第091話 余計な出会い
ボールドの管理する小さな港町。
名前は無いけど、姉妹港として機能しているし、魔王国に住む人達も利用していた過去がある。最近は、あの勇者の所為で魔王国では使われていなかったが。
「そ、そうか。なんか悪いな、じょ…いや、魔王様」
「キニシナイの、いつもみたいに呼んで良いわよ」
陽が落ちる前に到着し、入港したからといって、特に手続きもない。
先生が船を降りる時に謝辞と一緒に説明した事から、四人は硬直していた。
見た目は普人っぽい船員も猫獣人だったので、反応がそっくりでメルスと二人で笑った。
あれほど船酔いでフラフラしていたのに、今のメルスは元気を取り戻している。
「不敬罪とかないよな?」
「魔王様を可愛いと愛でているのならそれで良いですよ」
「嬉しいけど、それはなんか違う」
船員の二人はお嬢様をとても可愛がっていて、短い船旅だったが、凄く仲が良くなっている。話題が釣りとか魚の事だったので、会話が花満開だったようだ。
その時のマリアは苦手分野だし、メルスはベッドで寝ていた。
「もしかして、あんたも何か有るのか?」
「ああ、私は特に何もないですよ。元スケルトンというだけで」
またビックリしている。
てか、今は魔女だけど、元人間だよね?
スケルトンって言うのなんで?
「もしかするとまた何かお願いするかもしれませんので、向こうのギルドに冒険者登録だけでもしておいて下さい。連絡が楽になりますので」
ギルドの冒険者登録は利用されないと削除されるが、定期的にお金を支払うか、依頼や宅配などに利用すれば更新される。Bランク以上なら生きているか引退するまで保存。Sランク以上は引退宣言をしても永久保存する。何しろ、その経験や知識だけでもかなり重要なので、ギルドの加入が無い国でも、Sランクというだけで特別待遇もあるのだ。
船乗りで漁師の夫婦と手を振って別れると、港町の宿屋ではなく、そのまま魔王国に向かって歩き始める。
いつの間にかアイシャがメルスに肩車をして貰っているのは、今後の魔王国に関係がある事を考えたいからだった。
その一つが先程の会話である。
「魔王国にも欲しいよね、ギルド」
「在れば便利ですけど、面倒なヤカラも増えますので」
「あー……コール・マーカーみたいな?」
「それだけとは限りませんよ。特に高ランクにはそれなりに優遇しないと面倒な事になります。優秀で実績のある人物をギルド長に就任させる事が出来れば良いですけど」
「第一候補はリッカーになるかしら?」
「彼女が就任するとは思いません」
「誰か良い人いないかな……」
「元勇者がいただろ、あいつはダメなのか?」
メルスは勇者がその後にどうなったかについて、詳しい訳では無いが、存在しているのは知っていて、勇者の所為でアイシャの父親が殺されている事も知らない。
はっきり言うと、市井にも疎いのだ。
メルスがマリアを見ると、マリアはメルスの方に座っているアイシャを見る。
「なんだ?」
「メルスはさー、自分が好きな人を殺した相手に重要な仕事を頼むの?」
「……あぁ、アイシャの父親って先代魔王だったのか。だけどなー、私も好きな人が殺されているが?」
「あなた達ドラゴンは強い人が好きなだけじゃないですか。他にもっと強くて素敵な人を見付けたらそっちに靡くでしょう?」
「……ブライド様より良い人なんて数千年は見つからないと思うけど」
そこ、なんで私を見るのですかっ。
「へへーん、すっごいのが一人居るけどねーっ」
魔王様がニヤニヤしながらメルスの耳をくすぐりました。
ああ、居ましたね。
確かに彼なら勝てないまでも対抗できるかもしれません。
「だ、だれよっ、それっ、くすぐったいって」
「おしえてあげないよーっ」ジャンッ!!
その効果音は何ですかね?
