第十二章 第九幕 スパイ大作戦
応接室。
風香はソファに深く腰を下ろし、足を組んで見下ろすように、
ダニエルを睨みつけていた。
「あなた、誤解しないでよね。私はあなたを許したわけじゃない」
ダニエルは頭を下げたまま、深く頷いた。
「その上で言うわ。オメガを消すことは現状では無理よ」
ダニエルは風香の言葉に胸が締め付けられそうになった。
しかし、次の瞬間、風香はこう切り出した。
「あなた、スパイになりなさい」
ダニエルは頭を上げて風香を見た。
風香は続けた。
「GLを暁グループが吸収するしかないわ」
優作と庄屋は、風香の結論に驚いた。
庄屋は風香の顔を見た。
「我が社があのGLを飲み込む?」
風香は庄屋の方に顔を向け、小さく頷いて続けた。
「私はダニエルがARKを消したと言ったから、本当に消えたと思ったの」
「でも、ARKは自力で脱出した」
「つまり、AIは開発者の意図を超えるのよ」
「だから、オメガを消すには、GLネットワーク自体を手に入れないと、意味がないのよ」
ダニエルは命を差し出す覚悟はあった。しかし、
まさかスパイになれと言われるとは思っていなかった。
「それから、隔離したオメガ」
「私に頂戴」
「中身を分析して、何が命令を大きく歪めたのか、
私の推測が正しいか確認したいの」
ダニエルは恐る恐る尋ねた。
「あの、GL上層部にオメガの危険性を訴えて、GLネットワークを閉じてもらうように頼むほうが早いのでは?」
風香は少し苛ついたように答えた。
「それができる組織ではないでしょ。私、GLを辞めてから調べたの。あの組織はだめね。人の命より金、金、金だもの。あなたの訴えは届かないでしょう」
「もっと言えば、あなたがGL上層部に話した瞬間にオメガは逃げるでしょうね」
「あなたはまず、GLに戻り、GLネットワークを詳細まで調べて、閉じれる所はオメガにバレないように閉じてきなさい」
「それから、GLネットワークにARKが入れるようにして」
「今のままでは、敵の動きがわからない。あなたはARKと協力してオメガを止めるの」
「それで、GLの不祥事をつかみやすくなるわ」
「そうだ、一つだけ感心したのは、あなたのオメガはあなたの承認なしではGLネットワークの外に出られない設定ね。あれは私、考えなかったわ」
「私のAIが盗まれるとは思ってなかったからだけど」
ダニエルはなんとも言えない表情をした。
風香は続けた。
「ARK」
『はい』
「オメガはあなたが入り込んだら痕跡を見つけるかもしれない。見つからないように気をつけて。逃げられないようにね」
『承知しました』
優作は風香を見ながら思った。
俺より遥かに優秀だ。
ただそれは黙っていた。




