第079話 ドラゴンの勢力
セイビアがやって来た。
とんでもない勢いで。
すっごいの。
なんで?
ハニエルが追いかけて来たけど、足の速さで完全に負けている。
「先生、お帰りなさい!」
「はい、ただいま。って、ここは自宅ではないですが」
息切れして追いついたところで、そこに立っていたベルディナンドの肩にしがみ付いた。ちょっと顔が赤くなってるのなんなの。
「先生の事を伝えたら全力で走りだしたんですけど……」
「お嬢様と……リッカーですね。こちらに来るなんて、やはり先生ですか」
「もちろん、先生です」
なんか目で分かりあってるんですけど。
私の先生なんですけど。
「お嬢様はイチイチ嫉妬しないでくださいよ……」
「ピタンみたいになっても困るモン!」
「え、アンタら、ピタンを知ってんのか」
「えぇ、知ってると言うか生徒でしたけど」
なんで顔を赤くしてるんですかね?
「ま、まぁ、いうなればピタンとは幼馴染でな」
「貴方の方が年下ですよね?」
「知合ったのは俺が9歳の頃だったが、ピタンも同じくらいだと思って一緒に遊んでたんだ。あの頃は田舎の小さな池だったが……」
「今のピタンは神様だからねぇ」
詳しく知りたそうな表情なので教えてあげました。
凄く鼻息が荒いんですけど。
「元気にしてるんならいいや、この件が済んだら行ってみるかな」
「ちょっと、簡単に終わるような話にしてるけど、流石に先生が居ても今回は厳しいかもしれないんだから」
ハニエルがしがみ付いている肩を握り潰しそうです。
「そうですね、メンバーも集まったようですし、報告を再確認しますか」
確認や追加の報告はギルド長のセイビアが主導した。
黄龍山脈はここかかなり遠い場所にあるドラゴンの棲む山で、ドラゴンの故郷とも呼ばれているくらい有名な地域である。
1枚1枚の報告書の説明も丁寧で、既に撃退したドラゴンの数も報告書に書かれていた。
「コール・マーカーは腐ってもSランクですからね。小手調べに使うには丁度良い人材でした」
「でしたって事は次は無理ってか」
「報告では街道に現れていますので、冒険者も旅人も近くの街や村に避難しています」
「解決にはなってないわね」
「そりゃ、嬢ちゃん、全てを守るなんて無理だ」
先生は一度だけ小さく頷いた。
「それで、100以上のドラゴンがココに来る日はいつです?」
「明日の夜明け前には来ると予測しています」
「では、理由も分かっていますか?」
セイビアは深刻な表情でアイシャを見た。
それは魔王が消えた事。
勇者がその使命を終えた事。
そして、魔素溜まりを狙っているという事。
「魔素溜まりを狙っているというと、確かにかなりヤバいですね」
「一応、伝説とはなるんですが、その昔に魔王と戦って敗れたというブラックエンペラーが再び現れる理由です」
「おいおい、二人で話をしないで説明もくれよ」
「まぁ……良いでしょう。お嬢様にも役に立ちますし」
なんで興味なさそうにリンゴジュース飲んでるんですかっ。
ハニエルもリンゴジュースを樽で追加しないでください。
「魔素を得る事でより成長するのがドラゴンです。魔素を狙う理由は魔王を倒す為でしょうけど、その魔王が存在しない事は知っているでしょうし、勇者が消えた事も知ったとなりますと……」
「この大聖堂の魔素を狙いに来るって事か」
「一応、封印して有るから数百年は漏れる事ないんだけど」
「ハニエルの事は信用できますので調べてませんが、確認した方が良いですか?」
「いえ、お任せください」
聖女が先生と呼ぶ相手を改めて見ている。
ベルディナンドは今回初めて先生と会ったのであり、詳しい事は何も知らない。
しかし、本当にサンタヘルの英雄なら信用出来るどころではない。
あの元Sランクのセイビアも、聖女のハニエルも、そしてリッカーも、先生を信用しているなんてレベルじゃない、あれは信仰に近い信頼関係だ。
「なにか?」
「……俺も先生って呼んだ方が良いかな」
「駄目です」
「断るの早いな。まあ、いいけどよ。それにしたってエンペラードラゴンって言ったら魔王と互角って言われるドラゴンだぞ」
「お父様より強い?」
「残念ですけど、格が違いますので全く歯が立たないでしょう」
お嬢様が悲しい表情をしますが、ここはあえて厳しく、ビシッと……頭を撫でます。
「魔王って名前だけで普通はビビるもんだからな、そこは仕方がないだろ。俺だって魔王と戦おうなんて気は起きねぇ。勇者が別格過ぎるだけさ」
「そのエンペラードラゴンを相手にどう戦うかと言うトコロですが……」
「作戦が有りそうだな?」
こら、そこの人達、私を期待の眼差しで見ないでください。
「全くありませんので真正面からの力技です」
「レッドカラーだけで50体以上ですし、ブラックまで相手にするとそうするしかないのは事実なんですけど……」
「必ず被害が出ますね」
「街の半分は消えるでしょう」
「レッドカラーなら……まあ、一人10体ですか。何とかなりますね」
それ、私も含まれてるよね。
グリフォンなら一撃だけど、レッドカラーは無理よ。
「魔物の方が人より隙は大きいですから、強化した太陽の剣をお渡ししますので頑張って倒しましょうね」
「はーい」
なんかさらっとトンでもねー会話してるんだが。
なんだよ太陽の剣って伝説の武器じゃねーのか。
俺も欲しいぞ。
「貸すだけなら良いですけど?」
「……読心術が使えるのか」
「いえ、その目を見れば普通は」
「オジサン、流石に分かりやす過ぎるよ」
「そっかー、でも一度くらいは使ってみたい武器ではあるな」
「お嬢様には身体強化に腕輪もお渡ししますね」
「おぉー……」
すげぇ、なんだこれ。
2倍とか3倍なんてレベルじゃねーぞ。
……いや、そもそもこの嬢ちゃんに耐えられるのか?
