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モデルになりたい!

 サリーがスーパーモデルのクリスタ推しになったきっかけは、長兄の買い物に付き合って出かけたバクラヴァ5区で、偶然彼女を観かけた事だった。


 その辺りは市内でも特に賑やかな地区であり、有名な店が軒を並べている。エアバスの中から、その華やかなショウウィンドウ群に目を輝かせていたサリーの目に、人並み抜けて背の高い美女の姿が飛び込んできた。それが、クリスタだった。


 プープラン通りには、ロマン・ナダルのメゾン・ド・クチュールがある。だからそこにナダルのミューズであるクリスタがいたとしても不思議はないのだが、塞ぎ込んでいたのっぽのサリーにとっては運命の出会いだった。視線が吸い寄せられ、広い並木道を進むバスがメゾンの前を通り過ぎても、ワンブロック先の交差点を過ぎても、褐色の美女はサリーの目と記憶に焼き付いて消えることはなかった。

 自分の高身長を誇るようにキリリとした立ち姿、すっくと顔を上げて華やかな笑顔を見せるクリスタは、サリー・クーパーには希望の光、女神のごとく見えたのだ。あんな風になりたい、その瞬間からサリーの目標は「憧れのクリスタと一緒にランウェイを歩くこと」になった。





 帰宅後、早速サリーは新しい人生の目標を家族に告げる。当然応援してくれると信じていたのだが、家族の反応は違っていた。


「よしなさい。モデルなんて、おまえがなれる訳ないだろう」

 

 ニュースを観ていた父親は速攻で却下した。

 

「どうせなら、もっと堅実な職業を選びなさい」


 どうして反対ばかりするのだろう。サリーには、とても理不尽なことに思えた。

 父と母からは、幼い頃から夢を持てと言われて育った。やっとその「夢」を見つけたのに、反対するなんて酷すぎる。


「だって、本当に素敵だったんだもの。お兄ちゃんも観たでしょ」


 一緒にいた長兄に同意を促すのだが、


「華やかに見えるけど、実際はハードな業界だぞ。よしとけ」


 と素っ気ない。次兄のロブだけが「まあ、チャレンジはしてみたら」と背中を押すような言葉をくれたのだが、顔には「無理だろう」と書かれている。


 もともとサリーはおとなしい性格で、他人と争うことも嫌いな性格だった。それゆえ家族も厳しい競争社会であるモデル業など、臆病な娘には無理だろうと異を唱えたのだが、まさかそれがサリーの眠っていた闘争心に油を注ぐとは思ってもいなかったらしい。


高校(ハイスクール)を卒業するまでに、あたしはモデルになるわ! ダメだったら、大学に行って、ママが云う()()()()()ってのに就くことにする。いいでしょ!」


 父も母も、ふたりの兄たちも、サリーの宣言に目を剥いた。





 大見得を切ったのはいいが、どうすればモデルになれるのだろう。サリーは悩んだ。

 モデルになりたいが、その方法がわからない。そこで思いつく限りの手段で調べてみたら、いくつか方法があることを知った。


 まずは、モデル募集への応募。クリスタのような有名ブランドでなくても、ファッション専門雑誌や企業などで、モデルの募集をしていることがある。そこへ応募して声がかかるのを待つのが、業界に何の伝手もないサリーにはひとつの選択肢だろう。ダメもとで、いくつかの募集に履歴書(プロフィール)を送ってみた。


 しかし待っているだけでは、チャンスはやってこない。そこでオーディションやコンテストにも応募してみようと考えた。こちらも条件に合ういくつかの企画に応募書類を送ったのだが、書類審査の段階でふるい落とされてしまいその先のステップに進むこともできない。

 スカウトというラッキーに恵まれる機会が巡ってきそうにはないと思えば、オーデションの合格は必須なのだが、一次審査にも通らないのでは話にならない。


 いっそモデル養成スクールに通ってスキルを学んだ方がいいのだろうか。しかし大見得を切った手前レッスン料を親に負担してもらう訳にはいかないだろうし、とてもお小遣いで賄えるような金額ではない。


(どうしよう、このままじゃモデルにはなれないわ。なんとかしなくちゃ!)


