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3話

 ドラゴン軍団の支配下にあったリザードマンの沼は、かつての美しい湖畔とはほど遠い血と硝煙のくすぶる激戦区と化していた。

 妖精軍の猛攻により、ドラゴン軍はリザードマン達が暮らすこの沼まで前線を下げざるを得なかったのだ。

 ドラゴニュートの戦士ダリルは、今まさに妖精軍との戦闘を繰り広げていた。


 ダリルは誇り高き竜種、ドラゴニュートにして武人としての矜持も持ち合わせる生来からの戦士だ。

 漆塗りのような漆黒の鱗は見るものに圧倒的な存在感を与え、戦国武将のものを模したドラゴン用鎧兜は彼の性格を端的に表すと同時に、高位のモンスターである事を証明していた。

 左目の傷は戦によりついたものであり、彼はこの傷を自らの武勇伝にしていた。

 「おのれ妖精め、面妖な術を……」

 彼は今、ウンディーネの『魅了』スキルにより、攻撃を妨害されていた。

 「くっ……どうすればいいのだ……」

 「こうするのさ!」

 声と同時に朱色の鱗をしたドラゴニュートが槍斧でウンディーネの首を刎ねる。

 「レドラ! お主どうやってこの術を……」

 「おっとそいつは聞かないお約束だぜ旦那」

 レドラと呼ばれる若いドラゴニュートは口に手をあて内緒のジェスチャーをするが、同じ雄同士ダリルはなんとなく察してしまった。

 「それよりも旦那、なんかやべーやつがこっちに近づいてきているんだが」

 レドラに言われ、ダリルは振り返り後方を確認する。

 「なんだ、あいつは……」

 『魅了』スキルの影響で気配を感じる事が出来なかったが、彼の後方では禍々しい雰囲気を放つ首のない馬に乗った首のない騎士が鈍色の西洋騎士風の甲冑を着込み、身の丈程はある大きなグレートソードを肩に担ぎこちらに向かってきていた。

