#1 起動
誕生日に、親友がカメラをくれた。
その日は親友とママが、盛大に祝ってくれた。とてもうれしかったけど……
数日後、親友は姿を消した。
地球の大気圏外、つまり宇宙空間に静止した宇宙船がある。司令官ナンバー06は部下ジュリアを呼んだ。
「例の任務は順調だろうな?」
「はい」
「よろしい。では、逃走したレジスタンスのスパイは?」
「現在、探索中です。」
朝。地球のとある町。アリーヤ・カルティエは寝室で、ある夢にうなされていた。
「うーん、冥王星から侵略者が、恐いよう……」
母親のローザが彼女を起こしに来た。
「起きなさい、宇宙オタク!」
飛び起きるアリーヤ。二人はアフリカ系の地球人だ。
「夢でも見たの?ゴハンを食べなさい」
朝食と身支度を整えたアリーヤは、自転車カゴにカメラとゴーグルを入れ、公園へ出かける。
「Hi!私はアリーヤ、ごく普通の14歳。将来の夢は超一流の写真家!今日は待ちに待った皆既日食の日!絶対、カメラに収めるぞ!」
そんなアリーヤを見送るローザに、近所の人が話しかけた。
「おや、お宅のアリーヤ、今日は元気だねえ?」
「日食を撮りに行くんですって。まったく、こんな時だけはしゃぐんだから。このあいだまで家にいたあの子とだって、小惑星が何だの、冥王星が何だのってそんな話ばかりしてたのよ。」
ローザは答える。
「あの子もアリーヤと仲が良かったねえ。行方は分からないのかい?」
ローザは静かに口をひらいた。
「いいえ……」
時を同じくして、TⅤではこんなニュースが。
「昨日17時までの未成年連続失踪事件ですが、国内では25人が失踪しています。一方、国外では―」
そのころ、アリーヤは公園の広場に到着し、日食用のゴーグルで太陽を見ていた。太陽は丸い大穴があいたように見える。
「見えた!よぉし、撮るぞぉ!」
アリーヤがさっそくカメラを構えると、太陽がある方角から、小さな丸いものが落ちてきて、彼女のおでこにぶつかった。
「痛ッ!」
後ろの芝に倒れるアリーヤ。すると、バレーボールくらいの大きさの物体は、アリーヤに向かって話しかけてきた。
「大丈夫か?ケガは無いか?」
ビックリするアリーヤ。ボールのような物体は、3つある黄色い目を光らせる。
アリーヤはなんとか返事をすると、太陽をゴーグルで見たが、日食は終わった後だった。
「日食が終わっちゃった!そんな、ガックリ……」
アリーヤは落胆した。そんなアリーヤにボール型の人物はこう問いかける。
「落胆している所ですまないが、隠れ家を提供してくれないか?」
分からない、という表情のアリーヤ。彼女は、現状が呑み込めないながらも、そのボール型の人物を、自身の家の個室に招いた。
「ぼくはコア。こことは別の宇宙から来た、人工知能搭載型ロボットだ。凶悪な宇宙犯罪者から、宇宙の平和を守るためにやってきたんだ。」
ボール型の人物・コアは語った。
「いや、話の展開が急だな!宇宙犯罪者って何!?そもそもキミ、ロボットなんだ!」
コアの話に、猛烈にツッコミをあびせるアリーヤ。
「キミは、ぼくの姿を見ても驚かないようだね」
「まあ、今時は科学技術が進歩してるし、人工知能も珍しくないからね。最初は驚きましたけど」
アリーヤの反応をよそに、コアは続ける。
「僕の世界の人類は、銀河征服を企む組織、デッド・オリオンによってほとんど壊滅させられてしまったんだ。生き残った人類も、ヤツらによって資源発掘などの強制労働を強いられている。そして、デッドオリオンは新たな領域を得るために、キミたちの住んでるこの宇宙の地球に来た。ヤツらは間もなく、地球への総攻撃を始めるだろう」
「これ、何かのドッキリ企画?私、宇宙オタクではあるけどさあ・・・・・・」
「大丈夫だ。ボクを含むレジスタンスが、デッド・オリオン壊滅を目指し、計画を立てている。問題は、レジスタンスは時空移動の装置を持っていない事だ。ボクはデッド・オリオンの宇宙船に侵入し、この宇宙へ来た。デッド・オリオンを倒すには、ヤツらを一旦元いた宇宙に戻してから、攻撃する必要があるんだ。元の宇宙に戻った瞬間に時空移動システムを破壊すれば、ヤツらは二度と襲ってこない。時空移動システムの製造技術は、遠い昔に失われているからね」
「うーん……」
アリーヤは考え込んだ。
「ピンと来てない様子だな」
そういうコアに、アリーヤは言う。
「要するに、コアの世界の人達は、宇宙人に捕まってタダ働きにされてるんだよね?」
「まあ、そうなる」
