#52 ピンクの花の、花言葉
惑星キヅナの別荘で、オリオン18世はミカを連れてくつろいでいた。
「どうした、ミカ。こっちに来てくつろがないか?」
警戒するミカに、オリオン18世が冷たい笑顔で問いかける。
「どうした、ミカ。地球のオレンジジュースが飲みたくなったか?それとも、ピンクの花が見たいのか?」
ミカはオリオン18世のオレンジ色の目を見て首を振る。
「地球に行きたいのなら一緒に行こう。侵略の手筈は整えてある」
ミカは動揺して、叫ぶ。
「やめて!アリーヤの地球を汚さないで!」
するとオリオン18世の眉間にシワが寄った。ワイングラスを叩き割る。
「またアリーヤか!どこへ行っても夫の名は呼ばずにアリーヤ、アリーヤ、アリーヤ!その地球人のどこがお前を惹きつける!?」
突如、オリオン18世とミカから5メートル離れた窓ガラスが派手に割られ、1人の少女が入って来た。ミカは驚く。が、オリオン18世はそんな様子も見せずに当然の来訪者を静かに睨みつけた。
「客は玄関から入ってくれ」
窓から来た少女、アリーヤ・カルティエは、立ち上がって軽口を叩く。
「セキュリティが硬いもんでさ、お届け物があるんだ」
「ほう、我々夫婦にか」
「冗談止めてよ、ⅮⅤモラハラ星人の旦那様。お届け物はミカにあげるの!」
アリーヤはミカにもらった指輪を示した。ミカの顔に笑みが宿る。
「アリーヤ!宇宙に来れたんだね!夢じゃないよね!」
「現実だよ、ミカ。今助けるからね」
オリオン18世は怒りに震えた。こいつがアリーヤか。
ミカがアリーヤに近づく。アリーヤは指輪を差し出した。ミカは首を振る。
「その指輪はもう、アリーヤの物だよ。指輪は宇宙そのものだから……」
オリオン18世は窓の外を見た。護衛がやられている。バミリオン人と地球人が見えた。アリーヤの指輪が光った。
「え?この光は―」
ミカが目を見開く。
「危ない!」
突然、ミカがアリーヤを突き飛ばした。オリオン18世がガラスの破片でアリーヤを攻撃しようとしたのだ。間一髪で、攻撃を避けることができた。オリオン18世は迫りくる。
「ミカ、お前は私の妻だぞ?なぜ私のいうことが訊けぬのだ?そんなに私のことが嫌いか?」
アリーヤはミカの手を取って、近くの扉を開けて階段を駆け下りる。外ではマイクやブリトニー、ライアンたちがデッド・オリオン軍を相手に大暴れしていた。階段の途中で、突然ミカが倒れる。アリーヤはミカを起こそうとする。
「ミカ、どうしたの?立って!逃げるんだよ!」
アリーヤはふと、ミカの腕に大量のアザが出来ているのを見てしまった。夫にやられたんだ。アリーヤはミカを必死におんぶして、階段を駆け下りた。
すると2階の通路に出たが、東側からオリオンの兵士、北からもオリオンの兵士が。挟み撃ちか―
「アリーヤ、ちょっとだけ、指輪を貸して」
ミカが指輪をアリーヤから取ると、人差し指に指輪をつけた。ミカの髪の毛が逆立ち、謎の衝撃波がびりびりと、廊下を伝わった。次の瞬間、オリオン兵士の頭に炎が付いて、兵士は燃えだした。兵士は断末魔を上げて、骨も残らず灰になった。次々と新手の兵士が現れては、ミカの指輪の力の前に、死んでいく。
炎が燃える。人が燃える。ミカが崩れるように倒れた。アリーヤは、親友のミカを肩にまわして、燃える建物の出口を探していた。背後から、オレンジ色の目をしたオリオン18世ががガラスの破片を持って迫りくる。ミカの叫び声。
「逃げて!!」
ミカがまたアリーヤを突き飛ばすと、彼女のお腹にガラスの先端が刺さる。口から青い血が流れた。アリーヤは悲鳴を上げた。ミカが指輪を光らせると、オリオン18世は苦しみだし、目から、口から、全身から炎を吹き出し、叫びながら絶命した。膝から崩れ落ちるミカ。
「見てたでしょ?最低でしょ?残酷なんだよ、私。」
彼女は血と涙を流しながら、倒れ込んだ。アリーヤはミカに駆け寄る。
ミカは小さな声で言った。
「アリーヤ、言ってたよね、地球はイヤな所だって。ここと同じで、争いが絶えないの。私、もうちょっとアリーヤと一緒にいたかった……平和な宇宙でのんびりおしゃべりしたかったな……」
「まだ間に合うよ、ミカ。治療を受けよう。ここを出れば……」
「優しいね、アリーヤ。私は命を殺したんだよ?私に優しくしてくれたのは、ローザとアリーヤだけだった。」
アリーヤはミカを抱きかかえて、言葉を聞いていた。涙があふれて止まらない。ミカは急に、ピンクの花のことを言った。
「ピンクの花の花言葉、覚えてる?」
アリーヤは答えた。
「(大胆)(純愛)(貞節)。」
「アリーヤ……」
「何?ミカ……」
ミカは、アリーヤに指輪を渡して言った。
「きみの周りが愛にあふれて、優しさと幸せに満たされますように」
ミカは目を閉じた。
「最後に会ってくれて、ありがとね」
ミカの手が落ちた。
パワードスーツを着たブリトニーとマイクが入ってくる。
「アリーヤ、無事だったか!」
マイクはボロボロに焼けたオリオン18世の死体を見て言う。
「ピンク・スコーピオンが勝ったぞ!オリオンは降伏だ!」
惑星キヅナ中に、デッド・オリオンの帝王オリオン18世死亡のアナウンスが流れる。宇宙帝国デッド・オリオンは、バミリオン人の捕虜となり、一部が遠い宇宙へ逃げ出した。
ブリトニーはうなだれているアリーヤに話しかける。ミカの亡骸を見た。
「なぁ、その死体は誰だ?」
「……味方だよ」
「そっか。なら墓を作ってやらねぇとな」
アリーヤは名もなき自分たちの宇宙船に乗って、遠い惑星、地球を目指していた。手にはミカの遺骨が入った箱と、指輪が入ったカメラが握りしめられていた。
2年後。スコーピオン号。14歳のアリーヤは、思い出写真館のすみにある、ピンクの花の写真を指差した。ホノカが訊いた。
「この写真って、もしかしてミカちゃんの……」
「写真の中で、ミカは生きてる。カメラにも、指輪にも」
ホノカは何も言わずにアリーヤにハグをした。
アリーヤの目から、一滴の涙が静かにこぼれ落ちた。
つづく




