第100話 嬉しくも憂いあるバースデーです
「「殿下、15歳のお誕生日誠におめでとうございます」」
―――って、兄上様達が密かに用意してたサプライズパーティーに祝わってもらうまで、すっかり自分の誕生日のことを忘れてた。
「(14歳の1年が色々あって、ものすごっく長かったような気がするなー……)」
父上様の離宮完成から始まって、エイミーと結婚し、ルクートヴァーリング地方の領有もした。アイリーンの妊娠に、セレナに援軍する形での魔物の軍団と大規模な戦いもあった。
(※「第41話 強引な貴族を防ぎます」~)
「(で、クララと正式に婚約もしたし、僕自身の離宮ゲットにいざ綿花栽培だーってなってたところで……うわー、何だか3年くらい経ってる気がするよ)」
生れてからずっと兄上様達と違って職務についてない王子様だ。いってしまえば僕は基本、暇な御身分だった。
そこへきての密度の濃い1年だったから、余計にそう感じたのかもしれない。
……でも、15歳になった。その事実は結構ズッシリとのしかかってくる。
「“ 王名視軍 ”……?」
兄上様から渡された一枚の書面には、見慣れない言葉が書かれてあった。
「うん、今回新設したお役目でね。簡単に言うと、私の代わりとして軍を視察する役職だよ」
要するに、今までも時々やってた軍の視察。アレを仕事にする役職ってことらしい。
(※「第07話 軍隊を視察です」参照)
「(兄上様達にとって、王室のことを考えたら将来的には僕を軍の最重職につけなくっちゃいけない……けど危ない事はさせたくない、っていう気持ちが透けて見える)」
たぶん結構なジレンマがあったと思う。
最終的には宰相の兄上様に並ぶ形で、軍部最高位にあたる将官の “ 大将 ” あたりの地位に僕をつけなくちゃいけない。
だけど王弟とはいえ何の軍功のない王子様が、いきなりその身分だけでトップに立つなんて、軍部の反感が凄まじいことになる。
でも、だからといってキャリアを積ませるにあたって危ない役職につけたくない。
……たぶん、そんな感じで決まったんだろう。けど、僕にとっての問題はそこじゃない。
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「(見えてきた、お飾り将軍……かぁ)」
やっぱりそういう方向の将来は根本的に避けられそうにない。早ければ16歳、遅くても20歳を迎えるころには就けられる事になると思う。
「(僕に甘いあの兄上様なら、駄々をこねれば回避できるかもしんないけど、そんな事はしたくないなぁ……)」
王子としてこれまで生きてきた中で、兄上様達が国のためにどれだけ頑張ってるかを見て来た。
その負担を減らすには、やっぱり国を回す内政・軍事・権力のスリートップ全てを、王家の兄弟で占めるのが一番だって分かってる。
だけど魔物が人類の脅威として強いこの世界じゃ、一国の軍のトップっていうのは、やっぱりすごく “ 危険な椅子 ” だ。
「旦那さま、お誕生日おめでとうございますっ」
一通りのお祝いの催しが終わって部屋に戻ると、アイリーンが迎えてくれた。
「ありがとうございますアイリーン。……もう分かるくらいになってきましたね」
大きさ的にはハンドボールを3分の1に切り取ったものを張り付けたくらいの膨らみだ。
お嫁さんのお腹の中で、僕の子供が順調に育ってることを意識すると、何だか気持ちが引き締められる。
「えへへ、私的には全然なんともないんですが―――あ、お魚がやっぱり うっ てなりますけど、それくらいですねー」
悪阻は人によって結構違うし、重さも一律じゃないって聞いたから、アイリーンはかなり軽い方なんだと思う。
おかげで、お腹が明らかに膨らんできたというのに、本人は暇と元気を日々これでもかと持て余してる。
「我慢はしないでくださいね。食べられないモノや、少しでもおかしいなと思うコトがありましたら、遠慮なく僕やメイド達に言ってください」
実際、アイリーンに今もしもの事があったら大事だ。
二人目三人目じゃなく、初子。それも現王家にとっての。
この子が無事に産まれることは、命の尊さや王家の血筋を残す事の意味と同じくらい重要で、象徴的な意味がある。
「(出来るかぎりのことをしなくっちゃ。アイリーンがいくら元気で動けるっていったって、お腹に子供抱えてちゃ、いつもと同じようにはいかないだろうし)」
良からぬことを考えてる誰かさんが、良からぬことを仕掛けてくる可能性だって捨てきれない。
大事な大事な僕の子だ。
こうして王城の奥にいるかぎり、おいそれと手出しは出来ないと思うけど、いくらでも念を入れるべき――――――あれ、もしかしてもう親バカな思考しちゃってるのかな、僕?
「……アイリーン、本当に身体を大事にしてくださいね」
「だ、旦那さま??」
そっとアイリーンの前髪に触れる。そして優しくほっぺにキス。
「僕にとって15歳の一番の誕生日プレゼントは、アイリーンが僕の赤ちゃんを身籠ってくれたことです。だから本当に心配なんです」
「旦那さま……はいっ、絶対に旦那さまの赤ちゃんは私が元気に産んで見せますっ」
元気よくニパッと笑顔で応えるアイリーンに、思わず僕も笑みがこぼれた。
「違いますよ、アイリーン。僕とアイリーンの赤ちゃんですからね?」
さすがにもう夫婦の行為は慎む。
その代わり優しく、どこまでも優しく二人でまどろみながら、二人でゆっくりと眠りについた。




