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第10話 魔法使いミラキア対炎獄のローガ


 広がる青空。どこまでも続くと錯覚しそうな草原。吹き渡るそよ風。どこか春の気候を感じさせる()()()()に魔皇国の一団とローガの姿があった。


「何だここは…………」

「さっきまで俺達は室内にいたんじゃ……」

「というか、そもそも今は夜だったはずだろ?」

「それよりも標的共の姿が見当たらないぞ。一体どこに行ったんだ?」


 突然の事態に困惑する兵士達。それは彼等の操る魔物達も同様で、混乱したまま右往左往している。


(……これは魔法?いや、こんな大規模な魔法は聞いた事もないし、この人数を転移させるのも大分、馬鹿げてる。ならこれは幻の類か?)


 そんな兵士達を他所にローガは一人、冷静に状況を分析してどうにか現象の理解に努めようとするも、答えは出ない。


 何故なら、元居た場所との矛盾と大人数を転移させた事実、それらは多くの戦いの中で様々な魔法を目にしてきたはずの彼からしても、既存の常識から大きく外れていたからだ。


「――――ようこそ、私の世界へ。歓迎しますよ、魔皇国の皆さん?」


 混乱と困惑、答えの出ない問答に頭を悩ませていたローガと兵士達に向けて声が響き渡る。


 それは紛れもなく彼等の謀略と暴力に抗っていたミラキア・プレシールのものだった。


「……やっぱり侯爵令嬢さんの仕業だったんだ。それで?ボク達をこんなところに移動させたのか、それとも幻を見せているのか、分からないけど、姿も見せずにどうするつもりなのかな?」


 聞こえてきた彼女の声に自身の動揺を悟らせないように表情を隠しながら言葉を返すローガ。


 そして、彼の疑問に対してミラキアの返答は問答無用と言わんばかりに降り注ぐ光弾の雨だった。


 雲一つない青空に展開された魔法陣から降り注ぐ光弾は先程、ミラキアが放っていた攻撃魔法よりも威力が高く、命中すれば一撃で意識を刈り取られ、避ける事ができた者も、余波で足を取られてしまい、次弾で戦闘不能に追い込まれる程だ。


 無論、彼女の矜持故に誰一人として命を落としてはいない。


 無造作に見える攻撃だが、気絶した兵士にはよくよく観察すれば当たらないよう調整されている。


 とはいえ、混乱している兵士達がそんな事に気付けるはずもなく、なす術もないまま、あっという間に魔物とローガを残し、全滅してしまった。


「…………なるほど、ね。ここは幻じゃなく実際に存在する空間、そしてボク達をここに招いたのは人質を解放するのと同時にお姉さんが全力を出すためだったって訳だ」


 目の前の光景に冷や汗を浮かべながらローガは呟く。


 ここが幻で、やられた兵士達もまた幻の可能性を捨てきれないが、それでも彼の歴戦の勘がそれを否定し、同時にミラキアという存在を正しく脅威として認識した。


(……ミラキア・プレシールはきっと魔皇国にとって大きな障害になる……なら全力を出してでもここで確実に消すしかない)


 この空間はミラキアにとって人質を気にせず、全力が出せる場所。だが、その条件はローガにとっても同じだ。


 彼は魔皇国〝八神将〟炎獄のローガ。


 軍を指揮する立場にありながらも、彼自身が一騎当千の実力者だが、その力、故に捕縛するべき対象のいるあの場所では周囲を巻き込むため全力を出せなかった。


 しかし、そんな対象もおらず、十分に暴れられる広いこの空間なら話は別。ローガから凄まじい魔力が立ち昇り、彼の周囲が目に見えて歪む。


「――――賞賛するよ、お姉さん……いや、ミラキア・プレシール。正直、ボクは君の事を舐めてた。いくら強くても所詮は子供、物量や人質を上手く使えばすぐに倒せるってね。でも、認識を改めた。君は魔皇国にとってこれからも立ち塞がるであろう障害だ。だから全力を以って君を潰す。ここからは油断も容赦もしない」


