第十九話:戦闘開始! 姉妹の戦いはこれからだ!
前回のあらすじ
三十分だけ仮眠します(フラグ)
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存じ上げない概念だったのですが、某アイドルゲーに支援姉妹と命名則が全く同じキャラクターがいるそうですね。
特に関係がある訳ではなく、命名もライ金嬢やフェルデナ、ゼラの方が早いということで何卒お目こぼしを……。
お腹に圧迫感を感じ、目を覚ました。
目を覚ますと、そこは雪国……ではないけれど、覚えの無い場所で。
「お目覚めになりまして?」
少し力を入れて首を持ち上げると、辺りの人で雑然としている様がよく見えた。
ごく近くからライ金嬢の声がする。
「もう間もなしに開会式ですわ。もしお目覚めが間に合わなかったのなら──」
「なら?」
「叩きおとしていたところですわ」
なるほどなるほど、叩き起こされ……んん??
「起こすんじゃなくって?」
「えぇ。ご自分の状況を顧みて頂きたいものですわね」
──そう。私は、ライ金嬢に。担がれていたのだ。
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開会式ということで闘技場の中心、武舞台に大勢人が集まっていた。
だいたいがプレイヤーなわけで、ヒトリモによると他の二つの始まりの街でも同時にイベントがあるらしいから、この人数のだいたい三倍が総プレイヤー人口と見られる、かな?
ライ金嬢から下りてしばらくすると、正面五階のお立ち台に二つの人影が。
一人はドターさん。ギルマスね。センカさんに色々ふっかけられた人。
もう一人は知らん人だ。四、五十代くらいの長身のおっさんで、かっちりとしたスーツを着込んでいる。
……というか、その、だ。私は視力つよつよの上にスキル補助もあって普通に観測してる二人の影だけど、常人には見えないでしょうよ、アレ。
「ライ金嬢、今しがた出てきたあの人影、見える?」
「見えなくはないですわ。細かくは分かりませんけれど……」
だよねぇ。あそこで何かされても誰も分からないよ。
しばらく見ていると、ギルマスと謎の人物がだいぶリラックスしていることに気づいた。
というのも、なんか二人でじゃんけんしたり(ギルマスの負けだった)、何か書類を見ながら談笑したりしているのだ。
……もしや、あそこに出てきたのは姿を見せるためではないのでは?
と、少し考えこんでいたところ、二人が姿勢を正し始めた。
すると同時に、私やセンカさん、武舞台上の個々人の目の前に半透明のスクリーンが展開された。ギルマスとおっさんが映っている。
映像中のギルマスが口を開いた。
『え〜、ではこれより。第一回冒険者交流祭を開催致します』
……なるほど。こんなふうに映像を出せるから見えない位置にいてもいいんだね。
ところで、だ。
「ところでセンカさん、このおっさんは誰?」
自分の目の前にもあるのに私と同じ画面を見ているセンカさんに、ギルマスじゃない方の謎の人物について聞いてみる。
「え? ああ、この方はカイハージの首長ですよ。あまり人前に出る方ではいらっしゃらないので、知らないのも無理はありません」
ほー、なるほど。カイハージ、ちゃんとした統治体制があったんだ。惰性で運営されてる街くらいに思ってたわ(失礼)
「じゃあこの人が街政担当なのか。激務だろうなー」
「あ、それはそうでもないんですよ〜。なんと言ってもカイハージは冒険者の街、ギルドの影響力は無視できません。というわけでうちのギルマスも政に携わっているのです」
それに、ギルマスと首長の仲もいいですしね。と続けるセンカさん。
正直、私には政治とかさっぱりなんだけど。まあ、知識を披露する時のセンカさんはドヤかわいいのでよしとする。
とまあ雑談している間にも開会式は進んでいて、不意に画面が切り替わった。
画面に映る文字は……『映像中継用スクリーンの使い方』?
なるほど。
このスクリーンは空間魔法の応用、神のご厚意によって下賜された……という設定の、離れた場所の自チームの様子を見るための中継道具だと。
スライドで視界が動くし、ピンチアウトやインで拡大縮小が出来たりする。ゲームみたいだね。いやゲームだけど。
デモムービーが終わり、ついでに開会式も終了。
すると後ろから首長がでてきた。
『ではこれより、本戦を開催する。第一種目は……えー、"狩りもの競争"だそうだ。……カイハージを担う冒険者たちよ! 健闘を期待する』
と、首長は言うだけ言って下がって言った。
なんたらスクリーンに競技の詳細が出てきた。
最初に目に付いたのは、
「低難度。これは、じゃあ、やっぱり──」
「そうですわね。クリス、コロン。先鋒は頼みます」
私が言わんとしたことを、ライ金嬢が継いでくれた。
「承知であります!」
「合点承知之助です!」
……合点承知之助?? コロンちゃん、どこで覚えた?
