11話→トラブル
「それにしてもスゲー斬れ味だったな、名剣殺し。名前負けしてない性能だよ」
「はい、私も驚きました……デメタルさんの言葉に偽りは無かったです」
ゴーレムの討伐を終えた俺とネーヴェはギルドに帰還し、討伐証明部位でもある核を提出&売却。
依頼の報酬と合わせて十三万エルドも稼いだ。
依頼報酬は三万エルドと安めだったが、売却したゴーレムの核の相場が運良く上がっていて十万エルドもの高値で売れたのは幸運としか言えない。
俺とネーヴェで六万エルドずつ分配し、残った一万エルドは今日の打ち上げで使うと決めている。
二人だと分け前も多くて財布が喜ぶ。
これだけオイシイ依頼が何故残っていたのだろうと疑問に思ったが、上に行けば行くほど稼ぎの額は跳ね上がるようで十万エルドなど端金のようだ。
ゴールドランクにまでなると億単位で稼ぐとか。
次元が違う世界すぎて想像も出来ない。
一体どんなモンスターと戦っているのやら……勇者や英雄とかが混じっているかもしれないな。
「お二人とも、もうゴーレム系のモンスターを討伐出来るようになりましたか。おめでとうございます」
「あ、どうも」
ギルドの休憩スペースで名剣殺しの斬れ味について話し合っていると、いつものギルド職員のお姉さんがこちらにやって来てニコリと笑った。
そういえば俺達は彼女の名前を知らないな。
出会って二週間以上が経つ、そろそろ名前を教えてもらっても良い頃合いだろう。
「すみません、お姉さんの名前を教えてもらう事って出来ますか?」
「おやおや、ネーヴェさんが居るのにナンパですか? 悪い人ですねアラトさんは」
「ただ名前を聞いただけですよ……」
くすくすと笑うお姉さん。
彼女は何かある度に人をからかって遊ぶ癖がある。
年上の女性に遊ばれるのは別に嫌いでは無いが、長々とやられても時間が過ぎるだけだ。
「わ、私とアラトさんは、そ、そういう関係ではっ! 無くてっ!」
ネーヴェはこの手の話題に耐性が無いのか、頰を赤くしたまま固まっていた。初々しさが堪らない。
って、そうじゃなくて……
「これから先もお世話になるかもしれませんから、知っておきたいんですよ。他意はありません」
「あらら、フラれちゃった。でもまあ、私の勘が二人は成功するって告げているし、今のうちに仲良くしておくのも悪くないかな、なんて」
彼女は怪しくウインクしながら言った。
「私はエルナよ、これからもよろしくね二人とも」
ようやく名前を明かしたエルナさん。
当初の目的は達せられたが、このまま終わるのも味気ないので適当な話題を振ってみる。
「腹黒系女子は今時流行りませんよ、エルナさん」
「あ、ひど〜い!」
「今流行りなのはネーヴェみたいな純真無垢系美少女ですから」
「え、私ですか!?」
「そりゃあネーヴェさんは女の私から見ても可愛いけど。でもやっぱり、フードで顔を見え難くしてるの勿体無いと思うなぁ」
「こ、これには少々事情がありまして……」
気がつけばお姉さんと砕けた会話をしていた。
彼女も今の方が素に近いのか、窓口で冒険者相手に見せる営業スマイルとは違う笑顔を浮かべている。
そんな楽しい時間を過ごす途中――
「はあ? 私がアンタの男を奪った? ハッ、人聞きの悪い事言わないでくれる?」
高圧的な若い女性の声がギルド内に轟いた。
思わず振り向くと、そこには二人の女性が穏やかでは無い雰囲気で相対している。
今のセリフを言ったのは紫髪の女性だ。
怪我でもしているのか、左眼を眼帯で覆っている。
もう一人の方の女性は薄い金髪で、良く言うなら素朴、悪く言うなら何処にでもいそうな感じ。
二人とも冒険者のようで防具を纏っている。
ただ不思議なのは眼帯の女性は防具こそ身に付けているものの、武器らしい武器は所持してない。
ネーヴェと同じで魔術使いだろうか?
