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10話→ゴーレム

 

 翌日。

 俺達はデメタルから貰った魔力の剣『名剣殺し』の性能を試す為に依頼を受けようとしていた。


 いつも通りにクエストボードから依頼用紙を選び取り、ギルド職員が待つ窓口へ向かう。

 その時俺の服装を見て職員の女性が驚いた。


「随分と見違えましたねヨコヤさん。凄く普通の冒険者みたいに見えますよ!」

「それ、褒めているんですか?」


 思わず突っ込んでしまったが、確かに昨日までの俺は冒険者と言うより武装しただけの一般人だった。

 服だけはこの世界の(安い)衣服を着ていたから、ファンタジー感はギリギリ守られていたけど。


 今日の俺はいつもと少し違う。


 何故ならまともな装備一式を揃えたからだ。

 全て皮製だが胸当てにネックガード、アームガード、レックガード……左腕には鉄製の『盾』。


 腰にはベルトを巻き、道具袋と鞘に収まった『鉄の剣』をぶら下げている姿は何処に出しても恥ずかしくない、まさに冒険者の格好だ。


 防具は鍛冶屋の後に寄った防具屋で揃え、鉄の剣はジアイさんの店にあった物を貰って使っている。


 本当はもっとグレードが上の剣もあったが、初心者がいきなり身の丈に合わない武器を持っても成長に繋がらないとネーヴェから助言を受け、これにした。


 因みに彼女は解体用のナイフを貰っている。

 ジアイさんはかなりの腕前を持つ鍛冶師のようで、ナイフ一本でも他の店で買える物より良質だった。


「勿論褒めてますよ? あまり弱そうな格好だと、仲間を募集しても集まりませんから」

「……それは失念してたなぁ」


 モンスター討伐は命懸け。


 常に複数人で挑むことが推奨されている。

 にも関わらず明らかに弱そうな奴の元に集まる理由が無いか、身の危険を晒す行為に他ならない。


「安心してください、アラトさん。私はいつでも一緒に居ますから……!」

「お、おう。ありがとう」


 嬉しいし頼もしいが、職員のお姉さんがニヤニヤした顔でこっちを見ているのに気づいてほしい。

 ネーヴェの謎の信頼は何処からきているのか。


「ンッ……これ、お願いします」

「はーいっ。ふふ、若いってイイですねー」

「貴女も十分若いでしょうに……」


 世界が変わっても、色恋ネタは人気のようだ。



 ◇



 場所は変わって、街の外。

 ストレートボアを狩っていた平原では無く、サクルの街近くにある【魔の森】を訪れている。


 その名の通り魔性の類……モンスターの生息地と化している危険な地域だ。

 同時に冒険者にとっては良い狩場でもある。


 今回の依頼内容は、魔の森の入り口付近で確認されたモンスターの討伐だ。

 森に住むモンスター達はどういうワケか、基本的に自らの生息地から離れようとしない。


 だが偶に森の中心部から離れ、街の近くまでやって来るモンスターも存在する。

 今日のターゲットはそんなモンスターの一匹だ。


「装備は揃ったけど、おかげで貯金がパーだ。早く稼いで余裕のある暮らしがしたいなぁ」


 討伐対象モンスターを探している最中、軽くなったサイフに想いを馳せながら呟く。

 因みにネーヴェの服装は今までと変わりない。


 強いて言えば羽織っているローブの種類くらいか。

 何着か予備を買ったようで、白がメインカラーなのは共通しているが微妙に模様が違う。


「無理はしないでくださいね? どうしてもと言う時は私がお金を貸しますから。無利子かつ返済期限は永久に訪れないので、安心してください」

「いやいや! 色々言いたい事はあるけど、マジでそんな条件で人に金を貸したらダメだからな!?」


 微笑みながら言うネーヴェに注意しておく。


 そんな施しを受けたら、普通の人はあっという間にダメ人間と化してしまうだろう。

 天使なのか悪魔なのか分からない少女だ。


「はい、今のところアラトさんにしか貸す予定はありませんので、大丈夫ですっ」

「う、うーん……なら、大丈夫、なのか……?」


