◯ ポストクレジット
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その夜。
北九州市八幡西区のとある賃貸マンションの一室にて、比良坂優子はひとりリビングにたたずんでいた。部屋の照明は落としたまま、白い月明かりがぼんやりとにじむその中に、優子もまた背骨が溶けて無くなったみたいにグニャリとソファーにもたれ掛かっていた。
気力が枯れていた。鏡を見るまでもなく表情も無い。脱力に支配されているのもやむなしと、客観視する自分がいた。
ガラステーブルの上にUSBメモリ。結局持って帰ってしまっていた。捨てる理由はある。並行して捨て難い理由もある。なぜ迷うのかがわからない。何気なく窓から月を見る。雲の少ない闇夜に浮かぶ半月。当たり前だが月面にバケモノの姿はなかった。
……なんで見えないんだろう……
あり得ない事を思った。ゲンジツでは見えないものを見えたりしたら、私のケータイ小説も毛色が変わったりするのだろうか……
ゆっくりと半身を起こし、メモリと同じくテーブル上に投げていたスマートフォンを手に取る。魔導の図書館を開く。閉鎖まであと七日。
……あと七日で……宮田 美代彦はネット上からいなくなる……沈みゆく魔導の図書館と運命を共にし、デジタルの海の底で藻屑となる……
だったら……と、ふと思う。そのままにしておけば、『ひどいやつら』も消えてなくなる。それで良いのでは?
だが違う。モノガタリは消えたがっているのではない。終わりたがっているのだ。だからこそ厄介だった。
……どうしてこんな事に……
宮田 美代彦は、あの後どうしたのだろう。雲隠れ? 高飛び……は無い。だったら最初から松本清張記念館に来ない。なぜあの場所だったのだろう……宮田はチラチラと腕時計を確認していた。時間が無いとも。
何の時間? 何が彼を追い立てていたのか……
もう続きを書く事が出来ない……いや、だったら最初から連載など始めてはいけない。本気でそう思う。
何もかもが説明不足。それでも声は聞こえる。
……もう終わろう……
わたしにどうしろと?
優子は宮田のHPへ移動した。改めて『ひどいやつら』を最初から読み直してみる。
最初に読んだ時にも感じた事だったが、第四話の『雨傘と日傘』の例えの唐突さ、これがやはり引っ掛かる。伏線にしてはこれだけが露骨に浮いてしまっている。これも故意という事なのだろうが、宮田の真意は測りかねた。
……これを活かす終わり方とは……どういう切り口でまとめれば良いのか……
いや、作者はわたしではない。わたしの作品ではない。ないのだが……
宮田 美代彦は『ひどいやつらをお返しします』と言っていたが、そもそもモジョンと三人でのリレー形式で執筆していたのは、まったく別の物語だった。冒頭の注釈に設定とキャラクター原案にアルパカとモジョンの名を掲げていたが、まるで身に覚えの無い内容だった。宮田単独での作品なのは明白である。
……つまり、最初からモジョンかわたしに引き継がせるつもりだった……ということか? 自分で最後まで書き切るつもりは無かったと。
時間が足りないのは、最初からわかっていた事だった。
そうなると別の疑問が湧いてしまう。なぜわたしなのか?
モジョンは断わった。そういう事だと思われる。だから、もう優子に頼るしかなかった。
……無理なお願いなのは百も承知です……
「……嘘つけ」
思わず声に出てしまった。
うつむいて目を閉じ、そして頭を抱える。どうすれば良いのか……
無視して黙殺の上で拒否の拒絶で廃棄して終了。それでいい。それでいいのに。
なぜためらうのか……迷った果てに答えがあった。自分は半生を賭けて取り組んでいるのに、宮田はケータイ小説を愚弄している。軽んじているのだ。それが許せない。
あの説明不足で不愉快な男のことなど実にどうでもいい。わたしはケータイ小説に寄り添う。作品に寄り添う。終点まで責任を持って誘う。
あんな恥ずかしい男とは違う。ねじ曲げられたモノガタリを修正し、襟元を正し、万人が納得するラストシーンを描いてみせる。例え誰も読んでいなくとも。そうしなければ。
もういい。踊らされてやる。『ひどいやつら』の完結と他作品のアップロードはやむなしと優子は判断した。移転先も適当でいいだろう。
しかし、『宮田 美代彦』は継がない。それとこれとは別の話である。
「あんたの名前は残さない……残すものか……」
宮田の顔を思い描く。
二枚舌で腹黒く、手前勝手で自己中心主義の権化。他人を巻き込む事に、毛ほどの罪悪感も抱かない男。
「……わたしは……」
顔を上げ、目を開く。窓に半月。その月面を穢すように、異形の何かがぐねぐねぐねぐねと這いまわっていた。好機。このタイミング。これでいい。そして比良坂優子は夜空を睨み、薄く嗤った。
「 わたしは宮田 黄泉彦だ 」
※ このモノガタリはフィクションです。実在する人物・団体・組織・小説・記念館・ハンドルネームなど、一切関係ありません。
※ 劇中にて事件発生の翌日に指名手配がなされていますが、実際の捜査では証拠固めの精査に数日要するのが定石の模様です。あくまでも演出のひとつとしてお楽しみください。故意です。わざと。仕様。ド素人が書いているのでご容赦ください(笑)
※ ご縁があれば、また次回作でお会いしましょう。もう終わる? いいえ、終わりません。モノガタリが軋むような悲鳴を上げるのは、むしろこれからです………
【Y・M】