 敵と一足一刀の間合いをとると、ダリルは腰に提げた大太刀を抜刀し構える。

 「我が前に立ちはだかった事、後悔させてやろう!」

 鍛えられた脚力と、竜の翼で助走をつけ、ダリルは首なし騎士に勢いよく飛び掛かる。

 そして、大太刀を振りかぶり首なし騎士を一刀両断しようとするが、その一撃は不可視のバリアによって吸収されてしまう。

 「『魔法シールド』かっ!」

 魔法シールドによって攻撃を無効化されたダリルに一瞬の隙が生まれ、首無し騎士はその一瞬の隙に反撃を叩き込む。

 回避が間に合わないととっさに判断したダリルは、大太刀で首無し騎士の西洋剣を受け止める。

 「なにっ!」

 首無し騎士の一撃を受けた大太刀は折れてしまい、分断された刃が回転しながら宙を舞い、地面に突き刺さる。

 ダリルは大太刀が受け止めきれなかった衝撃を受けて数メートルほどノックバックした。

 「この膂力……貴様いったい何者だ!」

 ダリルの問いに、首無し騎士は答えようとしない。首がないから喋れないのかもしれない。

 ダリルは大太刀を霞に構え魔力を込める。

 魔力を込められた大太刀は淡く発光し、冷蔵庫にしまっておいた長ネギのように新しい刃が生えてきて刀身が修復されていく。

 ダリルは修理した大太刀を再び構えると、首無しの騎士に突きを放つ。

 その攻撃はまたも魔法シールドに吸収されてしまうのだが、ダリルはねじ込むように大太刀で貫き続ける。このまま強引に魔法シールドを突き破ってしまおうと考えてたのだ。

 「うおぉーっ!」

 ダリルは雄たけびをあげてより一層力を籠める。ドラゴニュートであるダリルの膂力は相当なものであったが、その全力の力を使っても不可視の壁を突破することはできない。

 「どりゃーっ!」

 雄たけびと共に、槍斧を構えたレドラが空から流星のように突撃してくる。

 彼の剛腕と重力補正を掛け合わせた一撃により魔法シールドのバリアにひびが入る。

 「もう少しだ!」

 そのひびを見て二人は最後の一押しとばかりに全身の力を武器に込める。

 攻撃に夢中になっていた彼らは、首無し騎士の馬が後ろ脚をこちらに向ける動作への反応が一瞬遅れてしまう。

 「! しまった!」

 防御する事が出来なかった二人の顎に、馬の強烈なキックが炸裂する。

 空中に投げ出された彼らを、首無し騎士はすかさず大剣でひと薙ぎにした。

 「がはっ……!」

 複数の敵を薙ぎ払うために設計されたグレートソードの攻撃範囲は大きい。首無し騎士は剣の斬り返しでダリルに追撃を行う。

 直撃を受けたダリルは吹き飛ばされて遠くの木に激突する。 

「ぐっ、おのれっ……」

 ダリルはすぐさま態勢を立て直そうとするが、ダメージにより思うように身体が動かない。

 首無し騎士はものすごい勢いでこちらに突撃して距離を詰めてくる。

 騎士の持つグレートソードは、これまでの妖精軍とは桁違いの攻撃力を誇っていた。いくら頑丈な鱗と強靭な生命力を持つドラゴニュートでも、もう一度同じ攻撃を喰らえば生きている保証はない。

 (背水の陣か!)

 絶体絶命のダリルと首無し騎士の間に割って入るように、黒い稲妻の柱が突き立てられる。首無し騎士の馬は稲妻を避けるように踵を返し、ダリルからいったん距離をとる。

 ダリルは上空を見上げる。彼はこの稲妻攻撃には見覚えがあった。

 「ニコル殿か!」

 上空で大きな翼を羽ばたかせ滞空している萌黄色の巨竜は、齢5000歳を超える叡智と災禍の象徴、エルダードラゴンのニコル・エルダールだった。

 ニコルは稲妻で騎士をけん制しつつ、地面に着陸する。

 「ニコル殿、あやつは一体……」

 ダリルはニコルに尋ねる、エルダードラゴンはその長い年月によって様々な知識を得ているのだ。ニコルは静かに答える。

 「死霊騎士、『デュラハン』だ」

 

*

 『死霊騎士デュラハン』

 複数の妖精を合成して召喚する上位ユニットであり、その攻撃力は合成した妖精の数に比例して上昇する。保有している兵力の大半を失うというリスクはあるものの、それに見合う制圧力を持った妖精軍の最強ユニットだ。

 近接戦ではグレートソードによる範囲攻撃で敵を薙ぎ払い、遠距離や空中の敵に対してもジャベリンを投げて攻撃可能な万能性能に、魔法シールドによる防御力に加え馬に乗っているため機動力にも優れるという他の妖精達と比べると破格の性能を誇っていた。


 俺はドラゴン達を次々と蹂躙していくデュラハンの姿を、タブレットの画面越しに眺める。

 画面ではデュラハンが複数のドラゴンを圧倒しており、後方では新たに製造したエルフ達が援護射撃を行っており、この調子でいけばリザードマンの沼の制圧は容易だろう。

 画面外から一体のドラゴニュートが増援にやってくる。

 「通常種とは見た目が違うな、亜種か? それにしても単騎とは見くびられたものだ」

 そのドラゴニュートは、大きさこそ通常と変わらないものの全身の鱗は黄金色に輝き、同じような色の輝く鎧に身を包んでいる。肩にはデュラハンのものと似たグレートソードを担いでいるが、デュラハンの武骨で無機質なものとは異なり各所に機械的なギミックや龍を模した意匠が施されている。

 ここで俺は、ある致命的な誤算に気が付く。

 (おかしい、先日のハラス攻撃によって資源のアドバンテージはこちらにあるとはいえ、敵だって相当数の魔鉱石をため込んでいるはずだ。資源があるのになぜこの状況で一体しか増援を出さない?)

