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第105話 勇者vs元勇者

 剣戟が繰り返されるのは何度目なのか。

既に周りの者達は敵味方関係なくその場に座り込んで二人の戦いを傍観していた。

その一振りで風が吹き、その一振りで地面が抉れ、その一振りで空気が振動する。

リッカーですら見た事が無いほどの激しい力のぶつかり合いに恐怖を越え、感動と感嘆が巡り、見入ってしまっている。


「いつまで戦い続けるんだろうな」

「なんか、見てるだけで疲れるぞ」


 この会話は先ほどまで戦っていた二人である。

 相打ちして倒れたのだが、ピンスの治癒魔法で回復し、戦う意味を考え始めた時に、別の二人の決闘が静かに始められていたのだ。


「修ちゃん頑張れーっ」

「聖人様ーっ」


 こちらはこちらで女性二人が睨み合っている。

 リッカーが呆然としているのは、ギデオンが本気で戦っているのに苦戦しているからだ。


 星銀の鎧と太陽の剣を装備しているのに、圧倒していない。

 相手は特に目立つような武具ではないし、ちょっと良いミスリル製だ。

 ただの力と力のぶつかり合いではないのがリッカーには分かる。

 分るから悔しい。


「……なんて面倒な奴だ」


 太陽の剣だから刃毀れは無いが、今まで対峙した事の無い勇者を相手にする面倒さを体験する事になって、本当に自分が恐れられていた事を知る。


「お前、ワザと手を抜いてるだろ」

「何だ、今頃気付いたのか」


 ギデオンが手を抜いている?

 嘘でしょ、見ているだけで私より強いのに……。


「勇者は倒すと強くなるからな」

「生意気な……」

「では本気を……」


 リッカーが突然声を張り上げた。


「駄目よ、そいつは、班目聖人は直ぐに回復するからっ!」

「自動回復持ちを相手にする面倒さは知っているつもr……まだらめせいと?」


 手が止まる。

 聞き覚えのある名前だった。

 それは、あの当時の若者なら誰でも知っているほどの有名人。


「な、何だ、俺を奇妙な目で見るな」

「あんた、あれか、あの班目か、アイドルの……」

「アイドルで覚えられているとはなぁ……だが、この世界に来て捨てた。何の役にも立たないからな」

「そうか、俺はアンタがアイドルを辞める前にはこの世界に居たからなあ」

「あの頃は良かったと思っていたが、今のこの世界は良いぞ。力こそ全て。勝てば誰も文句を言わない。アイドルで売れていた時は金が有っても女と遊ぶ時間さえなかったからな」


 この言い方は黒い噂が有った当時を知る者には、案の定という気持ちになる。


「やっぱり、女好きって噂は事実だったのか」


 やっぱりって、ギデオンは班目の事を知っている?

 この男の情報は殆ど無いというのに……。


「何を言っている、男なら自分好みの可愛い女をモノにしたいだろ」


 なんであの子が顔を赤くして照れてるのかしら……。


「あたしは修ちゃん一筋だからねっ」


 なんで対抗心燃やしているの……。


「で、本気ってなn……」


 ギデオンが動いた。

 一瞬で班目の脇腹が斬れ、遅れて血が噴き出る。

 リッカーが目の前で見ているのに、その動きを捉える事が出来ないほど速い一撃だった。


「な、なにをした……」

「身体強化しただけだぞ。どうせ治るんだろ」


 吹き出た血が止まると傷が塞がっていく。

 治る過程を見るとちょっと気持ち悪い。


「アレが勇者の能力……傷付いても直ぐに回復するって化物じゃないの」

「痛みは変わらないけどな」


 経験者の言葉である。


「おい、身体強化ってなんだ?」

「そんな事も知らないのか……」

「えっ、えと……」


 向こうで説明を受けているが、班目の頭の上には?が幾つも浮かんでいるようだ。

 それも理解できる。

 そんなに簡単に強くなれるのなら訓練も修行も必要が無い。


「でも使わない方が良いです」

「何故だ?」

「身体強化はミスしたり、やり過ぎてしまうと身体がバラバラになりますから」

「では俺はあんなガキに勝てないのか」

「聖人様なら勝てますっ」


 何故か自信満々に答える女の子。

 班目はその子の頭を撫でる。


「終わったか?」

「待つとは随分と余裕だな」

「当たり前だ、俺はただの時間稼ぎだからな」

「なに?」

「まだ自分の立場が分からんのか?」


 周囲を見渡すと誰も戦っていない。

 敵に対して背を見せて会話をした時もそうだったが、斑目には危機感が足りなさ過ぎる。あんな平和な国からやってきたのだから、仕方が無いと言えばそうだが、軍隊と戦っているとは思えない。

