第三章 第一幕 二つの会社
ある夜。拠点に、全員が集まっていた。
いつもと違う空気があった。
優作が、指を組み、鼻の下まで覆うようにして口元を隠している。椅子に座ったまま、全員を見ていた。何も言わなかった。
里美がコーヒーを配った。影山が受け取った。庄屋が受け取った。真壁が受け取った。凛が受け取った。瀬戸が受け取った。
誰も、口を開かなかった。
全員が優作を見た。
優作は少し間を置いた。それから、口を開いた。
「会社を、二つ作る」
誰も、すぐには反応しなかった。
「暁商事と、暁運送だ」
真壁が静かに聞いた。「……理由を、聞かせてくれますか」
優作は少し間を置いた。「吉田さんの野菜を覚えているか」
「覚えています」凛が言った。
「子供たちが、おかわりを三倍した」
「はい」
「あの野菜は、形が悪いというだけで、市場に出られなかった」
沈黙。
「日本中を探せば——」優作は全員を見た。「まだ、吉田さんがいる」
誰も、口を挟まなかった。
「廃れかけた水産。人手が足りない農家。価値があるのに、届く仕組みがない……」「暁商事は、その価値を見つける。暁運送は、それを届ける」
庄屋が口を開いた。「……GLと、何が違うんですか」
静かな問いだった。ただ、聞いていた。
優作は庄屋を見た。「GLは、既存の流通を支配して搾取した……」「俺たちは——GLが見向きもしなかった場所から始める。」
庄屋は少し間を置いた。「……吉田さんみたいな人間が、まだいると」
「いる」
「見つけられますか」
優作は間を置いた。「お前が、見つけるんだ」
庄屋は優作を見た。「……俺が?」
「お前はGLにいた。どこに価値があって、どこが搾取されているか——誰より知っている」
庄屋は少し間を置いた。「……それ、もっと早く言ってください」
影山が笑った。「また言った」「うるさい」庄屋が言った。
笑いが、少し起きた。
優作は全員を見た。「力を……貸してほしい」
誰も、すぐには答えなかった。
やがて、里美が静かに言った。「……やりましょう」
真壁が頷いた。凛が頷いた。影山が「やりますよ、当たり前じゃないですか」と言った。瀬戸が「俺も」と言った。庄屋は何も言わなかった。ただ、コーヒーを一口飲んだ。
優作は全員を見た。それだけだった。
里美がホワイトボードに向かった。マーカーを手に取る。
「暁商事——設立準備」「暁運送——設立準備」
マーカーを置いた。「二つ、ね」
優作は頷いた。「ああ。二つだ」
窓の外に、暁商店街の灯りが見えた。青文堂。タエの店。立花モーターズの、半開きのシャッター。
そして——その灯りの向こうに、まだ見ぬ吉田さんたちがいる。
「……ARK」
『はい』
「頼む」
ARKは少し間を置いた。
『はい。ただし——』
『……優作が、会いに行く必要があります』
「知ってる」
画面の幾何学模様が、静かに、しかし力強く、脈打った。