楽しそうに笑いながらコチョコチョしています。
「先生も知ってるんだよねっ?!」
「えぇ。でも、楽しみにしたいのなら事前情報は無い方が良いですよ」
「と、言う事は……ブライド様よりも?!」
「それは無いです」
「えー、ケッコウ強いと思うけどなー」
「四天王にしても問題ないぐらいの能力は有りますね。あのブラックカラーは魔王レベルでしたけど」
「まだあんなのがゴロゴロいるのよね……」
「私も相手にしたくないレベルですね……」
メルスが絶句している。
そもそも、この二人は何を相手に戦おうとしているのか、魔王に成るらしい事は分かっているが、そもそも魔王って……。
港を後にして半日歩く。
そこは森の中で、魔王国の周囲は森が深い。
領土の半分以上は森なのだ。
その森の中に一歩の筋が伸びるように道が造られていて、いつ魔獣に襲われるか分からない環境にある。それも有って冒険者でも低ランクは訪れないし、高ランクになる為の戦いの場にもなっていた。
休憩所と言うワケでもないが、池や湖、それらに注ぐ川などが点在していて、旅をするには丁度よい場所が何ヶ所か作られている。
その所為で一本の筋と言ってもグネグネ曲がっているし、小さくても山が有れば迂回するように曲がっている。
この森のどこかにトレントが棲んでいるとも言われているが、発見するとどこかへ消えてしまう為、幻の存在である。
しばらく歩いてから少し道から外れた池の前で、マリアが袋の中から家を出す。
ウニョーンって出てくるのなんかヤダなあ。
「それにしても疲れたわね」
「歩いてない癖に何言ってるの」
「直ぐに食事を用意いたしますね」
「じゃあ、ちょっとメルスとお風呂入ってくる」
アイシャはずっとメルスの肩に座っていて、頭を枕に昼寝までしていて、少しお尻が痛い。メルスに拒否権も無く風呂場に連れ込まれると、身体を洗わせているようだ。
「ぺったんこだねぇ」
「アイシャだってべったんこじゃないの」
「私はこれから大きくなるから良いのよ」
と、楽しそうに会話をしている間にマリアは料理をしていた。
先生の用意してくれた家の中は快適で、外敵が寄ってくる心配もない。
が、それは外敵であればの話だ。
魔物や魔獣がウヨウヨする森でも、先生が怖くないのは、骨だと襲われる事が無かったからである。
魔物と出会っても、骨だと分かると真横を素通りするのだ。
サッパリした顔で出てきた二人を椅子に座らせ、自分は食べずに二人分の食事を用意した時だった。
「何か来ますね」
「来るって、魔物?」
「違います……多分、魔族ですね」
「なんで分かるのよ」
「魔女の能力なんですよ。数が多過ぎたり、町の中だと機能しませんが、逆に人の気配が少ない場所なら発動するんです」
「難儀な能力ね」
「それで、ちゃんと人だった?」
「少々お待ちを……」
椅子に座り、二人が食べるのを眺めているようで、何かを探っている。
「確定しました。魔族と犬獣人のパーティです。えーっと、男4女1の5人ですね」
「まだギリギリ夜になる前だし、港に向かってるんじゃない?」
そうだとしても、こちらに来られると面倒です。
面倒ですが……あの女性は何か病気のようです。
鑑定では病気が分からないので、知りたいのなら会うしかありません。
魔王様に言えば助けると言うでしょう……。
「と、いうワケで久しぶりの選択です」
「自己完結して結果だけ言うの止めて欲しいのだけど」
魔王様は心が子供に戻った筈ですが、たまに大人びた様なトコロが有りますね。
まあ、記憶に残る大人に影響されるのは無理も有りませんが。
「一人女性がいます。その女性は病気です。病気は不明です。助けまs」
「助ける!」
即答でした。
魔王様が飛び出すように外に出ると、ビックリした男達が武器を構えようとしましたが、直ぐに納めました。
「子供がこんなところで何をしてるんだ?」
「帰る途中なのよ」
「帰る途中って、パテリアか?」
「まー、そうなんだけど。それよりそっちの女の人病気なんでしょ。こっちに来て」
素直に付いて行こうか悩んでいましたがメルスの姿を見て少し安心したようです。
メルスが大人だからでしょう。
「あんた、保護者か」
「違うけど、とりあえず入って」
家にビックリしています。
「こんなところにこんな立派な家なんか有ったか?」
「いや、知らんが……」
「うあっ……うぐ……」
苦しそうに呻くのを見て、それどころでは無いと判断し、家に入る。
家の中はそれほど広くはない。