 ゲームを楽しんでいる子供と同じだ。


「もうお前の為に死力を尽くして戦う奴なんて、この場にはいないぞ」

「別にそんなものはいらん。俺は可愛い女と美味い酒が有ればいい」

「その割には多くの人を殺し過ぎていないか」

「貴様もそうなんだろう?」


 元勇者は知っている。

 自分も今に至るまでに多くの者を殺してきた。

 そして目の前の勇者はこれから多くの者を殺そうとしている。

 勇者という存在がどれだけ理不尽なのかも知っている。

 知ってしまったからには止めなければならない。

 放置すれば世界の均衡が崩れるだろう。


「修ちゃんはそんなんじゃないもん!!」

「……確かに俺は多くの人を殺してきた。国だって滅ぼしたぞ」


 班目の表情が明らかに歪んだ。


「……ちょっと強くなったくらいでいい気になっている奴を見ると、以前の俺を見ているみたいでイライラするんだよ」


 空気が揺れるような感覚。

 空にはいつの間にか暗雲が広がっている。

 その不気味さに恐怖を感じた。


「場数なら俺の方が踏んでいる筈だっ」

「崩壊した城を見ながら死体を椅子にして飯食った事あるか?」


 冗談みたいな話なのに真実味がある。

 それは目の前に立つ男にその話以上の威圧感が有るからだった。


「命乞いをスル奴の首をはねたコトが有るカ?」

「血の池を泳いだコトガアルカ?」

「ナキサケブコドモノメノマエデソノチチオヤヲキッタコトガアルカ?」


 次々と発せられる言葉の内容に、班目は気分の悪そうな顔をしているワケではない。

 本当に気持ちが悪くなっている。

 目の前の男の姿に……。


「も、もういいよ、修ちゃん……」


 駆け寄ってくる姿を確認すると剣を収めた。

 戦う気力が失われいるのだから、役目は十分に果たしただろう。

 班目にも女性がいて、その子が不安定に立っている身体を支えるように抱きしめる。


「私、ただの冒険者だ……」


 リッカーが呟いた。

 ギデオンの姿は魔王に近いモノがあったが、元勇者であって魔族の血は一滴も流れていない。それなのに、負のエネルギーが周囲に広がり、身体と心が絞めるように苦しくなる。


「お前とは必ず決着をつけてやるからな……」

「あぁ、俺以外なんかに負けるんじゃねーぞ」


 斑目が引き下がっていくと、斑目についてきた兵士達も追随して下がっていく。

 まるで潮が引くように、そこに死体を残して。

 そして全てを洗い流すかのように、広い草原には雨が降り始めたのだった。






「まさかギデオン殿が助けに来てくれるとは」


 そう言って感激したのはヘンデニル公爵で、集まった部屋のテーブルには豪華な皿の上に質素な料理が並べられている。

 質素とは言っても一般家庭よりは何倍も良い。

 肉とパンとスープがあれば豪華だと喜ぶくらいだ。


「助けるつもりじゃなかったけど」

「お、おい、公爵様になんて口の……」

「俺はそんな奴を知らない。国なんて亡びる時は一夜にして滅びるもんだ」


 それを実行した者のセリフなので、止めに入った者が何も言えなくなる。


「だが助かったのは事実だ。なにも礼はしてやれないが、希望があれば叶えてやりたい気持ちは有るぞ」

「俺の欲しいモノはアンタじゃ無理だ」


 言葉遣いを咎める者はいない。


「そうか。だがいずれ……」


 突然ドアが叩かれ、言葉が遮られる。

 今ココに敵はいない。

 入室を許可すると伝令の兵士が開いたドアの前に立ち敬礼する。


「失礼します。冒険者ギルドと商業ギルドの連名で布告がありました」


 口頭ではなく丁寧に折りたたまれた紙を手渡され、二人ほど挟んでから受け取る。

 それを読む公爵は少しずつ表情を変えていき、驚きを隠せない。

 その態度を見たリッカーが喜んでいて、その内容はリッカーの予想通りだった。


「やっと来たね」

「なんと、魔王が……それに宣戦布告まであるのか」


 彼は布告された側の国の国王である。


「これで奴らは帰る事になるだろう。しかし、あの子供が魔王なんてなぁ……」


 まだ何も言っていないのにリッカーも修一も内容を知っているようだった。

 それを公爵が不思議に思うのは当然だろう。


「読んでもいないのに何故わかるのだ?」