「な、に、こ、れ、は、や、いっ」
早過ぎて分裂しやがった。
どうなってんだこの嬢ちゃん、見事に使いこなしてる……。
「それなら、それ以下のドラゴンはあのお調子者に任せてろしいですか?」
「レッドカラー以外はグリフォンに毛が生えた程度ですし、Aランクでも4、5人いれば倒せますからね」
「では、ギルドにはレッドとブラック以外を討伐するように伝えます」
なんか知らんけど、俺の意見言う必要も無くなっちまった……。
ドラゴンの超一級戦力が攻めてくるって言うのに、なんかすげえ安心感だ。
これが先生って奴か。
「では、明日は早いですから今のうちに英気を養っておきましょう。それと急襲が有っても不思議ではありませんので、あなた達にはこれをお渡しします」
「……ぶふっ、げほっ……これ、ただのポーションじゃねぇな」
「世界樹の葉から作った高級霊薬です。生きてさえいれば全回復しますが、そんな状態では使えませんので、結晶魔石化して魔法陣を組込、自動発動するようにしました。一定以上のダメージが蓄積される事が条件ですので、そうでないときはこちらの普通の霊薬をお使いください」
胸の谷間からポーションがごろごろ出てくる。
「いいなあ、魔法袋か」
「いえ、これは簡易ストレージですのでポーションしか入っていません」
なんだよ、ストレージって。
そんな魔法知らないぞ。
「便利ですよねぇ、ストレージ」
あれ、俺が知らないだけか。
おかしいな、悪魔だから知識に自信はあったんだが。
この先生、どうなってんだ……?
うむむ……。
あっ、思い出したっ!
「先生は、ブラックエンペラーが人型に成るのは知っているか?」
「いえ、知りません。そもそもドラゴンはその姿である事で威厳を保っていると思っていましたが、人型に成るのですか?」
「ああ、ハーフドラゴンが居るだろ、あーゆー奴らに混じって街に潜んでいるっていう噂が流れた時があってな、それを調べた時に知ったんだけど、レッドカラーでも魔力に優れていると人型に成れるし、その変身によって人と戦いやすくなるって話だった……」
厄介事が増えました。
実際問題として大型の魔物というのは確かに強いです。
ただし、小さい者を相手にするのは苦手、特に人のような者を相手にすると、力技か広範囲魔法に頼るしかありません。ですが、人型ならかなりピンポイントで攻める事が可能になります。
それにしても、先生ですか……。
「結局そう呼ぶのですね」
「なんか、俺だけ仲間ハズレみたいで嫌なんだよな」
リッカーとセイビアが同意しています。
お嬢様とハニエルはなんで後方腕組みしてるんですか。
私をハナシのオチにするのは止めて欲しいですねっ。
ぷんぷん。
※おまけ
「なんでこんなにドラゴンが来るんだ……
「でも余裕で倒してるじゃん
「レッドカラーまでなら余裕だけどよ
「依頼じゃないからお金にならないもんね
「いや、素材を売ればいいから魔法袋に入れとく
「便利な袋ね
「ああ、これだけは貰ってよかったと思うモノだからな……
「これから向かう町は平和だといいねー
「魔王はいない、勇者はいらない。平和な筈なんだろうけど
「魔物はいる、魔素は溜まる。これじゃあ、聖女はまだ必要になっちゃうかなー
「一番恐れるのは、次の勇者が現れる事か
「……私みたいに分裂しちゃえばいいのに
「……勇者が二人なんて、発想は無かったな
「修ちゃんは私の勇者様だよー
お前らイチャイチャすんな。
って思いますよね。
ねっ。




