第9話 春風と新生活
前話までを若干の改稿をしました(いらない内容を削りました)
「あなた───今後は凌介と呼ぶわ、についても説明しなくちゃね……っと、そろそろ時間だわ。百聞は一見に如かず。その目で見て確かめるのよ」
そう言ってありすに連れられて部屋を出ると、そこはおそらく空港で正面のガラス張りの壁面から滑走路とどこまでも広がる青空が覗いていた。そして視点がぐわんと持ち上がり、空港の中をスタスタと歩いていく。視点がかなり低いし自分の意志とは無関係に体が動いているという妙な感覚だ。まるで人型ロボットに乗っているみたいだ。
「さっきまでの私は私の意識の中の分身であって現実で起こっていたことではないの。現実の私は立ち上がって歩き出しているわ」
「なるほど……納得というか実感が湧かないが、まずここは?」
「オリヴィア市の空港。今から新居に向かうわ」
空港を出るとさわやかな風が吹き抜けた。広場とバスターミナルの向こう側には壮大なビル群が日の光を受けて輝きながら立ち込めていた。
「都会だな。質問2つ目。俺は君のなんなんだ」
「あなたは肉体から解放されて今は私の意識の中にのみ存在する。私の守護天使と契約を交わしたでしょう?」
確かに樹の中心に至った時に頭の中に突然声が聞こえ、願いを叶えると持ち掛けられた気がする。
「なるほど。詳しい話はおいおい聞くとして、これからどこへ?」
「聖オリヴィア学園。私が春から教師として勤務する場所よ」
「君が先生!? いくつなんだ」
ありすは高校生あるいは中学生くらいかと思っていたが、よく考えれば最初に会ったのは大学の敷地内だ。大学生というのも可能性はそんなに低くない。
「こう見えても今年で23歳よ。きちんと教員免許の資格も持っているわ」
「まさか年上とは。とにかくまぁ、よろしくな」
「よろしく。長い付き合いになるといいわね」
バスに乗ってオリヴィア市街の駅に降りた。そうしてしばらく歩くと周りの景色と異なる建造物たちが見えてきた。風情があるというべきか浮いているというべきか、レンガ造りの立派な塔や大講堂がいくつも見えた。
「学園の中に教師たちの居住区もあるそうよ。そこが新居ね」
大学の窓口で諸々の手続きを終えると、学園の中を歩いて居住区へ向かう。この学園は全寮制で約1000人の高校1~3年生が学びを深めている。
「この学園は天使学、魔学の2大派閥が対抗しながらお互い切磋琢磨していくという校風があるみたいね。明日は新入生・新講師の歓迎会が行われる。それに参加するわ」
「了解した」
そうしてありすと凌介の新学期・新生活が始まろうとしていた。
同日聖オリヴィア学園にて。
「新しく赴任する教師、響ありすについて報告があります」
細身の男がそう言った。
「ほう。彼女について特筆することがあるのか?」
腰の曲がった老人が問う。
「彼女の身辺調査を行った結果、彼女の家系はどうやら悪霊についての研究をしているようです、学問として精通している以上の知識を持っていると考えられます」
「ふむ。学園の勢力図に影響を及ぼすかもしれないのぉ。ご苦労であった、引き続き調査するように」
老人がそう言うと、細身の男は部屋を後にした。
「しばらく空席だった悪霊学に響家の者が就くとはなぁ。平和な世の中になって没落した際にその研究は失われたと思われていたが今日まで相伝されているかもしれん。彼女がどれだけの力量か見極める必要がありそうじゃ」
そうして日は暮れて夜の帳が降ろされていくのだった。
設定がまだ固まってないので矛盾が起きたら改変するかもしれません。