「アイシャが魔王に成って公国に対しての恨みを晴らしたいくらいわかるわ」


 と、あっさりと答えた。

 ピンスの方も予想をしていたし、修一から話を聞いていたから驚かない。


「まるで知り合いみたいな物言いだな」

「私は友達のつもりよ。ギデオンの方は知らないけど」

「俺か。俺は……そうだな、好敵手(ライバル)かな?」

「ふーん……あの時とは比べられないくらい強くなったわよ」

「それは楽しみだな」


 周囲の者達を置き去りにする二人の会話は、注目されている。

 視線を感じてギデオンは制した。


「説明はしないぞ。それより方針を決めてくれ。俺はココに来る予定じゃなかったから、用が無くなれば世界樹に向かうが」

「そういえば、二人はどうやってここに来たのよ。しかも凄く絶妙なタイミングで」

「あー、あれはですね、ベルディナンドに行った時の事なんですが……」


 周囲の者達は驚いていないが、リッカーは凄く驚いている。

 驚かないのは、その名前の意味を知らないからだ。

 ベルディナンドと言えばSランクの冒険者の名前という意味の方が有名である。


「説明すると面倒臭いんだが、星銀の鎧のおかげで平気だったぞ。なっ」

「聖女の力で浄化したらイケちゃいました。てへっ」


 リッカーは天使なので普通に行く事が出来るが、あの土地はこの世界とは別空間と言っても過言では無いほどに環境が違う。ドラゴンぐらい強い意志や魔力があっても長居するのはソコソコ辛い場所だ。


「天使と悪魔が住んでいた土地なんだけど……」


 公爵の待つ部屋にブリード伯が一礼してから入室する。

 屋敷も領土も伯爵の管理するところだが、公爵は伯爵にとっての国王なのだから、敬うのは当然なのだが、全く動じない者が3人いる。

 近衛兵達も伯爵も公爵をも会話に入れず見守るだけの会話を続けていた。


「招かれざる扉ってのを知っているか?」

「知ってるわ。あー、確かにその扉からなら誰でも入れるけど、普通なら入る前に弾き出されるわよ」

「気味の悪い扉だったが、何の抵抗も無く入れたぞ。入口に案内の看板まで有ったから罠かと思ったんだが」

「へー……って世界樹に行く途中だったの?!」

「今更驚かれても」


 そこで会話が途切れ、やっと食べ始めたギデオンが肉を摘まんで食べると、ピンスが冷めたスープを飲む。

 リッカーは丁寧にフォークでサラダを食べ始めたが、誰も咎める者はいない。

 この3人がいなければ、間違いなく戦線は崩壊し、今頃は胴体と首が切り離されていただろう。

 今度は公爵と伯爵が会話を始めるが、ヒソヒソとしていて聞こえない。

 貴重な酒がテーブルに有るが、ギデオンは飲まないしピンスもスープを飲んでいる。

 リッカーは呑むような気分ではない。


「ギデオン殿」

「ん?」

「方針を決めろと言うが、ハッキリ言って反転攻撃するだけの兵力は無い。かき集めても500名が限界だ」

「あの班目ってやつ、兵を指揮する能力とか有るのか?」

「無いわね。というか、率いてきたというより、班目が強いからついてきたって感じ」

「なら領地を取り戻せば兵力も回復するだろうな。仕方ねーな、デニルだっけか、その街を取り戻すまでは付き合ってやるよ」


 横柄な態度ではあるが、あの勇者が力添えしてくれるとなれば百人力である。

 多くの絶望から見えた希望の光をギデオンに求めるのなら、態度は一つだった。


「よろしく頼む……」


 公爵が頭を下げれば、伯爵も、他の兵達も頭を下げる。

 それは見慣れた光景だったから何とも思わなかったが、少しだけいつもと違う感覚は有った。


「……頼まれるのってなんか、むず痒いな……」


 そう言って再び肉を口に放り込んだ。







■:招かれざる扉



天使と悪魔が住む異空間へ続く扉

入る時も出る時も、その扉を開く者の意思によって場所が変わる

ギデオンは元の世界に戻る時にリッカー(班目)の傍に出た

求めるモノに応じるつもりで扉を開いたらしい

本当は世界樹の近くに行けると思っていた



 

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-**-*-

 

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