ライ金嬢もひっかかったようで、ゼラに詰め寄っている。
「ゼラ! 変なことを教えてはいけないと何度言ったらわかるのでして!?」
のだが、当のゼラ本人は──
「うえぇえ!? 今回はゼラじゃないです! 断じてっ!」
とばかりに罪状を否定。
となると怪しいのは……ヒトリモあたりかな?
変に目を逸らしているヒトリモ。
私とも、ライ金嬢とも目を合わせようとしない。
「ヒトリモ……?」
「ヒトリモちゃん……?」
「………すまなかった! 悪気はほとんどなかったんだ──!!」
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ヒトリモはそのうち40kgの甲羅を背負わせてどうにかすることに決めた。
コロンちゃんは悪い大人共の言うことは聞かないよう諭しておいた。
気を取り直して、狩りもの競争のルールを支援姉妹と確認する。
一通り目を通したが、借り物競争であった。借りずに狩るだけだ。使い古されたネタだ。
大まかな流れとしては、お題を引き、狩り、死体を引っ張って持ってくる。と言った感じだ。
低難度とはいえど、高レベルの参加を規制しているわけではないようで、その代わりにレベル毎で出やすいお題が違っているとかなんとか。
さらに細かいところはしっかり調整してあるようで、お題のモンスターを狩ったときは死体が残るけれど、それ以外は即座に消滅する。これは不正対策だとか。
あとは対人攻撃の禁止……というか、人に攻撃は当たらないようになっているらしい。
「とまあ、こんな感じかな? 気負わず楽しんできてね」
支援姉妹に声をかける。
「はい、アラシェ殿! 頑張るであります!」
「行ってきますです! 兄者!」
うんうん。……うん? 兄者??
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メンバーに見送られた姉妹は、スクリーン上に表示された案内の通り進む。現在地と目的地、進む方向の映された案内表示があれば、方向音痴の姉妹でもなんとかなるようだ。……ライをはじめとして見守っているクランメンバーも、これには一安心。
周囲には姉妹と同様、競争に参加すると思しき人の流れができていた。
進んだ先にあった転移の神為陣。目の前の人混みが続々と転移していく中、姉妹は、数字にして一人分の期待と一人分の緊張でもって順番を迎える。
姉、クリスは半人分の緊張をおして、妹コロンに声をかける。
「コロン。クリスたちは先鋒、責任重大であります。お嬢様に恥じない活躍をするでありますよ!」
コロンは半人分の期待で胸を躍らせて返す。
「クリス姉、一緒に百面十臂の活躍をしますです!」
「それを言うなら八面六臂……というか何処で習ったのでありますか!?」
妹とは知らぬうちに成長するもの。クリスは身をもって知ったのだった。
転移の陣を越え、目の前に現れただだっ広い草原に。姉妹はしばし目を取られた。
とは言え、続々と増える参加者で視界は覆われていく。
姉妹は気を取り直し、後ろへ目を遣る。
転移の陣を越えたこちら側にも、ギルドの制服を着た人が数人。主な役割はもちろん、お題の配布だ。
低難度と言う触れ込みだけあって、姉妹ほどではなくとも若い人間というものは多い。そんな景色を横目に、姉妹は抽選所へと足を運んだ。
「斥候鷺……。確か、集団行動をする種のモンスターでありましたか?」
姉、クリスが引いたお題は、斥候鷺。前衛蝗や魔法使貝、殿鼠などと共にパーティーを組むウサギだ。
危険度も、単体ではスライムと同程度であり、前述のパーティーを組んでもゴブリンとさほど変わらない。低ランク向けの目標だ。
くじと一緒に手渡された地図と生態マップを見比べ、ある程度の目星をつける。
「目標はこの森であります」
「了解!」
斥候鷺は平野と森の境界に好んで住む。
めぼしい攻撃手段を持たない姉妹は、狩るにも時間がかかるだろうと踏んで一番近い森へと目的地を設定した。
全体の抽選が終わり、その旨がアナウンスされる。
スクリーンに映る、カウントダウン。
『開始まで 3 』
『 2 』
『 1 』
『 スタート 』
姉妹の周りが一斉に走り出す。アラシェに見せれば、始発ダッシュとか、福男とか言いそうな光景であった。
ただし。姉妹は先頭集団に混ざるでもなく、一歩引いた位置で俯瞰していた。これは、人混みの中ではぐれると危ないだとか着いた時にスタミナが持たなそうだとか、そういった理由もあるのだが、主には人の密集するであろう最寄りの森を避けるべきか判断するため──つまり、れっきとした作戦行動であった。
