第109話 首都奪還作戦
ヘンデニル公国の首都デニルを目指して快進撃を続けるギデオン達は、幾つかの独立した私兵団を軽く蹴散らし、後続のブリード伯とヘンデニル公爵を待ちつつ、周辺を制圧していた。その中で得られた情報が纏められ、何故かギデオンを中心とする作戦会議でその情報が開示された。
フェノーネ男爵、サンテクベル男爵、シフネ男爵の三家はコピック子爵と共にバルバ子爵領へ逃走。そのバルバ子爵はギンギールに亡命したと思われる。
班目聖人が女を一人連れて行方不明。
斑目の部隊の副隊長と思われる人物が数百名を率いて蛮族の地へ。
複数名の子爵が協力して計画したと思われる為、主犯格が不明。
コピック子爵領の港町が魔王の宣言によって一万体のスケルトンに襲われ、ゴーストタウンと化す。
伯爵の半数以上が生死不明。
残ったのは、ブリード伯、ワーゲング伯、ブリント伯、ペイニー伯の四名と、子爵が三名、男爵が九名。名誉準男爵が六名。
「報告してもらって悪いが、俺には分からないことだらけだな」
「簡単に言いますと、伯爵達と、伯爵以下の連合軍との内乱です」
分かりやすい構図なのか?
「なあ、名誉準男爵ってなんだ?」
「高い功績を挙げた者に贈られる名誉貴族です」
「ふーん、一番重要なのは班目が逃亡したって事ぐらいか……」
「ギルドはどのぐらい機能してるの?」
リッカーらしい質問である。
「現在活動を継続しているのはデニルとミグルスの二つのみです。他は資金不足とギルド職員の殆どが行方不明の為、存在はしていても機能していません」
回答する兵士はデニルより派遣された中階級の兵士で、そもそも戦闘に参加しておらず、情報収集を専門としていた。
公国には公国軍が存在しているが、殆どの貴族は私兵を保有し、公国軍を戦わない兵隊として見下していたが、今回の件で多少は戦えると見直されている。
見直されたと言ってもこのありさまなので、あまり意味は無いが。
「スータン準大佐、だったな」
「はっ」
「なんで俺に報告をしたんだ?」
きりっとしていた筈のスータンは、目を丸くして返答した。
「解放軍司令官殿ではないのですか?」
「違う」
「……違うのでありますか?」
「違うけどそれで良いのよ、ちょっとめんどくさいのよコイツは」
「はぁ……」
「そもそも俺達は確かに解放軍と言われるダケの事はしているが、俺は軍人でもないし、指揮官でもない。司令官なんて成る気もない」
「めんどくさいっス」
「修ちゃんだもんねー」
お前ら、勝手に言うな。
同意するな。
「ですが、公爵様から指示を受けるように言われております」
「勝手に立場を作るな、俺は気楽な冒険者だぞ」
「これから食糧関連の相談をしたかったのですが……」
「ギンギールから支援を受けられたの?」
諦めたのか、リッカーに視線を向けて返答する。
「完全な支援ではなく、格安で購入という事でした」
「ブリード伯が払ってくれるから必要な分だけ購入すると良いわ」
「了解しました。あとはある程度統制の執れる軍隊を再編成しないとなりませんが、ギデオン殿にお願いするつもりだったのです」
「どうせ書類上のモノだろ、俺は必要な人数さえいれば良い。といっても、それももう必要ないけどな」
首都デニルは目前で、陥落も時間の問題というより、すでに陥落しているに等しい。主だった抵抗勢力は無く、一部の小規模私兵が特定の地域を支配しようと企てているのを阻止するぐらいだ。
「独立して立場を作ってから売りに来るんでしょうね」
「それをされると困るって話だったからな、そいつらを潰したら俺の仕事は終わりだ」
すでに勝利宣言をしているのと同じことを言っているが、ギデオンだから許される発言でもある。それだけに、勇者だったこの男は多くの者に畏敬の念を植え付けていて、その一人である準大佐は、ギデオンに向かって敬礼したのだから。
「貴族私兵団の居場所は割れているか?」
「はっ。既に」
「お前らの公爵様が来るまで七日は有るからな、それまでに潰しておく」
「兵隊は率いて行かないのですか?」
まだ再編が終わっていないという事だ。
「ココまで付いてきた冒険者もギルドに辿り着く方を優先したいだろ。俺はギルド依頼じゃなくて公爵様から直に受けてるんでな」
「では必要なモノがありましたらなんでもご用意致します」
「そうだな、俺には温かい飯と暖かい風呂と寝床を用意しておいてくれればいい」
ピンスはなんで顔を赤くしたんだ。
リッカーとフランソワが揃って俺を怪しい目で見るな。
やり難いっ!!