 姿の見えないミラキアへそう宣言したローガは自身の魔力を高熱の炎へと変換。広範囲へと展開して姿の見えない彼女を炙り出そうとする。


 展開された炎はミラキアの攻撃から生き延びていた魔物ごと周囲を焼き焦がす。


 そこには微塵の躊躇いもない。彼女に辿り着くまで広がり続ける炎の包囲網が作り出したソレは〝炎獄〟の二つ名に相応しい光景だった。


 広がる炎はやがてある一点を捉え、渦巻き、炎の竜巻が天を焦がして燃え上がる。


 炎の竜巻の勢いは止まる事を知らず、そのまま辺り一帯を燃やし尽くすかに見えたが、突如として膨張し、そのまま内側から吹き飛び、霧散してしまった。


「…………全く、乱暴ですね。その魔物は味方の筈でしょう?」


 呆れ混じりの声と共に霧散した炎の竜巻の中からミラキアが姿を現す。


 その装いには焼け焦げた跡一つすらついておらず、炎の竜巻の中にいたとは思えない程、身綺麗だった。


「ハッ、魔物なんていくらでも替えが効くからね。そもそもこの程度の数じゃ君にはいないに等しいだろうし、配慮するだけ意識の無駄だろ?」

「……その割には倒れている兵士達には配慮しているみたいですが?」

「そりゃこいつ等にはまだやってもらうからだよ。君を倒した後に……ねっ!」


 短い言葉の応酬を打ち切り、両の腕を薙いで無数の炎弾を撃ち出してくる。威力としては着弾した地面を軽く抉る程度のものだが、生身に当たればただでは済まない。


「っ……!?」


 先程の意趣返しと言わんばかりに、凄まじい音を立てながら降り注ぐ炎弾。


 その数はざっと数百にも上り、辺り一面を焦土に変えた。


「……ま、この程度で倒せるとは思ってないっ!?」


 炎弾で巻き上がった土煙を突き破り、彼女を見失ったローガへと迫るのは一直線に伸びる光弾。そして、それを為したのは紛れもなくミラキアだ。


 速度と威力共にこれまでのものより高いその一撃を紙一重でかわしたローガはそのまま空へと浮き上がり、身の丈よりも大きな炎の槍を生成。続けてもう一本、同様のものを生成し、光弾の飛んできた箇所、目掛けてを撃ち放った。


 空気を切り裂き、飛ぶ炎槍は着弾の瞬間、大きく爆ぜ、周囲の土くれごと土煙を吹き飛ばす。


 おそらく、その余波だけで人どころか、魔物さえも木っ端微塵になるであろう威力だ。


 そんなものを続け様に二発も受ければたとえ、対魔法に特化した防御魔法であっても紙屑同然。


 だがしかし、そんな常識は知らないと体現するかのごとく、土煙が晴れた先に五体満足のミラキアが堂々と立っていた。


「なるほど、どうやら〝八神将〟とやらの肩書は伊達ではないようですね。まさかここまで強いとは思いませんでした」

「……それはこっちの台詞かな。今の組み合わせなら堅牢な城だって木っ端微塵に吹き飛ばせるはずなんだけど……君、本当に人間?」

「失礼ですね。私はれっきとした人間です……こちらこそ、その台詞はそっくりそのままお返ししますっ」


 会話に応じつつも、ミラキアは反撃として光弾を放ち、ローガがそれを避ける、あるいは障壁で防ぎ、さらに攻撃を返す。


 魔法使い同士の戦いは得てしてこういった形に落ち着くのだが、この二人では規模が違った。


 互いに決め手に欠け、派手な魔法の応酬は続きながらも膠着する状況。


 普通ならここまで大規模な撃ち合いをすればすぐにどちらかが魔力切れを起こすのだが、両者ともにその気配すらない。


 そうして、ただ爆炎と轟音だけが響く中、膠着したこの状況を打開すべく先に動き出したのはローガの方だった。


「…………このまま魔法を撃ち合いをしてても埒が明かない、か……仕方ない、リスクはあるけど、一気に決着をつける――――」


 轟音に掻き消されるくらいの声量で呟いたローガは攻撃の手を止め、光弾をかわしながらさらに上昇して高度を上げる。


(距離を取った……?撃ち合いに焦れて何かするつもり?)


 ローガの行動に疑問を抱いたミラキアだったが、空中で距離を取られてしまえば彼女にそれをどうにかする術はない。


 無論、彼女も浮遊魔法は使えるが、明らかに使い慣れているローガを相手に空中戦を挑むのは愚の骨頂。


 そもそも、魔法使い同士の戦いにおいて接近するメリットがあまりない。


 その上、ミラキアが自分自身……魔法使いとして戦うのはこれが初めてといっても過言ではなく、圧倒的に経験が不足していた。


「――――ミラキア嬢。君はさっき人間かって聞いたボクの台詞をそのまま返してたけど、その答えを今、教えてあげるよ……!」



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