第112話 闇夜の出発
その日は届けられたギルドからの手紙にマリアは軽く驚いた。
ベルディナンド、ピタン、オガサンの三人の名前がある事。
そして、アルファディルに到着したところで保護してもらっているとの事。
その一団にはおまけが付随していて、兎獣人が35名とカラーが100羽ぐらいも連れて来たという事だった。
確かに驚かされる内容であり、それが最終的に魔王国に移住させて欲しいという事なのだから、なかなかに大変な事でもある。
「一応確認いたしますが、受け入れまs」
「受け入れ準備を整えましょう!!」
質問よりも返事が早い。
早過ぎる。
魔王様は頼られた事が嬉しくて即決したが、受け入れないという対応をした方が今後が大変に成るのを理解しているとは思えない。
もちろん断ったからと言って、責められる理由も無い。
今はアルファディルで滞在している事から、ハニエルが一時的に受け入れているが、今後ずっと保護を続ける気が無い事を示してもいる。
「兎獣人って短命種族よね?」
「純血の兎獣人でしたらそうですね」
「受け入れるにしても問題がありそうだけど、基本的には放置で良いのよね?」
「問題ありません。必要なモノでしたら私が用意できますし」
「カラーもほっとけば良いし」
そこで少し先の事を考え、発言する。
「……ロスマノフ皇国と敵対関係だったのっていつ頃の話?」
先生が生徒の質問に答える。
「魔王国以外の全ての国が敵だった頃から変わっていませんが、魔王国が国家間で戦争をしたのはかなり昔の話になりますね。ヘンデニル公国が建国されるより以前になります……」
「そうやって考えると魔王国って長いわよね」
「歴史的な意味で捉えるのなら最も継続している国です。魔王国が建国された頃は、他の地域では建国も滅亡も良くある話でした。だいたい勇者の所為ですけど」
「もう、勇者って何なのよ」
ぷんぷんするのは可愛いですがココは真面目に答えますか。
「時代の変革者と思えば特に不思議ではありません……」
あ、ヤバい。
先生が勉強を教えようとしている眼をしているから誤魔化さないと!!
「そうだ、セイビアに連絡を入れないと……私の名前使っていいから」
「そうですね、そうしていただけると向こうも対応が楽になりますので」
ハニエルからセイビアへと綱渡りのように見える行程だが、実際はかなり安全で、信用と信頼の有る二人とベルディナンドの名前が有るだけで、誰も襲おうなんて考えないのだから。
一番の問題は受け入れ先であったのだが、ハニエルもセイビアも一時的な受け入れであって、魔王国への橋渡しをしたという事で面目も立つ。
政治的な絡みを言うと面倒な事も多いが、ココは単純で良かったし、単純であるべきだった。そもそも、自国民が伯爵の私利私欲で追われ、逃げて来たのだから……。
「あの皇帝も文句は言えないでしょう……何代目か忘れましたけど」
「魔王国よりは歴史が浅いんでしょ」
「さっきも言いましたけど、魔王国より長く継続している国は存在しません。ですが、地域で言えばギンギールはとても長いです」
「どういう事?」
あっ、先生がメガネをかけた。
クイクイって、シテルゥゥゥゥ!!
「歴史のお勉強ですねっ」
しまったああああああああああああああああ!!
草木も眠る深夜。
今回はかなり荷物を減らす為、家畜は諦め、代わりに食糧を沢山積み込む。
オガサンの協力で10台の馬車の入手と準備は順調に進み、ベルディナンドのおかげで魔物の脅威も無い。
一番の問題はヒルデスハル伯爵の私兵だが、何故か全く来なかった。
姿も見せないし、偵察されている様子もなく、順調過ぎて気味が悪い。
十分な警戒と邪魔を予測していたベルディナンドだったが、ビレッドの街に近づくと、兵士からその回答を得る事が出来た。
「隊長が軍を辞めてしまって、私兵を率いる指揮官が不在なんです」
「アイツって皇国兵だったのか」
「実はそうなんですよ。伯爵閣下の命令で断れなかったからやっていただけなんです」
「まあ、可愛そうな立場ではあるか」
そう理解を示すと、その兵士が申し訳なさそうに言う。
「フィルド姉妹の行方を知りませんか?」
捜索の手は伸びていたが、この二人に関しては行方不明となっている。
そして、ベルディナンドは最後に姉妹と一緒に居た冒険者で、その後を知らない。
と、言う事になっている。
「ギンギール方面に行くとは言っていたが後は知らん。俺には行動を縛る権利なんて無いからな」
兵士が俯いて寂しそうにする。
ティルとミィが馬車の中に隠れていて、この人達を私達が捨てるという気分になっている所為で、罪悪感が凄いのだ。
「ベルディナンド殿、もしフィルド姉妹を見かけたらいつでも戻って来るように伝えてください。いつまででも待っていますので」
教会も造って貰ったし、色々と良くして貰っている。
だからその兵士の言葉が耳に届いた時は泣いてしまった。
姉妹にはビレッドの街に残るという選択肢も有ったのだが、また先生に会えるという方を選んでしまった時に思い出せなかったのだ。
二人を、姉妹を大切にしてくれた人達の事を。
「辛い選択だけど、良い選択だっと思えるようにすればいいのよ」
「ピタン様……」
ピタン様も辛い選択を強いられた仲間だ。
何しろ、自分が土地神として成長した筈なのに、その土地を捨てるのだから、土地神の意味が無い。
「まぁ、私の場合は本当の居場所じゃないって思えるけど」
ピタン様はどう見ても私より年下の容姿に見えるのだが、こういう時はより大人に見える。声を漏らさないようにしっかりと抱きしめられる。
妹も貰い泣きをしてピタン様に抱きしめて貰っている。
「道中、気を付けて」
「ああ、済まんな」
こうして、アルファディルへ向かい、ハニエルと出会った後に魔王国へ手紙を送ったのだった。
魔王国から『魔王アイシャ』の名前でギルドに返答が届けられたのはその翌日。受け入れが整えられ始めた頃には、オガサンは魔王国へは行かず、冒険者を雇って空になった馬車の返却の為に帰った。
もちろん空の馬車のままではなく、商品を積み込んでいるので損は無いように考えているあたり、商人としては合格だろう。
残った馬車は売却し、魔王国へ渡る船に乗り込む。
ちなみに、この船を手配したのはセイビアである。
「こんなに順調なんてなあ」
「ギルド長が直接来て対応してくれるとは……」
「海が綺麗ねー」
「ねー」
ピタン様は子供達と一緒に船に乗り込んでいて、ミィも行ってしまった。
ベルさんがギルド長との対応をしてくれているので、大人は荷物の運び込みで忙しい。ジョンさんもレテさんも、それぞれが別の用事で忙しい中、作業中に怪我をする人もいて、私も忙しくなった。
「おーい、負傷者はこっちだ。頼む」
「直ぐ治してもらえるから頑張って」
「……あぁ」
マノリって人が手伝ってくれた。
私と同じ猫獣人で、とても可愛い女の子と一緒のトコロを見ると親子かな?