というか、狭い。
二段ベッドの下に寝かせると、男どもが心配なのと不安なのが混じった表情をして困惑している。
「先生、いける?」
「はいはい、ちょっと退いて下さいねー」
「お、おぅ……」
マリアが現れるとあまりにも美麗で妖艶な姿に生唾を飲んだ。
情報量が多過ぎて理解が追い付かない男達の間を通り抜け、ベッドに寝かせた女性を診る。
「……石化にかかってますね。魔物の体液でも浴びましたか」
「判るのか」
「患部は、胸ですね」
先生が女性の服をたくし上げると乳房が丸見えになる。
こら、お前ら見んな。
「誰かの恋人?それともただの仲間?」
「俺達パーティのリーダーなんだ、助けてやってくれないか」
「見てても構わないですが、後でどうなっても知りませんよ」
先生がそう言うと男達は家の外へ逃げるように出て行った。
パーティリーダーならそれなりに強いのだろう。
でも、この人達の職業が盗賊なのよね……。
「先生、治せる?」
「ちょっとズルですけど、聖女の魔法を使えば」
「治癒魔法で治せないんだ?」
「石化はかなり高等な治療技術が必要です。よく見てください、半分ほど石化が進んでいます。この胸の辺りが石になると死にますね」
そう言いながら石化した胸をつんつんしているが、呼吸が荒くなったのを見て、魔王様の教育に使う事を断念した。
「今、治して差し上げますからね……」
先生の指先が白く光ると、石化した肌が少しずつ元に戻っていく。
「やっぱ先生って凄いわ」
いつの間にか後ろに立っていたメルスが先生の治療をまじまじと見詰めている。
完全に元通りになると、女の人の呼吸が落ち着いた。
「あ、あれ……ここどこ?」
「ココは先生のお家で、治療してもらったのよ。先生に感謝しなさい」
「あっ……先生ありがとうございます」
彼女が先生というのは医者の事である。
その先生が笑顔で触診をする。
「で、なんで胸を揉むんです」
「確認です」
医者にそう言われたら拒否できない。
どう見ても女性だし、嫌な感じはしない。
手が離れると、今度は自分で触っている。
「ホントに治ったのね」
「病気というより毒に侵されただけですので再発する事は有りません」
「石化した時からもう助からないと思っていた……」
女の人は服を整えると、先生を見た。
強く、睨むように。
「私を助けて、何か望みはある?」
ちらちらと周囲を見て、溜息を吐いた。
軽く見回しただけでも、この家にはいろいろな物が揃っているのが判る。
むしろこっちが欲しいくらいだ。
「困ってそうだから助けてあげただけよ」
「そ、そうなのk……なっ?!」
アイシャの着ている服を見て驚愕した。
鉱石リザードの服を着ている子供なんて見た事が無い。
「あ、あんた達、まさか、貴族か何かか」
「まぁ、似たようなもんよ」
助けてもらった恩は有るが、この状況である。
自分を捕まえに来た別の冒険者かもしれない。
逃げようとして森に入り、魔物の罠にかかって石化したなんて言える筈もなく、悩んだ末に、隠し武器のナイフを取り出した。
「おい、私達を捕まえに……」
アイシャがナイフの刃先を素手でつまむ。
「……来た……のn……」
ポキッと折った。
「ヒィ……」
「助けられるような奴が私達より強い訳ないでしょ」
「ちゃんと見てたんですね。流石です魔王様」
折れたナイフを持ったまま固まった。
そして気絶した。
「あーあ、町の様子を訊きたかったのに」
「捨てますか?」
「そばかすおねーさん、起きてー」
べしべしと頬を叩いてます。
あ、目を覚ましました。
「あわあわわわわわあわあわあわあわ……」
泡を吹いて倒れました。
「面倒な奴だな」
「多分、一般的な反応かと思います」
「……外の男達がやけに静かね?」
「あー、そっちはもう縛った」
「なんだー、メルスも気が付いてたんだ」
「鑑定なんて無くても解るぞ、目付きが悪いからな」
自信満々ににやりと笑ったメルスを見て、マリアは溜息を吐いた。
どう見ても魔王様の悪い部分に影響されていたからだ。
※おまけ
「本当にこんな森の中に……?
「先生がそう言ってたから……
「あ、マジだ。確かに魔力を感じる。この先か
「ところでオジサンは誰に用が有ったの?
「幼馴染に会いたくてな
「オサナナジミ?
「あぁ、子供の頃の知り合いなんだ
「へー、おじさんも子供の頃が有ったんだね
「そりゃ、有るでしょ……
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