結局、ギデオンは4人で諸規模の私兵団を三日で全て潰すのに成功した。
魔王城ではアイシャが仕事に忙殺されていた訳ではなく、適度に書類を紙飛行機にしていたから、マリアに怒られながらもなんとか処理していた。
本来なら子供のする仕事ではない。
ちなみに拾っていたのはメルスである。
メルスは自身の鱗を変化させる魔法を教わってからいろいろな服を試していて、今回のコンセプトは夜伽メイドとの事。
先生に言うと怒られるからナイショにしろって。
ヨトギッテナーニ?
トレインがやっとの事で帰参し、周辺の町や村は元通りの活気を取り戻しつつ、新しい管理職を再編しなければならないのが、これからの課題である。
「ただいま戻りました」
リンゴジュースを飲みながら会議室で待っていたアイシャは、労いの言葉で迎い入れるという事はまだ知らない。
「おかえりー、どうだった?」
「財産を持って逃げた奴らが多くて、復興にはまだ時間が掛かりますね」
「そっかー……お城からお金出せれば良いんだけどね」
親の隠し部屋にあってモノを売ればそれなりの金額になるだろうが、流石に売りたくない。何の役にも立たない物であっても、数少ない親の遺産なのだ。
「ギデオンにはちゃんと請求したから、そのうちね」
「そのギデオンですが、情報では貴族連合をあっという間に蹴散らして、首都の奪還まであと数日だとか」
「まー、アイツならそのくらい余裕でしょ。絶対、まだ隠し技か何か有るのよ」
「そーいや戦ったんでしたね、あのギデオンと」
メルスが知りたそうな顔でアイシャを見詰める。
トレインの方はそのメルスの衣装に気が付いて視線を逸らしている。
煽情的な衣装だが、隠すところは隠しているし、見えそうで見えない。
「ギデオンったら私相手にどうやって手を抜くか、加減が分からなくて困ってたらしいけど、今度会ったらまた一発殴らせてもらうんだからねっ」
全く伝わらないが、悔しい事は分かる。
トレインもギデオンは恨みのある相手だし、殴れるモノなら殴りたい。
自分だったらカスりもせずに地面にひれ伏すだろうと思っている。
そのくらい実力差がある相手なのだから、魔王の娘が、今はその魔王として、あのギデオンに対して委縮することなく戦意を剥き出しにしている事が、部下としてはとても嬉しい。
「しかし、勝負を挑むにはまだ早計ですし、力を蓄えていつか復讐してやりましょう」
「うんっ!!」
元気いっぱい、やる気満々の、子供のような返事だった。
「あら、トレインが戻っていたのですか」
「先生、ただいま戻りました」
マリアの目はトレインではなく、すぐにメルスへと向けられ……他人の鱗を勝手に変形させて、フリルいっぱいのウェイトレス風メイド服に変更された。
なんで猫耳が付いたの。
「報告書は提出しましたか?」
「えーっと……とりあえず口頭で……」
「書くのメンドイよね」
「ですよねーっ」
先生が声を出して分かるように溜息を吐いた。
「本来ならしっかり出来るまで待つ、それが私の教育方針ですが、しっかりして頂かないと民が困ります。シェリィはまだニュービーズから戻ってきていないですし、申し訳ありませんが報告書ぐらいはしっかり書きましょう」
「はーぃ……」
なんで仲良く落ち込んでいるんですか。
トレインもそこで書いてもらいますよっ。
「まだ戻ってきていないと言いますと、戦闘中?」
「シェリィ自身は戦いませんので、スケルトンを使って情報を収集していると思いますよ。スケルトンの情報網を使いこなせるのは死霊使い(ネクロマンサー)の特権ですから」
