第8話『安心しろ。お前は俺の「人質」だから誰にも渡さん』(脳内:国家反逆罪ってマジですかァァァァ!?こんなガサツな悪友にマイエンジェルを触らせるわけないだろォォォォ!!)
──騒がしい朝だった。
健やかに俺の膝で眠っているマイエンジェル。
その寝顔を眺める幸せな時間の邪魔をするやつが屋敷に現れたのだ。
メイドと口論をしている声が屋敷内に響いてしまって、アリシアたんの睡眠は妨害されたのだ。
「──おい、王子を殴ったって本当かァァァァ!?」
相変わらず、声がデカい男は友人のギース。
傭兵団のリーダーであり、気心の知れた悪友だ。
俺も傭兵団に入りたいのに『お前は一人で戦争を終わらせるぐらい最強だから必要ない』と言われてしまう始末だ。
「……シッ!声が大きいぞギース。アリシアたんの貴重な睡眠時間が削られたらどうする」
「あ!?なんだその『アリシアたん』って気色悪い呼び方は!?というかお前、王都でバカ王子をぶっ飛ばして聖女様を強奪してきたって噂だぞ!国家反逆罪で絞首刑だぞマジで!!」
──ギースが頭を抱えて叫ぶ。
なるほど……世間では俺が『暴挙に出た大悪党』として伝わっているらしい。
(あっかーん、国家反逆罪ィィィィ!?違うんですゥゥゥゥ!!あまりにアリシアたんが可哀想で……怒りに任せて殴っただけですよォォォォ!!)
かくなる上は、魔王ムーブに全力で振り切るしかない!
うちのマイエンジェルを自慢して、デレッデレに甘やかしたいだけだったんだがな……。
「フンッ……安心しろ。アリシア様は俺の『脅迫』に屈し、恐怖で青ざめながらこの屋敷に留まっている」
マルーンレッドのラウンジチェアに座って、頬杖をしながら、足を組んでキメ顔で言ってやった。
「──はっ……!?脅迫……!?──」
俺は腕を組み、ニヤリと魔王のような凶悪な笑みを浮かべた。
どうだ、恐ろしいだろう。俺は今、人質をとった最悪の傭兵として完璧に振る舞っているのだ。
(ふはははは!!見ろギース!!この俺の膝の上でスヤスヤ眠るアリシアたんの天使すぎる寝顔をォォォォ!!拷問と称して膝枕を強要し……寝息を間近で堪能するこの圧倒的魔王の支配力! 羨ましいだろォォォォ!!羨ましいと言えェェェェ!!)
「──なぁ……世界最強の傭兵さんよぉ……」
「──なんだっ!」
「お前……自分がどんな顔してその聖女様の頭撫でてるか自覚あるか?」
「ふん、さぞかし冷酷無比な『捕食者の顔』をしているだろうな」
「いや、『娘の参観日を見守るデレデレの父親』みたいな顔してるぞ。キモいくらい目尻下がってんぞ」
「な、なに……!?」
──俺は思わず自分の頬を押さえた。
馬鹿な!俺は今、世界で一番恐ろしい顔でアリシアたんを支配しているはずだぞ!?
じゃないと……こんなにアリシアたんに怖がらせている説明がつかないじゃないか!
「それに……その聖女様、怯えてるっていうか……めちゃくちゃ幸せそうに抱きついて寝てねぇか?」
「だ、騙されるなギース!これは……そう、『命乞い』だ!命乞いの一種として俺に必死にしがみついているのだ!」
「どんな命乞いだ挙句の果てに『むにゃ……傭兵様、あったかいです……』とか寝言言われてんじゃねぇかァァァァ!!」
ギースの爆音ツッコミが部屋中に響き渡った、その瞬間──。
「……ん……っ……ふあぁ……」
俺の膝の上で、天使が小さく身悶えした。
長いまつ毛が揺れ、澄み渡る紫水晶のような瞳が、うっすらと開く。
(あっかーん!!ギースのデカい声のせいで、マイエンジェルの極上睡眠タイムが終了してしまったァァァァ!!何やってんだバカギースゥゥゥゥ!!あ、でも寝起きのアリシアたんもメチャかわいいィィィィ!!)
