#54 量産型の王子様
「惑星イヅ……35年前にイスガルド共和国とのトラブルがあったことを除き、外部から惑星に入った種族の記録は全くありません。種族・不明。惑星を構成する物質・不明」
ジュリア副長がタブレットを見ながら言った。惑星イヅから出て行ったとされるバール王子の船は、ピンク・スコーピオンのマイクとフロル率いる別動隊が追いかけて行った。残るメンバーで、惑星イヅを探索しなければならない。ナリナァが言った。
「環境適応スーツを着て行きな!」
アリーヤは上陸班を編成する。
「今回は全くの未知の惑星なので、20名で上陸して、上陸してからも2班に分かれて捜索します!情報収集・そして分析のため、情報員ピグー隊員、メイティン隊員にも惑星に降りて詳細を分析してもらいます!出発!」
ハズク星人のピグー隊員は乗り気だった。くちばしを上げて喉を鳴らしていた。
「ヒッヒッヒ、あたしの出番が来たねぇ!」
ウォン・メイティンはげんなりした様子でピグー隊員を見た。
「まさかコイツと一緒に行動する日が来るとはね……」
2人はあまり仲が良いとは言えないが、仕方がなかった。アリーヤは指示を出す。
「惑星イヅの大気圏内に入る!衝撃に備えろ!」
惑星イヅ。大気圏を突破し、地上へ着陸しようとしたアリーヤたちだったが……
通信員のヴィナ隊員が報告をした。
「通信の発信源はこの辺りですが、陸地が見当たりません」
分析員のメイティンが、惑星を分析する。
「水、メタン、アンモニアの割合が大きいですが、大気は主に水素やヘリウム、そして微量のハマニウムとボラノイドで構成されていますね。質量・地球の約17倍。完全なガス惑星です」
メイティンの報告に、一同は困惑した。ジュリア副長が訊ねる。
「ガス惑星だって?イスガルド王の話によれば、この惑星には非常に排他的な種族が居たとのことじゃないか。ガス惑星で生命が育つとは思えませんよ!」
惑星間の歴史に詳しいリッキー・テイラー隊員は、笑いながら言った。
「35年前に、イスガルド共和国は惑星イヅの種族たちと友好を結ぼうとして立ち寄ったが、その種族たちはイスガルド共和国の使者を半日も経たずに追い返したって話だがよぉ、これはとんだ嘘っぱちだったわけだ」
アリーヤが訊いた。
「じゃあ、バール王子の通信はどこから?」
一方、宇宙船を追っているマイクとフロルたちが乗った小型シャトルに居たレベッカ・ホランドは、妙な事に気が付いた。
「あ、あれ見て!惑星パピリが見える!」
フロルとムルミンが身を乗り出す。
「何だって!?」
本当だった。バール王子の生命反応を乗せた船は、まっすぐとパピリ星へと向かっていた。
「いったい何のために……」
惑星パピリの港に降り立つ宇宙船。そこから出て来たのは、まぎれもない、イスガルド共和国のバール王子だった。バール王子はマイクたちの小型シャトルが付いてきているのを見て、腹を立てていた。
「とうっ!あのシャトルめ、まだ我を追い回して居る!無礼者の無礼者め!」
すると宇宙船の奥から、1人の若い女性が出てきた。
「もぉ~、バールちゃんったら、怒るとこわ~い」
「しかし事実だぞ、シャモナー。あの宇宙船を何とかせんかっ」
シャモナーと呼ばれた女性は、グレー色の鎧を着たままのバール王子ににっこり笑いかける。
「ところでさ、バールちゃん。契約書にサインはしてくれた?」
「あぁしたとも。この宇宙広しといえども、このプリンス・バールを大宇宙から見つけてサインをねだるのはお前さんくらいだよ、シャモナーちゃん!」
2人がパピリ星の街に繰り出す前に、話し中に着陸していたマイクとレベッカが2人の前に立ちふさがる。レベッカがバール王子に質問をした。
「イスガルド共和国のバール王子っすか?お父様のイスガルド王から依頼があったんで、すぐイスガルド国の方に帰りましょうぜ」