名前 ホセ・マノリ 種族 猫獣人 職業 魚屋
レベル 407 特殊技能 魚師
名前 マーサ・C・マノリ 種族 猫獣人 職業 魚屋
レベル 83 特殊技能 なし
……夫婦だった。
「魔王国に住むんなら、また会えそうだねっ」
どうやら二人も魔王国に住む予定らしく、マーサちゃんと仲良くなれた。
今度じっくり結婚と恋愛について話してもらう約束をし、作業が完了した船に乗り込んだ私達は魔王国に向かって出航した。
潮風も、天候も問題なく、窮屈ではあったが船旅はそれほど苦しくなく、思った以上に短く、こっそりと隠していたビスケットを一人で食べようとした頃に、魔王国側の港に到着した。
最後に乗船したから、最初に降りると……妹がいない。
「おねーちゃーん、なにやってるのー?」
いた。
けど……なんか隣に骨が居るんですけど?!
「あ、このガイコツさんね、案内人だって」
恐る恐る近付くと……いや既に周りにいっぱい居る。
ナニコレぇ……。
「ウサギさん達でも問題なく対応できるって言ってたけど」
「あぁー、なるほど。確かに欲情するような相手じゃないもんね」
「どうも、ハジメマシテ。アンナ・イーニンです」
え?
あ、あー、なるほど。
「アンナさんという名前でしたか」
「はい。たまたま記憶に名前だけ残っていたので、そう名乗っています」
ガイコツだけど白いフード付きローブを身に付けているのはこの人……この人で良いのかな?
……他、数人。
「魔王様から指示を頂いているのですが、代表の方が見当たらなくて」
「教えたんだけど毎回こーやって訊くのー」
妹が困り顔だ。
指示書を持っていて、その紙を見せてもらう。
確かに代表者としか書かれていない。
「ベルおじさんとピタン様はウサギさん達を別の馬車に乗せるので忙しいって」
「それでミィが対応してたの?」
首を横に振った。
「骨が動いてて面白いけど、動きにくそうだから治癒魔法を掛けたんだけど、骨のまま元気になってどっか行っちゃったんだよー」
どういう事かサッパリわからない。
「とりあえずジョン・フィルドって名前の人を捜してもらえれば良いんだけど、覚えられないのよね?」
「覚えてますよ、名前は」
「確かに名前だけわかっても、ねぇ……」
周囲を見渡すと、船から降りた人達が、今度は馬車に荷物を積み込んでいる。
忙しいのは見て分かるし、何故かカラーも付いて来ているから、あちこちで騒がしい。あの鳥は可愛いんだけど、トニカクお喋りで、作業をしてても料理をしてても構わず話し掛けてくるのよね。
「名前呼びながら歩いたら気が付いてもらえるんじゃないかしら」
「それ良いですね」
凄い、指が細かく動いてる。
なんか仕草が女性っぽいんだけど、気の所為かな?
「案内人さんと一緒に探してくるね」
「アンナさんね」
「うん、アンナさん」
周囲を見回してもう一度確認する。
ココなら迷子になってもすぐに見付けてもらえるだろうし、問題は無さそう。
「って、既にいないわ……」
ジョンさーん、って呼ぶ声だけが聞こえる。
二人とも小さいから人混みに紛れると見えないのよ。
「だれかー、ケガ人だー!!」
今度は別方向から悲鳴が聞こえた。
荷物が崩れたらしく、人と骨が声に向かって集まっていく。
ケガ人なら私の仕事だ。
本当は妹の方が優秀なんだけど、どっか行っちゃったものね。
……人混みで近付けないっ。
※おまけ
トレイン「人員不足も困ったものだなあ……
ホゥディ「なんで僕が木を伐るの?
メルス 「壊すのは得意だが綺麗に伐るのは苦手だ
シェリィ「間違いなく、配置ミスなんですよね……
レノア 「配置するほど選べないのが問題なのでは……
トレイン「ちょっと狩りして食材集めた方が良いな
ホゥディ「ぼくも行くー
メルス 「その方が役に立てるな
レノア 「確かに
シェリィ「否定出来ないのが悲しい……
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