「……傭兵様……!?あ、あの……わ、私……またお膝の上で……っ!?」
覚醒したアリシアたんは、自分が俺の膝に抱きついていた状況を理解した瞬間、一気にリンゴのように頬を真っ赤に染めた。
そして慌てて身体を起こそうとして──そこで部屋に立つ大男、ギースの姿に気づいてピシッと凍りついた。
「──ひぃっ……!?──」
(うそっ……誰この人!?国の追手なのかしらっ……!?傭兵様っ……怖いですぅ!?でもっ……傭兵様なら一瞬よね?ちゃんと甘えるチャンスだわっ!)
顔を青ざめさせ、ガタガタと震え出すアリシアたん。
俺の服の裾を小さな手でギュッと掴み、俺の背中に隠れるように身体を小さく丸める。
(ひぃぃぃぃ尊いッッッッ!!『助けて傭兵様』と言わんばかりに服の裾を掴んでくるこの仕草ァァァァ!!守りたい!俺が生涯をかけてこの天使を守り抜くゥゥゥゥ!!)
俺が脳内で全世界涙腺崩壊の感涙を流していると、ギースが呆れ果てた顔で頭を抱えた。
「……あのさぁ。聖女様、思いっきりお前に助けを求めて怯えてんぞ?俺を『敵』だと思って、お前を『味方』として頼ってる顔だろこれ」
「ふ、ふははは!違うな、間違えているぞギースよ!」
俺はマルーンレッドのラウンジチェアからアリシアたんを抱きかかえるように立ち上がり、冷酷な魔王の笑みをギースに向けた。
「アリシア様は『人質』である自分を……お前のような凶悪な新手に奪われまいと必死なのだ!俺という絶対的な支配者の所有物として……怯えながら命乞いをしているに過ぎん!」
「いや、絶対に違うだろォォォォ!!」
ギースの叫びを無視し、俺は怯えるアリシアたんの頭にそっと手を置き、世界一優しい……もとい、世界一冷酷な声音で囁いた。
「安心しろ、アリシア様。お前を誰にも渡さん。……お前は俺の『人質』だからな」
(ふざけるなァァァァ!!こんなガサツな男に……マイエンジェルを触らせるわけがないだろォォォォ!一生俺の屋敷で美味しいものを食べてゴロゴロしてろォォォォ!!)
すると、アリシアたんは紫水晶の瞳を大きく見開き、ぽろりと一筋の涙を零した。
「……っ、傭兵様……。私のような役立たずの聖女のために……恐ろしい追手(ギース様)と戦ってくださるのですね……っ。私……私、スコール様のお荷物にならないよう、どんな拷問にも耐えてみせます……っ!」
(あの人は、きっと危ないんだわっ……!傭兵様が守ってくださっているのね!?話しがよく分からないけど……きっと合わせるべきよね?もうっ……だめっ……!かっこよくてキュンキュンしちゃうのぉ〜!)
「……は?」
ギースが本気で引いた顔で俺とアリシアたん交互に見つめる。
「……なぁ、最強さんよぉ。お前ら二人して何の会話してんの?」
「黙れギース!見ろ、これが世界最強の魔王(俺)に屈した聖女様の絶望の姿だ!!」
(うわぁぁぁぁん!!お荷物にならないなんて健気すぎるだろォォォォ!!全財産を投げ打って世界一高級なベッドとケーキ買い占めてくるからなァァァァ!!)
もしかしたら、こんな話しをしている場合じゃないのかもしれない。
ギースも訳があって、屋敷に来たのだろう。
また、王子がらみか……。
こいつが、無駄足で屋敷に来るなんて考え辛い。
それほど、ことは重大になっているのかもしれない。
聞いてやりたいのは、やまやまだが、ボクちゃんはアリシアたんが可愛いくて幸せならそれでいいのだ。
邪魔をするんじゃない!
でも……仕方ないよな。
俺の蒔いた種だし、国の状況ぐらいは聞いておくか。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ギースのデカい声のせいで、マイエンジェルの極上睡眠タイムが台無しになってしまいました……。(傭兵の多額の財産を使った高級ベッド買い占め計画が始まってしまいます)
「ギースのツッコミ最高!」「アリシアたんの脳内キュンキュンがかわいすぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、傭兵の脳内ツッコミのキレがさらに増します!
次回、ついにバカ王子側の動き(と傭兵の溺愛)が加速します。次回投稿も明日12時45分です。お楽しみに!




