↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/97

第97話:暴かれた闇の契約書〜多次元水道カルテルの影〜

大工事と通水式から明けた翌朝。乾いた砂漠の空には、数百年ぶりとなる澄み切った青空がどこまでも広がっていた。

 アクア・エクスプレスが出航の準備を進める中、アッシュとエレナは、破壊されたメガ・バロン重工のCEOグレゴリーの超重戦車要塞『メガ・アーク号』の残骸を訪れていた。

 真っ二つに両断された巨艦の最深部。厳重な三重の防爆隔壁と魔導ロックで閉ざされていた隠し金庫の前で、アッシュは昨日贈られた『超古代真鍮合金製・多次元万能配管レンチ』を構えた。


 カチリ、キリキリキリ……ガコンッ!


 万能レンチの多重歯車が複雑な鍵穴のパターンを瞬時に解析し、頑丈な耐圧扉がいとも簡単に開かれた。

 内部には、グレゴリーが市民から搾取した不正蓄財の記録とともに、防護ケースに収められた奇妙な一枚の羊皮紙が保管されていた。


「……ん? 紙の質感がまるで違うな。魔力を通しても破れない、特殊な次元耐性ナノフィルムだ」


 アッシュが眉をひそめて羊皮紙を慎重に広げた。

 そこに記されていたのは、機械世界ギア・アルカディアの言語ではなかった。多元宇宙の古代神聖文字で、あまりにおぞましい契約条項が連ねられていたのだ。


「エレナ、これ読めるか?」

「見せてくださいまし。……えっ!? こ、これは……!?」


 羊皮紙を覗き込んだエレナが、息を呑んで血相を変えた。


「『契約第百四号:惑星ギア・アルカディアにおける地下水脈の【次元吸水ポンプ】による強制汲み上げ、ならびに異次元隔離完了を報告す。目標とする大旱魃パニックの創出に成功せり。これよりメガ・バロン重工は、油圧機兵ならびに重油燃料の独占配給を開始し、巨額の利益を折半すべし』……何ですの、これは……!?」


 傍らで聞いていたコレットが、愕然と目を見張った。


「そ、そんな……! 数百年前の大渇水は、天変地異なんかじゃなかったの……!? 誰かがわざと、私たちの星の水を盗み出したっていうの……!?」


 真実はあまりに惨酷であった。

 ギア・アルカディアを襲った悲劇は、自然災害などでは断じてなかった。

 何者かが意図的に惑星の地下水脈を異次元から吸い上げて枯渇させ、人工的な絶望を作り出した上で、メガ・バロン重工と結託して油圧機兵や重油を高額で売りつけていた――すべて仕組まれたマッチポンプの侵略劇だったのだ!


「そして……契約書の末尾に捺印されている、このおぞましい紋章は……!」


 エレナが震える指で差した先。

 そこには、三つの異なる宇宙を取り囲む三本の巨大な蛇口と、漆黒の毒滴を象った不吉極まりない紋章が刻印されていた。

 シロガネの記憶水晶に記録されていた、あの空を覆った黒い立方体戦艦に刻まれていた刻印と完全に一致する。

 羊皮紙の最下段に記されていた組織の名は――【全宇宙水資源カルテル・ブラック・アクア社】!


「ブラック・アクア社……。全宇宙の水を牛耳り、星々を渇きで支配する闇の巨大シンジケートか」


 アッシュが低く呟いた、その時であった。

 羊皮紙の端に埋め込まれていた次元通信回路が突如として不吉な赤色に明滅し、ノイズ混じりの音声が漏れ出したのだ!


『……ザザッ……至急電……至急電……! カルテル本部より通達……! 次なる標的、海洋異世界【アクア・アビス】における【海水猛毒スラッジ化ならびに真水強奪オペレーション】は順調に推移中……! すでに深海竜宮界の全海水は毒性化を完了し、魚人族数千万人が喉の渇きで全滅寸前……! 我が社による真水オークションの暴利は、想定の四倍を記録中……ザザッ……』


 さらに通信の奥から、泡混じりの悲痛な少女の泣き叫ぶ声が途切れ途切れに響いてきた。


『……だれ……か……たすけて……! 海が……海が真っ黒な毒に染まって……喉が……喉が焼けるように熱いの……! お父様が倒れて……みんな息ができなくて……! 誰か……深海竜宮界を……救ってぇぇぇっ……!!』


「海洋異世界……アクア・アビス……!?」

「海の世界なのに、水が猛毒に変えられて真水が奪われ、魚人たちが喉の渇きで全滅寸前ですって……!?」


 エレナとコレットが顔を見合わせ、戦慄に唇を震わせた。

 周り一面が海であるにもかかわらず、その海水を毒に変えられ、喉をかきむしりながら死にかけているというのだ。これほど非道で惨たらしい所業があるだろうか。

 パキリ。

 アッシュの右手の中で、通信機が粉々に握り潰された。

 その双眸には、氷のように冷徹にして、業火のように激しい職人の怒りが燃え盛っていた。


「星の水を盗み出し、弱者の喉の渇きをオークションにかけて暴利を貪る連中か。……どこまでもヘドが出る外道どもだな」


 アッシュは静かに踵を返し、青空の下で出航を待つアクア・エクスプレスのタラップへと力強く歩みを進めた。


「ガンツ、次元跳躍エンジンの暖機運転を急げ。エレナ、深海対応の高圧フィルターカートリッジを増産しろ。……次は、その深海の星のドブ掃除だ!!」

「承知いたしましたわ、アッシュ!」


 アッシュの号令に、六大神獣たちが呼応した。

 白銀の天狼コハクが凛々しく吠え、不死鳥ルビーが炎の翼を広げ、紫電の神鹿ライカが角から雷光を散らし、ケルベロスのクロが三つの頭で勇ましく唸り声を上げる。そして新たに仲間に加わったメカ白狐シロガネが、エメラルドの九尾を輝かせながらアッシュの肩へと飛び乗った。


「「「グルオオオオオオオオッッッ!!!!」」」

「きゅいっっっ!!」


 アクア・エクスプレスの主砲から轟音が響き、船体が黄金の次元跳躍光に包まれる。

 救われた砂漠の都とコレットたちの熱い見送りを受けながら、銀河の配管工たちは次なる戦場――深海竜宮界へと向けて、大空の彼方へと飛び立っていった!



(第6章 蒸気と砂漠の機械世界スチーム・デザート編 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。