「世間にはタダでさえ所得格差があるのにさ、拘束されてタダ働きとかあんまりじゃん!コンビニのバイトだって給料少ないのに、許せない!」
「お、おう。そうだな」
「と、いう事は、コアは正義の味方なんだね!」
「そういうことさ」
「アリーヤ」
居間でローザが呼んでいる。
「コンロが壊れちゃったの!修理を頼める?」
「はーい、今行く!」
アリーヤはコアの話を胸に秘めながら、居間へ向かった。
一方、デッド・オリオンの宇宙船。
「リスト中の地球人を捕獲し終えました」
部下のジュリアの報告に、満足げな司令官。
「よろしい」
「スパイの居場所をキャッチしました」
「始末しろ。ついでに地上へ侵攻するぞ。」
アリーヤの家では……
「コンロを直したよ!」
「ありがとう、助かるわ!」
夕食を食べる一同。コアは立体映像で、人間の姿に変装している。ローザがたずねる。
「コアさんはどちらから来られたの?」
「ハワイです。そこの友人から、この町が素晴らしい街だと訊きまして、旅行に来たんです。それにしても、キレイな花ですね」
コアは正体がばれまいと、宇宙から来たことは秘密にしていた。
そして、食卓の真ん中に飾られた、ピンクの花を指して訊ねた。
ローザは花の説明をした。
「このピンクの花の花言葉は、(大胆)、(純愛)、(貞節)。この町では皆が愛にあふれ、優しく幸せになれるよう、飾っているのよ」
「親友も好きな花だったんだ」
アリーヤはぽつりと言った。
「この家にしばらく住んでたある親友もね、ママの飾ってるこの花が大好きで、よく写真に撮ってたんだ」
アリーヤの目から、涙が一粒こぼれた。彼女の右手にそっと手を置くローザ。アリーヤ、1眼レフのカメラを手に取り、再び口を開く。
「……このカメラさ、親友がくれたんだ。私ね、人生でイヤな事が多くてさ、つい投げやりになっちゃうんだ。 そんな時に、親友は励ましてくれるの。この世界にはここよりもっと楽しい場所がある。いつか二人で、そこに行こうって。」
「アリーヤ……」
突如、瞬く間に閃光が走る。頭上で巨大な爆発音がしたかと思うと、アリーヤ達の家が爆撃、破壊され、ガレキのように崩れ落ちた。アリーヤ達は身をふせる。
残骸からはい出るコアとアリーヤ。(コアの立体映像は解かれている)
「何……?今、何が起こったの?」
「デッド・オリオンだ!ボクの居場所が突き止められたんだ!」
アリーヤは辺りを見回す。
「ママは?ママはどこ?」
「動くな」
アリーヤの背後に見慣れない武装兵が立っており、2人に銃を突きつけた。
「デッド・オリオン!」
コアが叫んだ。その瞬間、兵士は彼を光線銃で撃ち落とした。
「コア!」
アリーヤは叫ぶ。
「レジスタンスのスパイ!見つけたぜ!」
撃ち落とされたボール型のコアを掴もうとする、デッド・オリオンの兵士。
するとがれきから這い上がったローザが、兵士に体当たりをする。
「逃げなさい、アリーヤ!」
すると兵士は、ローザに仕返しをし、ローザは倒れる。
「ママ!!」
悲鳴を上げるアリーヤ。
するとコア(左前頭部が壊れ、機械がむき出しになっている)が起き上がり、目から光線を放ち、兵士を倒した。
「速く、逃げるんだ」
アリーヤ、ボール型のコアを抱きかかえ、ローザをかついで逃げる。
デッド・オリオン軍の兵士が、宇宙船が、町を破壊して行く。
オリオンの司令官は叫ぶ。
「破壊だ!人類を破壊しろ!領土は我がデッド・オリオンの物!」
次の日の朝。
病院の待合室で、アリーヤはスマホ片手に話している。
「うん、私は無事。ありがとう、おばあちゃん。それじゃ。」
アリーヤは電話を切った。
コアがたずねる。
「どうだって?」
「ママの治療費は、おばあちゃんが出してくれるって。」
アリーヤ、母の病室に来る。コアは言う。
「僕はデッド・オリオン戦艦内で時空移動マシンを起動し、デッド・オリオン軍を元の宇宙に返す事が使命だった。マシンの設定で標的を設定すれば、デッド・オリオン軍をすべて、元の宇宙に返せる。マシンの製造技術は失われているから、それを壊せばヤツらの時空移動は不可能になる。しかし肝心の僕がこのざまじゃ、望みは絶たれた。ヤツらの攻撃が再開すれば、人類は間もなく滅びる」
「そんな、何か手は無いの?」
「そうだな……僕の乗ってきた脱出ポッドを使って、敵船に突っ込めば、可能性も無くはない。」
森へ行くアリーヤ、コア。
「このあたりに落ちたハズだ」
森の奥には池があり、池にハマった直径2メートル程の、灰色の丸い物体がある。
