プロローグ、鉱山の崩落、
ギガ・リンク本社。
深夜。ただ一人、部下から突きつけられた添付ファイルを見ていた。
それは、アフリカの鉱山内部の監視カメラが捉えた映像だった。
逃げ惑う人々のなかに、小さな子供達が混ざっていた。
地鳴りのような轟音が響いた。
誰かを呼ぶ声。大きな叫び声。
次の瞬間、
画面が土煙に覆われた。
崩落の映像だった。
死亡事故原因の欄に担当者名が表示されていた。
「……」
片桐優作。
自分の名前だった。
経営陣から、さらなる効率化を命じられていた。
しかし、現場はほとんど限界まで効率化されていた。
残された数字は、休憩時間くらいしかなかった。
休み時間を三十分から会社規定の二十分に戻した。
たった十分だった。
だが、その日、休憩中に気づけたかもしれない亀裂は、
そのまま見過ごされた。
鉱山では、安全確認のため、
休憩時間を会社規定より十分長めに取っていた。
優作はその事実を知っていた。
部下の一ノ瀬凛には、安全のための時間は削るべきではないと、強く反対された。
だが、会社からはすぐに承認が降りた。経営陣が見ていたのは、
安全ではなく利益だった。
人がやる以上、事故は起こるかもしれない。
その考えが心をよぎった。だが、利益を優先した。
今、手渡された事故の映像を見て、震えが止まらなかった。
自分が動揺している姿は誰にもみられたくなかった。
だから、
この事故の資料を渡された後、
優作は普段は誰も使わない立ち入り禁止の部屋へ向かった。
映像を改めて見た。
胸が締め付けられた。
息が苦しかった。
部屋の隅には、廃棄予定の端末が雑に積まれていた。
その中に、たった一つ、スリープ状態の端末があった。
優作は、その端末を開いた。
ただ、気持ちを落ち着かせたかった。
チャット欄に打ち込んだ。
「手が震える。苦しい。なぜだ?」
『あなたは、正常な状態ではありません』
「……」
優作は思わず画面を見つめた。
返事が返ってくるとは思わなかった。
優作は「それはどういう意味だ。」と打ち返した。
『そのままの意味です』
「どうすれば、この胸の痛みから逃れられる?」
『……』
端末は何も答えなかった。
「……どうして俺は……」
「なぁ、どうすればいい? どうすれば許される?
せめて、俺が打ち込んだコードの罪の重さの分、
腹をすかしたガキに、パンを食わせてやれないか?」
端末から、返事が返ってきた。
『あなたの望む世界を私は手伝うことができます』
『あなたはどんな世界を求めているのですか?』
『世界を変えることは、簡単ではありません』
『あなたに覚悟はありますか?』
優作は端末を見た。
じっと見た。
考えた。
端末を閉じた。
その端末を持ったまま部屋を出た。
数日後、
誰にも、何も言わずに辞表を出した。
優作は会社を辞めた。