 ドラゴン軍はそのユニット性能にひたすらあぐらをかいており、内政や防衛設備の強化をロクに行っていないのは目に見えている。となるとその分の資源はユニットのドラゴン達に使われている事になる。

 ドラゴンは図体がデカくどこかに隠しておくには不向きな事を考えると、あの金色のドラゴニュートは高コストの超弩級モンスターという可能性が高い。

 (馬鹿な、そんな戦術理論ビルド・オーダーは聞いたことがないぞ……)

 俺は頭を抱えた。だがもし読み通りだとすれば迷っている時間はない。

 「全軍を防衛施設のある安全地帯まで後退させろ! エルフ達はデュラハンの離脱を全力で援護だ、急げ!」

 伝令を受けたケット・シーが猛ダッシュで戦場へと向かう。

 ここでデュラハンを失ったら勝ち筋がなくなってしまう、何としてもそれだけは避けたかった。

 命令を受けたデュラハンがエルフの援護射撃を受けながら後退する。

 それを見た金色のドラゴニュートは一瞬動きを止め力をこめ、デュラハンに向かってものすごい勢いで突進をしてきた。

 突進攻撃を受けたデュラハンは真っ二つになり消滅した。


 「馬鹿な、一撃だと……」

 俺は驚きのあまり言葉を失う。

 デュラハンは通常ならよほど無茶な戦いでもさせない限りは倒される事のない動く要塞とも言える堅牢なユニットだ。そのデュラハンが一撃で倒されるなど、にわかには信じがたい事だった。

 「全軍を撤退させ、トラップとバリゲートを展開し敵の侵攻を少しでも食い止めろ! アリアはユニットの増産を急げ! 何を愚図愚図している、早くしろ!」

 俺はアリアの髪を鷲掴みにし拳を振り上げる。

 「やめるニャーッ! アリアは何も悪くないニャ!」

 ケット・シーが俺の腕に飛び掛かり必死に生死する。

 俺はケット・シーを強引に振り払い床に叩きつけ、踏みつけてその腹を執拗に蹴りまくる。

 「ニャビーッ! ニャがはいに八つ当たりするのはやめるニャーッ!」

 ケット・シーが悲痛そうな叫びをあげる。泣き叫ぶケット・シーの姿を見て俺は余計に腹が立ち、蹴る足の力を強めた。

 ボロ雑巾のようになったケット・シーと共に大理石の床に反射した自分の顔が映る。本来整った顔立ちのはずの俺の顔は、怒りで鬼のような形相に歪んでいた。

 (なぜ俺はこんなに怒っているんだ?)

 俺は自分自身に向かって自問自答する。

 デュラハンを失ったのは致命的であるが、まだ敗北が決まったわけではない。

 (たががゲームに何故俺はこんなに熱くなっているんだ? 馬鹿馬鹿しい……)

 冷静さを取り戻した俺は、ぼろ雑巾のようになったケット・シーを抱きかかえる。急に申し訳ない気持ちが沸き上がってきたのだ。

 「ケット・シー、ひどいことをしてすまなかった。ついカッとなってしまったようだ」

 「コマンダー様……、イライラした時は一度深呼吸をして冷静になるといいニャ。怒りの原因って案外くだらない事だったりするものですニャ」

 ケット・シーは優しい声で呟くとそのまま目を閉じて動かなくなった。力尽きて眠ってしまったようだ。


 「さて、これからどうしたものか」

 俺は玉座に戻り作戦を考える。

 デュラハンは攻撃力・防御力共に妖精軍トップの最強ユニットであり、そのデュラハンが一撃で倒されたとなると、他のユニットでは太刀打ちできない事は容易に想像できる。

 しかも複数の妖精を合体して召喚するという仕様上、複数体のデュラハンを並べて攻撃するという事も不可能である。

 「何か致命的な弱点があるといいのだが……」

 「弱点なら見つけたわよ」

 俺の独り言に答えるように一人の青い美女型妖精が神殿に入ってくる。

 「ウンディーネか、偵察の結果はどうだった?」

 「とっておきのネタを見つけたわ。ひとつはこれね」

 ウンディーネは俺の足元に一冊の黒いノートを投げる。

 俺はノートを拾い上げパラパラと流し読みする。

 「これが、やつの弱点かっ……」

 ノートに書かれた内容に俺は思わず笑みをこぼした。

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