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はじまり

「まあ、科学者なんてそんなものだがね。いやなに、多少気難しいところはあるだろうが悪い人ではないよ。」

 三十がらみの背の低い男は車を運転しつつ、もう二十分以上も一人で喋り続けている。

 ぺらぺらと無駄話をしていると思えば急に仕事の話をしたりもするので、新しい職場へと案内されているミサは適当に聞き流すということもできず、時折相づちをうちながら案内人の男の話に付き合っていた。

 十九年の人生の中で初めて乗った自動車に興奮したのは最初の五分だけ。あとは硬い座席から絶えることのない振動を尻に受け、じんわりと痛くなってきた腰を気遣うのでいっぱいだった。 体勢を崩したいが案内人の手前だらしのない態度はとれず、早く目的地に着いてと心中で祈るばかりだ。

 乗車の疲れと無駄話の聞き疲れとで目を開けているのも辛くなってきたころ「見えてきたよ」と、男がミサに声をかけ木々の合間から見え隠れする武骨なコンクリート塀を短い指で指した。


 車が近づくにつれ武骨さは異常さにとって変わる。

 町中を走るバスすらない片田舎。のどかな風景に似つかわしくない壁は高さ十メートルを超え、要塞さながらの雰囲気を醸し出している。

 薄汚れた壁に沿って自動車は走る。

 壁のせいで中にあるはずの建物は全くみえず、ミサは少し不安になった。 聞いていた仕事内容から想像していた家よりも随分と大きい。

「あの、わたし一人なんですよね?」

 戸惑いがそのまま声になった。

「住み込みはね。ああ、中にある研究所は住居も入れて、そんなに広くないよ。寂れて見えるけど国立の研究所だからね、防犯のための外壁だよ。ほら、正門だ」

 ミサの戸惑いは気にした様子もない男は、少しづつ車を減速させ正門前で停車し助手席にミサを残して一人車外へ出、壁に付けられた機械を操作し門を開けた。

 ミサは錆びた音をたてながら自動で開く門に目を白黒させ。

「これも錬金術ですか?」

 と、戻ってきた男に訊ねた。

「まあそうだね。錬金の技術を応用したものだよ。さあもうすぐご対面だ。我が国屈指の錬金の徒、隻腕の錬金術師殿にね」

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