訊き方はともかく、その人物が宇宙で有名なバール王子であることは明らかだった。バール王子はふっと笑って言った。
「ならぬ」
「はい?」
王子は事情を説明した。
「我はバールであってバールでない。つまりバールだ」
レベッカとマイクは顔を見合せた。バール王子が変なことを言うのは珍しい事ではないことくらい、2人は知っていた。が、バール王子は続けてこう言う。
「オリジナルのプリンス・バールは今頃惑星シェムザのイスガルド共和国へ帰っている。我はクローン・プリンス・バール。つまりクローン体だ」
クローン……同一の遺伝情報を持つ個体。簡単に言えば、彼はバール王子をコピーして作られたもう一人のバール王子だと言うのだ。マイクがため息をついた。
「仮にあんたがクローンだとしよう……どうやってそんなに早く急成長した?」
バール王子が走り出した。
「それは言えぬ!!」
その頃、惑星イヅに居るスコーピオン号内でも、異変が起きていた。部屋で待機していたホノカ隊員の部屋の自動扉が急に開いた。そして閉じた。
「え、あれ、ドアが開いて……閉じた……」
ホノカ隊員はあたりを見回すが、だれもいない、と思っていると、廊下の向こう側に、歩き去っていく謎の灰色の鎧集団たちが見えた。
「ヤバイ、あっちの方向にアリーヤいるじゃん!」
ホノカは、操縦室に居るアリーヤに連絡を取る。
「大変、アリーヤ!侵入者だよ!」
「おちついて、ホノカ。ケガはない?」
「私はだいじょうぶだけど、灰色の鎧武者みたいなのがそっちにゾロゾロ向かってるよ!気をつけて!」
「灰色の鎧武者?」
アリーヤはその特徴を持つ人物を1人知っていた。惑星シェムザのイスガルド共和国・王子……
「バール王子……」
「その通りっ!!」
背後から大きな叫び声。アリーヤと隊員たちは振り向いた。灰色の鎧を着た同じ顔立ちの人物が、スコーピオン号内の操縦室に5,6人入って来た。
「我が名はクローン・プリンス・バール2号!ピンク・スコーピオンを乗っ取りに来た!」
アリーヤたちは身構える。すると、もう一人のバール王子のクローン体が、アリーヤに紙の名刺を差し出した。
「我はクローン・プリンス・バール3号!この船を頂戴致す!」
「え、名刺?」
「我はクローン・プリンス・バール4号!我はトイレを借りたい!」
「あ、そこの角を曲がって左です……」
「我はクローン・プリンス・バール6号!5号は惑星パピリで遊んでいる!」
こうして、スコーピオン号内部には、バール王子と同じ顔をしたクローン・プリンス・バールが廊下を含めて合計100人は入ってきていた。ホノカは自動扉にロックをかける。
クローン・プリンス・バールたちは、攻撃する様子もなく、ある者はあくびをし、またある者は地べたに寝転がり、またある者はカメレオンのモノマネをしていた。廊下に並んだ100人以上のバール王子が、アリーヤ達に自己紹介をしようと並んでいた。
一方、惑星パピリの夜の町では、逃げるクローン・プリンス・バール5号と謎の女・シャモナーがいた。追いかけるレベッカとマイク。待ち伏せしていたフロルがシャモナーを取り押さえる。
「捕まえたよ、お嬢ちゃん。君の目的は何だ?」
レベッカも駆け付ける。マイクはクローン・プリンス・バールの方を追っている。シャモナーは笑い始めた。
「知りたければ教えてやろう。我々カー星人はプリンス・バールの血液を採取した。その血液でプリンス・バールを量産した!クローンだからといって侮るな……名づけてプリンス・バール・トルーパーはイスガルド共和国へ侵攻する手筈になっているのだ!」
「カー星人だと?」
「そうだ。イスガルド王の使いだな?35年前に惑星イヅにいたのは我々カー星人だ!」
つづく