「これが……脱出ポッド?」
と、アリーヤ。
「故障している。修復は無理だ。私も故障しているから、ポッドを修復できても操縦できるかどうか・・・」
「なら、操縦方法を教えてよ」
アリーヤは真剣なまなざしで言った。
遠くの空で、デッド・オリオンの宇宙船が飛んでいる。
宇宙船は光線で街を破壊しつくす。
アリーヤは言った。
「コンロとカメラくらいなら、修復できるよ」
病院の廊下。重症患者が大勢運ばれて来る。
家のガレキから修理道具を出すアリーヤ。
夕方。
なんとアリーヤは、脱出ポッドを修理したのだった。これにはコアも驚いた。
病院。
アリーヤは、眠っているローザの元へ行き、手紙を置く。
「ママ……今までありがとう。愛してる」
病室を去っていくアリーヤ。
小型ポッドに乗ったアリーヤ。コアも一緒だ。首にはカメラをさげている。
「いいのか?アリーヤ。マシンを壊したら、キミはもうここへは戻れないぞ?」
「仕方ないよ。私がやらなきゃ、人類は滅びるんでしょ?そんな事はさせない。私が人類を救ってみせる!」
脱出ポッドはゆっくりと、空へと浮上する。
「トンデモ作戦、実行するよ!」
アリーヤは脱出ポッドを操縦し、敵の船に狙いを定める。
(昨日まで何もない日常だったのに、いきなり宇宙人が攻めてくるなんて……手の震えが止まらない)
「あれに突っ込むの?」
「ああ。」
敵宇宙船の全長は、20メートルを超えている。
「お願い、うまく行って!」
アリーヤは脱出ポッドを起動し、ポッドはまっすぐ、敵船に突っ込む。
「何事だ!?」
司令官が叫ぶ。部下は状況を言う。
「船内部に侵入者!時空移動マシンの方角へ移動中!」
「阻止しろ!」
指示を出す敵司令官。
アリーヤ、コアは、敵船の外壁を脱出ポッドで破壊し、宇宙船内部の廊下を走る。
「敵は任せろ!キミは走るんだ!」
走ってくる敵をコアがビームで蹴散らす。やがて、廊下の突き当りに部屋が見える。
「あの部屋だ!」
一方、敵指令室。
「敵が部屋に到達しました!」
「何だと!?」
時空移動マシンの前まで来たアリーヤとコア。そのマシンの前にレバーが付いている。
「そのレバーを引くんだ!」
コアの指示で、アリーヤは時空移動マシンのレバーを思い切り引いた。
「オリャーッ!!」
すると、デッド・オリオンの船は青白いイナズマに包まれ、町から消える。
(スペース・771)
もう1つの宇宙空間に、デッド・オリオンの船が現れる。
「もう一度マシンを起動しろ!」
敵司令官は指令室で命令するが、コアが光線でマシンを爆破する。
「マシンをやられました!」
「お、おのれぇぇぇーーー!!」
敵司令官の叫びも知らず、
廊下を走るアリーヤ。
コアと共に脱出用のポッドに乗り込み、宇宙船から脱出する。
「ふうっ」
アリーヤは息をついた。
「やったな、アリーヤ!人類はきみが救ったんだぞ!」
「みんな無事ってことだね!」
ほほえむアリーヤ。
すると、アリーヤたちの目の前に銀色の四角い大型宇宙船が現れる。
「敵!?」
「違う!あれは味方だ!」
宇宙船は、敵に向けてレーザー光線を発射する。敵の司令官は叫ぶ。
「レジスタンスか!」
レジスタンスの攻撃で、デッド・オリオンの船はほとんど撃沈する。
2~3あった敵宇宙船は爆破され、残り一機となった。
「我々の勝利だ!」
「うん……」
アリーヤの反応に、コアは訊ねる。
「どうした?」
「人がたくさん死んでる……」
彼女はそう言って、悲しそうな表情で、戦場を見ていた。
敵の司令官は、部下に命じた。
「あの脱出ポッドを撃て!」
アリーヤの乗る脱出ポッドが、オリオンの船に撃たれ、爆発。
アリーヤとコアは生身で宇宙空間に放り出され、二人は引き離される。
「アリーヤ!」
コアは叫ぼうとするが、アリーヤには届かない。そのままコアは、暗闇へ消えていった。
その時、アリーヤのカメラがピンク色に光り、アリーヤの全身をその光で包んだ。
光るカメラは、アリーヤをその光でつつみながら、外見が冥王星に似た謎の惑星にアリーヤを連れて行く。
砂漠に仰向けに倒れているアリーヤ。ズボンのポケットからスマホが出ている。
アリーヤのスマホ:メッセージが一件あります。発信者:エヴァルド
アリーヤ(この時、何が起こったのかは分からないけど、私はその後、地球より何万光年も離れた、ある惑星で目覚める事になります。)
つづく
©2023MizushibaRoku
※このお話は2021-10-06に、ブログに投稿していたものです。