 そんな馬鹿話をしていると――森の気配が変わる。


「っ、アラトさん!」

「ああ、分かってる」


 ずしん、ずしん……と。

 大地を揺らす何かが近付いて来る。

 まさかターゲットの方から来てくれるとは幸運だ。


「ギ、ガ、ゴゴゴゴゴ……!」

「うお、デケェな……こいつが『ゴーレム』か」


 目前に現れたのは、体が岩と土で出来た巨人。

 体長は四、五メートルほど。

 二つある目玉に生気は感じられない。


「それではアラトさん、手筈通りに」

「ああ、任せろ」


 対ゴーレムの作戦は既に考えてある。

 ネーヴェの話によると、ゴーレムはパワーとタフネスはあるものの動きが鈍い。


 そこでまずは足から潰す。


 身動きが取れなくなったところを、俺が頭部を攻撃してゴーレム系モンスター共通のエネルギー源であり弱点の『核』を破壊する。


 ネーヴェが撹乱し、俺がトドメを刺す。


 言ってしまえばそれだけのシンプルな作戦。

 モンスター討伐にも手慣れた今日この頃、ビシッと決めて早くランクを上げたいものだ。


「いきます!」


 ネーヴェが魔術で氷の巨大ハンマーを創造する。

 直後に一足でゴーレムの元まで辿り着き、直ぐに攻撃するのでは無く様子を伺う。


「ギ、ガ、ガ!」

「遅いです!」


 真上から石の拳を振り下ろすゴーレム。

 だが彼女はギリギリまで攻撃を引きつけてから躱し、ゴーレムの背後に回ってからハンマーを振り回す。


「せいっ!」


 いつもの掛け声と同時に、ハンマーをゴーレムの左足へと直撃させる。

 ぐらりとフラつくゴーレムだが、流石のタフネス。


 一撃では崩れず、ヌッとネーヴェに手を伸ばす。


 握り潰そうとしているのかもしれない。

 しかし彼女は苦も無くヒラリと避け、二度三度とハンマーでゴーレムの左足を打ち続ける。


 やがてビシッと亀裂が走り、攻め時と考えたネーヴェは氷のハンマーを消して新たに氷の槍を創造した。

 そして亀裂の中心部分を狙い、槍を突き刺す。


 この一撃が決定打となった。

 ゴーレムの左足は根元から崩れ、一本足では巨体を支えられず無事な右足で片膝を地面につける。


 ここだ。

 俺は名剣殺しを腰から抜いて走り出す。

 循環で魔力を巡らし、身体能力を強化する。


 持ち手に付けられたトリガーを引き、ゴーレムの頭部を一刀両断しようと剣を頭上に掲げた。


「うおらああああああああっ!」


 決まった――と、思った直後。


「ゴ、ギ」

「っ!?」


 ゴーレムの右手が視界を塞ぐ。


 俺は奴が隙を見せた瞬間に動き出した筈。

 例え気づかれても、鈍い動きでは対応出来ない速度で攻撃した……つもりだった。


 どうやら名剣殺しに魔力を吸い上げられている影響で、思った以上に循環の制御が出来ていない。

 不完全な身体強化では速度も中途半端。


 結果、ゴーレムにカウンター攻撃を許している。


 事前に立ち止まったまま名剣殺しと循環を併用した時は何も無かったが、実戦で動きながら使うと焦りや緊張からパフォーマンスが落ちるようだ。


「ギ、ギ!」

「アラトさん!」


 ゴーレムの巨手が目と鼻の先に迫っている。

 ネーヴェがカバーに入ろうとしているが、彼女がどれだけ強くてもこの距離では間に合わない。


 ――マナメタルがどれだけ硬いのか知らないが、ゴーレムの体より柔らかいって事は無いよな?

 俺は半ば祈るように、名剣殺しを振る。


 …………ずるんっ!

 つまようじでゼリーを突いたかのように、名剣殺しの刀身はゴーレムの手を突き穿つ。


 そのまま腕を裂くように斬り流し、最後には顎からすくい上げるように顔面を真っ二つにした。

 核と呼ばれる赤いビー玉のような物も斬っている。


 核からのエネルギー供給を絶たれたゴーレムは体を維持する事が出来ず、ただの岩と土へと還った。

 揺らめく魔力の刀身を眺めながら、俺は呟く。


「……た、助かった」


 何はともあれ、依頼達成!

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