 クリスタは幼い頃にバレエを習っていた、とプロフィールにあった。最近はボクササイズや筋トレが日課だと、インタビューに答えていたことも思い出す。なにもしないよりはましだろうと、USNSS(アサンス)や24-7 Tubeに上げられていた動画を見ながら見様見真似で身体を動かしてみるが、インストラクターのようには動けない。

 姿見の前でポーズを取ってもちっとも決まらないし、町のショーウィンドウに映る自分の歩き方を横目で観察してみても、お世辞にも颯爽とは見えない。ギグシャグとぎこちないのだ。


 憧れのクリスタには到底追い付けそうもない。どうしたらクリスタのように、カッコよく見えるのだろう。





 困ったサリーは、隣人のシンシアに相談を持ち掛けた。


「凄いわ、サリー。とっても素敵な夢よ。絶対チャレンジしなくっちゃ」


 彼女だけが、サリーの夢に頬を紅潮させて応援してくれた。そして一緒にモデルになる方法を考えてもくれた。


「サリーの場合、身長は問題ないと思うの。あとは見栄えの良さを磨かないといけないわ。こういったら失礼だけれど、やっぱりモデルの本懐は服や商品を良く見せることでしょう。そのための体型とかお顔の美しさとか」

「えー、どうしよう。シンシア。あたしのこの顔、とても美人の部類になんかはいらないわ!」


「そんなことないわ。世の中にはファニーフェイスのモデルさんだって、いっぱいいるわ。個性的な美をウリにすればいいのよ。それに美人の基準なんて、メイクと同じで流行り廃りがあるでしょ。サリーが有名になって、サリーが美の基準になっちゃえばいいのよ!」

「やめて、シンシア。ハードル上げないでよ」


 うろたえながらも、内心は「そうすればいいのか」とも考える。まだ子供のサリーにとって、シンシアは年上で自分よりたくさんのことを知っている頼れる味方だったから、彼女の言うことは素直にもっともだとうなずけた。


「あとね、やっぱり内面も磨かないといけないんですって。外側だけきれいにしたって、メッキはいつか剥がれちゃうでしょ。ウォーキングやポージングの技術も大切だけど、モデル本人に魅力がないと、オーディションには合格できないって訊いたわ」

「うわぁぁ、大変だぁ。それから、それからどうすればいいの?」


 のっぽの少女が、大都市の片隅で眩しい夢を大きく膨らませようとしていた。



【用語解説】

メゾン・ド・クチュール・・・メゾンとは、会社または店などの意味。 ファッションでは、オート・クチュール(高級仕立服)のブティックやブランドのことをメゾン・ド・クチュールという。


バクラヴァ・・・「テスクリ」の舞台、惑星レチェルの星都。

惑星レチェル・・・アステロイドベルト(メインベルト)に人工的に創られた、地球そっくりの環境の改造惑星。表面積の約80%を海洋が占め、緯度0度線を挟んで5つの大陸があり、その他大小の島々が点在している。

惑星人口の約73%が星都バクラヴァの置かれた北半球の最大のレヴァニ大陸に集中している。ちなみに本編の主人公テスたちが生活するロクム・シティは、南東へ約120キロの距離にある学園都市。他にリゾート地として、南半球のアシュレ大陸が有名。



おねがい <m(__)m> (実験中)


お読みいただきありがとうございます。もし「面白いな」もしくは「面白いかもしれない」と思ってくださった方、「感想は面倒くさいけど足跡を残したいな」と思われた方、




 ( •ॢ◡-ॢ)-♡




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テスとクリスタ ~あたしの秘密とアナタの事情
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