいに豪華な放課後だ。
美味しいお茶と菓子、実家よりも開放感のある場所で、自然と会話のテンションは上がる。
話題の行き着く先は、当然。
「それより皆様、"あれ"はもう見られまして? 」
「それがまだなんですの! 」
「私は見ましたわ! 授業が同じでしたのよ! 」
「私もまだですわ。ああもう、早く見たくって待ちきれません、」
「光魔力! 」
興奮した声が重なった。
授業が始まって1週間。ヒロインは、クラスの中でとても目立っていた。
他の女子生徒を一枚上回る可憐さ、ピンク色を帯びた髪、軽やかな声、そして光魔力というこれ以上ない話題のタネ。
特に派手なことはしていないが、彼女は常に視線を集める存在だった。
「ティファニー様は光魔力をもうご覧になられまして? 」
「いいえ、私もまだですの」
「ティファニー様は水魔力ですものね! 」
その言葉に、ええ、と頷く。
魔力の実践授業は属性ごとに分かれて行われる。光魔力は1人しかいないということで火魔力と一緒の授業だが、それ以外の属性はヒロインが火魔力の練習をしているところは見ていない。
「今まで自分が風魔力であることに不満なんてありませんでしたけど、今ばかりは火魔力の方が羨ましいですわ! 」
「ステファニー様は火魔力でいらしましたわよね? その、どんな感じですの? 光の魔力って」
話を振られたステファニーは、アメジストの瞳を大きく開いてみせた。
「素晴らしく、美しいですわ」
まあ、やっぱりそうなんですのね、と感嘆の声が各々から溢れる。
「彼女が手をふっと前にやるだけで、どこからともなく光の粒子が集まってきますの」
「光の粒子が! 」
「そしてその手をこう、ぎゅっと握りまして」
ステファニーは自らの右手を顔の前でぎゅっと握る。そしてパッと掌を開きつつ、空気を前に押し出すような仕草をした。
「こうすることで、光の線が掌から真っ直ぐ出るのです! 」
まあ、と驚きと羨望の声が庭に響く。ますます見たくなりましたわ、とイザベラが焦がれたような声を出した。
「それで、浄化や治癒の場面は見まして? 」
「いいえ。先生が仰るには、光魔力で浄化や治癒ができるようになるには、少なくとも1年はかかるそうですよ」
「まあ、そうなのですね」
「でも来年には光魔力による浄化が見られるかもしれないなんて、本当に楽しみですわ! 」
キラキラと目を輝かせるイザベラは、夢見る少女そのものだ。
その瞳を見て、ティファニーは確信した。
ーー彼女たちがヒロインをいじめるなんて、あり得ない。
ゲームの世界ではティファニーと一緒になってヒロインをいじめていた彼女たち。しかし今の会話での口振りから、ヒロインを嫌っているような印象は無い。
となると、思い当たる可能性は1つ。
ーーゲームでは私がヒロインを嫌っていたから、彼女たちもその雰囲気に飲まれてしまった、ということ?
ゲームの中でも彼女たちは、本来だったら凄いものを凄いと認め、素直に感心できる人間だったのかもしれない。
それを"権力がある"私が、悪い方へと煽動してしまった、ということは、身分というものが大きく影響するこの世界において十分にあり得る話だった。
公爵という身分の人間が発する言葉がどれくらいの重みを持つかは、この十何年で身に染みて分かっている。
ーー公爵令嬢失格ね、私。
公爵家の人間、そして現在国で唯一の公爵令嬢であるティファニーには、暗黙のものを含め様々な権利が与えられている。学園に従者を連れてこられるのもその1つだ。
多くが与えられている分、人としての在り方が問われるのが「公爵家」というもの。それにも関わらず、ティファニーは自分の感情のまま、周囲の人間を巻き込んで大変なことをしでかしたのだ。例えそれが、あくまでゲーム中のティファニーの話だとしても。
ーーそれに私、自分がいじめなくても彼女たちが勝手にいじめてしまうんじゃないかって疑っていたわね。本当に、最低。
思わず唇を噛みそうになったのを、すんでのところで堪えた。招かれた茶会で不機嫌に見える顔をするなどあり得ない。
そんなティファニーの荒れた内心とは裏腹に、"今の"彼女たちは瞳を輝かせたまま会話を続けている。
「でも、しばらくもしない間に皆さまもお目にかかれると思います。今度合同の魔力の授業がありますでしょう? 」
「ああ、そうでしたわね! 」
「合同授業が終わったら、またお茶会をしましょう。是非感想を話し合いたいですわ」
「素敵! 楽しみにしていますね! 」
お茶会が終わりそうな雰囲気に気がついてぱっと顔を上げると、テーブルの上の菓子は全てなくなっていた。いつの間に。
会食などで席を立つのは、基本的に高い身分の人間からである。他の令嬢はティファニーが最初に立ち上がるのを、当然と言った雰囲気で待っている。
その視線に応えるべく、さっと身支度を整え立ち上がった。
「その時は是非、またティファニー様も」
「ええ、勿論。本日はお招きいただいて本当にありがとうございました。ラフランスのジュレなど、とても美味しかったです」
礼の言葉を述べ、会場を後にした。どこからともなく現れたアルベールを伴って、寮を目指して庭を歩く。
ちらっとアルベールが自分を伺ったのが気配ですぐにわかった。
「……なにかお茶会でありましたか? 」
「いいえ。ただ、自分の公爵令嬢としての自覚の無さにガッカリしただけよ」
ティファニー様は大変公爵令嬢然としてると思いますが……と納得いかなそうなアルベールに、話題を変えるべく先程のトピックを振る。
「アルベール、あなたは光魔力を発動させているところをもう見た? 」
「いえ。私も土魔力なので、光魔力はまだ見ていませんね」
「なんか、とっても綺麗らしいわよ。キラキラしてて」
「それでしたら、ティファニー様の水魔力も負けていないのでは? 以前見せていただいた雪の結晶など、とても綺麗でした」
「……私がちょっと間違えてあなたの顔に吹雪を喰らわせたやつ? あなた、やっぱり皮肉の才能があるわよ」
口では怒りつつ、当時のことを思い出して思わず口角が上がる。あのときのアルベールの、これまでに見たことのない程驚いた顔。
あの時のあなたの表情ったら、とアルベールの方を振り返ろうとした、その時。校舎の影から人が飛び出してきた。
「っわ、」
すぐにアルベールが前に出る。その真っ直ぐな背中越しに見えたのは。
「あなたは……」
アルベールの少し驚いたような声が耳に届く。
この肩で息をしている彼女こそが、ヒロインーーエイミー・グラント、その人である。