一直線に最寄りの森を目指していた先頭集団やその後追いの内から、目標を変えたのか進路を変更する参加者が増えたあたりで、クリスは目標を最寄りの森に確定した。
「作戦に変更はなし。引き続きあの森を目指すであります」
とは言え姉妹はまだまだ幼い娘っ子である。歩幅も小さい。後追いにすら大きく距離を離されても、ゆっくりゆったり進むのであった。
さて。ウサギは幸いにも直ぐ見つかり、遂にやってきた戦闘の時。
何度も言うが、姉妹には攻撃手段がほぼ無い。……ので、なけなしの攻撃バフをかけて、やたら硬い杖の殴打で攻める作戦だ。
辺りにはウサギが一匹のみ。森の端と平原をあっちこっちと走り回って、ようやく瀕死に追い込んだ。
森に入っていった集団のうち、出てきたのは数ペアのみだった。このまま狩り終えて戻ることが出来れば、上々の成績をのこせるだろう。と、クリスは考えた。
「トドメであります! てやーっ!」
鬨の声とともに、這う這うの体のウサギに殴り掛かるクリス。
(ちなみにコロンは仕留めきれなかったときのバックアップ要因として控えている)
そんな時だった。
「おっと! すまんなァ、手が滑っちまった!」
横合いから投げられた果物ナイフが、ウサギの首を貫いた。
一縷の望みをかけ棒を振り下ろすも、無情。ウサギの死体は掻き消えてしまった。
「なっ、そ、そんな……!?」
「何しやがりますです!」
「コロン! あまり汚い言葉遣いはいけないでありますよ!」
姉妹は狼狽える。
果物ナイフを投げた犯人は、小汚いマントをつけた小汚いがある程度若い男であった。小汚い無精髭を生やし小汚い布服に小綺麗なシルクハットと三角グラサンで怪しさ満点、どこからどう見ても故意に手を滑らせたとしか思えない胡散臭い男である。
「いやはや手が滑っちまってナ! じゃあな!」
男は早々に立ち去っていく。
姉妹は、気持ちを切り替え次の斥候鷺探しへと赴く──
訳もなく。
クリスが憤り、
「一体なんなのでありますかあの男!」
コロンが口汚くなり、
「とっちめてやりまさあ!」
「コロン!?」
そうして、彼女たちの戦いが始まった。
【用語解説】
〇じゃんけん
握りこぶしのグー、グーから二本指を立てたチョキ、平手のパーと、三つの手の形で勝敗を競う遊び。
各々の手には有利不利が存在し、所謂スタンダードルールである東京ルールでは、不等号の開いた方がより強いとすると、グー>チョキ>パー>グーの三竦みとなる(要出典)
また沢山のローカルルールがあることも特徴であり、ローカル圏の人間は上京する前にジャンケン講習への参加が義務付けられている(要出典)
多くの人に信仰されるローカルルールとしては、指を三本立て全ての要素を内包する一手を出す『無敵手』ルール(要出典)、チョキを出す場合に立てる指を調整することによって相性関係に変化を生じさせ、圧勝、惜敗など勝敗を増やす『相性手』ルール(要出典)。そして、じゃんけんをする前の挨拶前に一度のみじゃんけんをしてよい『アンブッシュ』ルール(要出典)などがある(要出典)
前述(要出典)のジャンケン講習(要出典)は1997年に社会問題となった(要出典)じゃんけん齟齬問題(要出典)の対策として打ち出された制度(要出典)であり、施行後はじゃんけんマナー(要出典)に著しい改善(要出典)が見られた(要出典)と記録に残る(要出典)
〇ギルマスと首長
とても仲が良い。とても仲が良いので汚職を疑われたことがあるが、別に何もしていなかったので何も起きずに収束した。
〇兄者
アラシェ兄者!
〇斥候鷺
本能レベルで斥候職のうさぎ。サイズ感はちょっと大きいうさぎといったところ。
単体ではこの上なく雑魚。パーティーを組んでギリギリ雑魚。
どうでもよいが、一羽二羽と数える。
〇前衛蝗
耐久と攻撃力に長けた蝗。現実のイナゴよりふた周りほど大きいので、虫嫌いには注意して欲しい。が、それでも結構小さいので、初心者には武器が当てにくいとか。
さらに仲間を呼ぶことがある。鬱陶しいね。
戦闘力はそれほどでもなく、やたら硬いだけのイナゴである。
〇魔法使貝
巻貝。こう見えて本体はスライム系である。体長は殻込みで1m弱程もある。
堅牢な貝殻を持ち普段は攻撃が通りにくいが、魔法を撃つ時に必ず顔を出す性質があり、やっぱり雑魚。また打撃なら貝殻ごと潰せる。
〇殿鼠
パーティーの殿を務める偉い子……ではなく、パーティーに寄生し戦闘を飄々と避け旨い所だけはかっさらう、癌。大きめなモルモット程度のサイズ。
いかんせん欲が強すぎるためにほかのメンバーがあらかたやられるまで逃げようとせず、結果的に最後に仕留められることが多く、殿の名がついた。




