第1話『……俺を選べ聖女』(脳内:神様ありがとうボクが絶対に幸せにするからねぇぇ!!)
──俺の目の前に映る光景。
──聖女様が婚約破棄されて、元婚約者に突き飛ばされ、ドレスを汚される可哀想な姿だった。
「出て行け、役立たずの聖女め!お前のような無能は我国にいらん!」
国王の警備依頼でたまたま居合わせただけの雇われの傭兵。
それが俺だ。
聖女を見世物のようにあざ笑い、周囲の参加者もその状況を楽しんでいる。
普段なら、こんな貴族どものトラブルなど、ましては、婚約破棄の場面など、関わり合いたくもない。
──冷たい大理石に跪く、聖女に目を向けた。
その瞬間、俺の心の中にある何かが爆発した。
(……は? なんだあの生き物、儚くて可愛すぎだろ。華奢すぎて折れそうじゃねえか。マジ天使!!っていうかあいつら、俺の未来の嫁になに余計な傷作ろうとしてくれてんだ?? ぶっ殺すぞ?あぁん?)
一目惚れ、してしまった。
情緒も鼻息も激しくなってしまったのである。
それと同時に、調子に乗っている王子へ向けて、猛烈な怒りが込み上げていた。
「お前のようなやつは、どこかしらん馬の骨にでもくれてやる!誰かおらんのか、無能聖女が欲しい物好きは!」
──会場は静まり返る。
名乗り出る者なんか誰一人としていない。
冷笑している貴族と、王子の機嫌を伺っている者ばかりだ。
そして、絶望に瞳を揺らす聖女様がいるだけ。
だったら、良いのではないか。
──俺が聖女様を幸せにしたって、誰も文句はないはずだ。
「……俺でもいいか、バカ王子」
低い声を響かせると、会場中の視線が俺に集まった。
戦場をくぐり抜けてきた俺の面構えと、左目の傷跡。
威圧感だけで周囲の貴族どもが『ひっ……』と息を呑んで後退る。
(うぉぉぉぉ言っちゃったぁ!! 馬の骨って俺のことですね分かります!! 物好きどころか一生のお願いですお嫁さんにください!!)
脳内で必死に神に感謝を捧げつつ、俺は恐れおののく王子を見下ろし、凶悪な笑みを深めた。
「その聖女様、俺が引き取ってやるよ」
なぜ、このような行動をしてしまったのか。
今となっては、分からない。
怒りが限界に達してしまったからだろう。
多分そうだから、気にしないことにした。
そのまま、王子の首根っこを掴み、顔面を拳で叩きつけた。
──ぐしゃり。
鈍く嫌な音が響き、泡を吹いて倒れ込むバカ王子。
悲鳴を上げる貴族どもを鋭い眼光で黙らせると、俺は床に伏せる聖女様の前で膝をついた。
(あっかぁーん!!うわああああ手ぇ出ちゃった!! 暴力的な男って嫌われない!? 大丈夫!?)
脳内で青ざめながらも、俺は脱ぎ捨てた自分の外套を彼女の華奢な肩へそっとかけ、破滅的に不器用な声を絞り出した。
「……おい、怪我はねぇか聖女様」
──心配だった。
酷い仕打ちを王子にされて、心に傷を負ったのではないかとか、聖女としての立場が危ぶまれるのではないかと。
俺は、聖女に相応しいのかと。
この麗しい聖女様に俺は恋をしてしまったんだ。
もう、止まることなんて出来やしない。
どうすれば、この気持ちは伝わるのだろう。
「──ひぃっ!?──」
(まずいィィィィ!!ボク、怖がられてるぅ!?心配しないでボク怖くないよ!?ってか、震えてる聖女様も最強に可愛い!!)
無理もないか。
俺……ただの傭兵だし。
人相悪いし、戦うことしか脳がないやつだ。
だけど、諦められない。
聖女様に誤解を解くんだ。
もっと紳士的かつ、スマートにアピールをしよう。
「──俺を選べ聖女。あんなクソ王子より幾分かマシだろ」
(めちゃくちゃ睨まれてるぅぅ!!なんで、どうして!?やっぱりボクちゃん怖かった!?泣かせてごめぇん!!)
一世一代の告白だったけど、誤解は解けていないようだ。
むしろ、怒らせてしまったのかもしれない。
耳の先まで真っ赤じゃないか。
涙まで浮かべてしまって……もうダメだ死にたくなった。
「……はいっ、よろしくお願いします」
(もうダメだわ!!かっこよくてキュンキュンしちゃう!!涙が出過ぎて傭兵さんのことよく見れなかったけど大丈夫かしら……不器用過ぎる優しさが目に染みちゃう!!)
聖女からしたら、脅しているようにしか聞こえないのだろうが、それでも、嬉しいものは嬉しい。
(返事きたァァァァ!? 神様ありがとう!!ボクが絶対に幸せにするからねぇ!!)
周りから、貴族の陰口が聞こえる。
──あの傭兵は……もしかして『戦場の死神』か!?
──そうだよな、あの聖女アリシアも終わりだ。乱暴に扱われて一生を終えるだろうよ。
外野が訳の分からねぇことをごちゃごちゃ言っていた。
俺がそんなことする訳ないだろ……気分が悪いな。
一刻も早く、この場を後にしたい。
「──行くぞ!」
周囲の警備兵や貴族を一睨みで黙らせ、聖女様をひょいとお姫様抱っこする。
そして、聖女を連れて、会場を後にした。
とんでもない奇跡を起こしてしまった。
聖女は嫌々かもしれないがそれでも構わない。
あんなバカ王子如きに聖女はやれん。
──幸せにするのは、この俺だ!!
ご覧いただきありがとうございます!
外見は凶悪そのものの傭兵さんですが、脳内ではすでに全財産を差し出す覚悟を決めています(笑)。
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