死者から情報を得るのは普通は無理だ。だが、それを可能とするのも特技の一つで、死体が新しい程、多くの記憶を引き出せる。
たまに精神力というか、念の強い奴も居て、それを使役すれば戦力にも成る。
そのシェリィが帰ってきたのは、トレインが3枚の報告書を書き終えた頃だった。
「ただいま帰参いたしました」
予定より早く帰ってこれたらしいが、その理由は良いゾンビ馬を手に入れた事と、敵が意外にも強かったらしく、1万のスケルトン軍団は全滅したかららしい。
「船は借り物でしたので返却しておきました」
「流石仕事はしっかりしていますね」
「ありがとうございます。こちらが報告書に成ります」
……何その分厚い報告書。
そして先生に提出したよね。
私、一応だけど、魔王なんだけど。
先生がペラペラとめくって確認する。
その中から数枚を抜き取って私に持ってきた。
確認が早いっ。
「もうデニルの奪還まで進んでるって、アイツらやるわね」
「その功績の半分くらいは我々のモノですよ」
「そうだよね」
「そして、非常に残念な事ですが、現在の魔王国の軍団としての最大戦力がシェリィのスケルトンなんです」
「……全滅したって事は……」
「簡潔に言いますと、魔王軍もピンチです」
「また一からかぁ……」
しかし、その代わりに大きな借りも作る事が出来た。
ヘンデニル公国がこのまま復活すれば、魔王国に対して謝罪と、感謝と、賠償をしなければならないからだ。
「感謝と賠償は分かるけど、謝罪って?」
「そもそも、ヘンデニル公国の軍が攻めてきた事が原因で魔王国の崩壊するきっかけにもなっているのです。勇者は関係ありません」
「攻めてこなければ勇者達の被害だけで済みましたから」
「ヘンデニル公国の一部貴族が武功欲しさに欲を出したのです」
「なーるほどねぇ?」
二人の説明を受けても、まだ半分くらい理解できない。
「勇者を利用した上に、その勇者に手を貸し、魔王を倒すという大義を利用して攻め込んだんです」
「私もあの時は誰に襲われているのか良く分からなく……」
シェリィはここに居る中では二番目に辛い被害者だ。
何しろ死んでいるから。
今は元気にぴんぴん死んでるけど。
……間違ってないわよ。
「実際はそれに乗っかったギルド所属の冒険者達も居て、誰がやったのか分からなくなったんだと思います」
「はぁー……セイビアに文句言っても良いんじゃないの、それ。知ってたんでしょ?」
「それで、魔王国内にギルドを……」
「あー、そっか。だからセイビアが来たんだ」
「そうです」
相手がマリアだからだという理由だけだと思っていたが、そうではなく、裏には幾重にも事情が重なっていたのをしった魔王様でした。
大人の事情だって今なら教えて貰える。
私、もう大人だからっ!!
「なんでドヤ顔してるんですか?」
「んー、なんでもナイ」
リンゴジュースを飲んで、トレインが退室しようとした時に思い出す。
「ちょっとまって」
「なんでしょう?」
「トレインを四天王筆頭に任命するから書類仕事してねっ」
マリアが無言で分厚い報告書をトレインに手渡した。
受け取ったトレインの顔が青くなったのは言うまでもない。
※おまけ
「シェリィも四天王に任命するけどいい?
「え、よろしいんですか?
「よろしいも何も、今回の事に対して褒美を与えるとしたら、今は地位しかないのよ
「遠慮せず、受け取って良いのですよ
「そして書類仕事手伝ってね!
「……ありがとうございます(素直に喜べません)
「……やった、仲間が増えた!
「……はぁ……
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