「また彼女ね……本当、話題に尽きない子だわ」
エルナさんがため息を吐きながら言う。
視線は眼帯の女性へと向けられていた。
これは一悶着ありそうだな……
「この前突然リックが固定パーティー解消どころか別れ話を切り出したから、おかしいと思ったのよ! しかも次の固定先が悪い噂の絶えない貴方のパーティー……調べたけど、昨日リックと宿に泊まったそうじゃない、何してたのよ!?」
薄い金髪の女性はヒステリックに叫ぶ。
対して眼帯の女性は不敵な笑みを浮かべている。
どうやら男絡みで女性同士が揉めているようだ。
「何って、そりゃナニに決まってるでしょ? リックの方から私の足元で這い蹲りながら言ってきたのよ。何でもしますからパーティーに入れてくださいーって、分かる? 男の方からアンタを捨てたのよ」
眼帯の女性は右手で自らの股を撫で上げる。
それは性的なイメージを相手に植え付けるにはピッタリで、既にリックという男性とは物理的に繋がったと暗に示していた。
「あ、あり得ない! あのリックが!」
「自分の魅力の無さを人の所為にしないでくれる? ま、運が悪かったと思って諦めてちょうだい」
「待ちなさいっ! ちょっと!」
ギルドを出て行こうとする眼帯の女性。
薄い金髪の女性はまだ話は終わってないとばかりに引き止めようとしたが……二人の男に遮られる。
「ど、退きなさい!」
「断る。これ以上レジーナ様に近づくな」
「そうだ、それともお前一人で俺達とやり合うか? 冒険者のルールは分かっているだろ?」
「う…………」
二人の男性冒険者に睨まれた薄い金髪の女性は、不利と見たかギルドの奥へと消えていった。
そして眼帯の女性を様付けして呼んでいた二人は、まるで従者のように彼女の後を追いかけていく。
「……今の方は、何者なんでしょうか?」
ネーヴェが戸惑いながら呟く。
するとエルナさんが答えてくれた。
表情は険しく、真剣な声で。
「眼帯を付けているのはレジーナ・アイオレット……シルバーランクの冒険者よ」
「へえ、じゃあ中堅冒険者ってところですか?」
シルバーランクは中堅、その上のゴールドランクは上位冒険者と呼ばれている。
ストーンランクの俺では太刀打ち出来ないな。
「ええ。けど見ての通り問題児で、とくに男性絡みで揉め事が絶えないわ……彼女、他人の恋人を奪っては下僕のように扱っているの」
レジーナ・アイオレットの帰り際に現れた二人の男性冒険者を思い出す。
彼らも元々誰かの恋人だったのだろうか?
「ふーん……でもまあ、レジーナ・アイオレットの肩を持つワケじゃありませんけど、それだけなら問題にならないんじゃ? 誰が誰と付き合ったりするかなんて、正直どうでもいいし」
「まあ、普通はそうよね。普通は」
「つまり普通じゃない何かがあると」
小さく頷くエルナさん。
そしてレジーナの問題性について話した。
「確かに他人の恋愛事情なんてどうでもいいけど、彼女の場合は度を超えているのよ。毎月のように男を取っ替え引っ替え、酷い時には一週間単位でパーティーメンバーが変わっていることもあるわ……ねえ、もしアラトさんがレジーナから誘いがあったとして、悪名高い彼女のハニートラップなんかに引っかかる?」
「……ぶっちゃけ時と場合によりますけど、フツーは避けますね」
男ってバカだし、多分相手がどんなに有名な悪女でもアレを握られたら簡単に気を許してしまうような……女性に耐性の無い俺なら尚更だ。
若干ネーヴェから白い目で見られながらも、俺の答えは予想通りなのかエルナさんは続ける。
「そうよね? でも現実問題レジーナは男を変え続けているし、彼女に捨てられた男達も一つの文句も言わず今まで通り生活しているの。不気味じゃない? だからあの女と関わるのはオススメしないわ」




