第十三幕 テレビの向こう
三週間後。暁商店街の日曜市は、三回目を迎えていた。
来客数は毎回増えていた。
そのきっかけは、たった一本の動画だった。二回目の日曜市で、誰かが撮った動画がSNSに投稿された。
タイトルは「祭り? 商店街になにが起こったのか!」
タエの惣菜を食べた瞬間の「え? 甘い」。子供たちがクレープを食べる場面。立花モーターズの前に並ぶバイク。青文堂の古本市。吉田の野菜。並ぶキッチンカーから、たこ焼きや唐揚げを買う家族連れ。
コメント欄に、「どこ?」「行きたいんだけど」「この惣菜屋、何」という言葉が溢れた。
――――――
その日、一本の電話が来た。里美が受けた。
「はい、Satioです……はい。……テレビですか」
全員が顔を上げた。
「……はい、分かりました。折り返し連絡します」
「地方局から、取材の申し込みです」
庄屋が言った。「テレビですか。チャンスですね」
優作は少し間を置いた。「受けよう。ただし」
真壁が言った。「条件ですね」
「Satioの名前は出さない。商店街の人たちだけを映してもらう」
「主役は商店街だ。俺たちじゃない」
――――――
取材当日。
タエが惣菜を作り、客が驚いて食べている場面。吉田の野菜が大人気の場面。ひかりのクレープを子供たちに渡す場面。キッチンカーの前に家族連れが並んでいる場面。トメさんが顔パスで店に入る場面。立花がバイクを整備する場面。
ディレクターが立花に声をかけた。「少しお話いいですか」
「……」
「あの——」
立花は言った。「……俺は喋らない」
「でも、街の変化を——」
「話しかけるなと言っている」
影山が小声で言った。「照れているんですよ」
「聞こえてるぞ」
影山は黙った。
――――――
放送は、その週の土曜日だった。
拠点で、全員が見た。
タエが映った。「うちの惣菜は特別だよ。野菜が違うから」
吉田が映った。トラックから野菜を下ろしている。
鈴木が映った。「青文堂、日本一の古本屋にします」
源が隣で言った。「風呂敷を広げすぎるな」
ひかりが映った。子供たちがクレープ屋を囲んでいる。
トメさんが映った。「機械が名前を呼んでくれるんだよ」
トキが言った。「賑やかで嬉しいねぇ」
立花モーターズの前は、カスタムバイクでいっぱいだった。しかし立花はいない。それでもシャッターは全開だった。
放送が終わった。
庄屋が言った。「カブさん、日本一頑張って」笑った。
「つい、調子に乗ってしまいました」
鈴木は少し青い顔をしていた。
凛が言った。「言ったからには頑張って」
鈴木は覚悟を決めた。
「頑張ります」
――――――
その日の夜。
ARKは、奇妙なシグナルを検出した。
だが、数あるノイズの中、それを報告する必要があるものか確信が持てなかった。
優作には何も言わなかった。
――――――
同じ日。どこかのマンションの一室。
一つの端末が、青く点滅していた。
黒川は、端末が示した番組を見ていた。
賑わう商店街。笑う人々。子供たち。老人まで。
画面が止まった。一瞬だけ映り込んだ、小さな看板。
端末が、自動で看板をクローズアップする。
「ITコンサルタントSatio」
黒川は、その文字を見た。何度も見た。
「……そこか」
その声だけ、小さく呟いた。




