Data.91 弓おじさん、洞窟の攻防
「マルチ・バーニングアロー!」
10体の敵を同時に狙い撃つ【マルチショット】と爆裂する矢【バーニングアロー】の融合スキルがゴブリンの群れに襲い掛かる。
狭い洞窟の中で爆発する10本の矢は避けられず、彼らの持つ粗末な防具では防げない。
矢が直撃したゴブリンは消滅し、爆風を浴びたゴブリンは発火するので良い照明になる。
こちらはもうスキルの連射で片付くが、背後はどうなっているだろうか?
振り返ると、ガー坊が見慣れない金属片をばらまいていた。
「そ、それは……【まきびし】!」
その名の通り『まきびし』を地面に撒くだけのスキルだ。
ずいぶん前にNSOメダルで交換したスキルだが、あまり出番がなかったから俺自身忘れかけていた。
狭い洞窟ではまきびしを避けて通れないので、確実にダメージを与えることが出来るわけだな。
ガー坊はまきびしを踏んで動きが鈍ったゴブリンに追撃を仕掛ける。
獲得したばかりの【エネルギーシザース】で切り裂いたり、【赤い閃光】で撃ち抜いたりと大暴れだ。
流石はモンスターの中でも希少なユニゾンモンスター、性能が通常モンスターとは違う。
ゴブリンの群れは3分もたたぬうちに全滅させることが出来た。
洞窟の敵がすべてこのレベルなら楽勝だが、例によって先に進むごとに強くなるのだろう。
松明で照らし出せる範囲は限られている。
洞窟の中をうごめく音を聞き逃さないようにしなければ……。
ありがたいことにガー坊は浮いているので足音がしないし、俺の履いている足袋もあまり音がしない。
何か音がすればそれは敵だと思って先へ進もう。
◆ ◆ ◆
ゴブリンやらスライムやらオークやら……。
ファンタジーにおける王道敵モンスターを撃ち抜きまくり、俺たちは洞窟の壁の色が変わるエリアまで来た。
こういう洞窟ダンジョンで壁の色が変わると、それは深いところに足を踏み入れたということだ。
これまで以上の強敵の出現に警戒しつつ、分かれ道も含めて洞窟の隅々まで探索していく。
俺の探している物は『裏ボス部屋のカギ』。
これを手に入れなければ裏ボスには挑めず、ご褒美も貰えない。
敵に遭遇する確率も上がるが、とにかく探索を続けなければならない。
「ん……?」
曲がり角の先から光が漏れている。
そっとのぞき込むと、通路の先には巨大な盾を持った鬼のようなモンスター『オーガ』がいた。
背後には光り輝く宝箱がある。
おそらく、あれが『裏ボス部屋のカギ』の入った宝箱だ。
低レアリティの消費アイテムが入っている宝箱とは輝きが違う。
問題はどうやってオーガを倒すかだな。
盾は分厚い金属製だ。正面から矢を撃ち込んでも倒せ……るよな。
【裂空】で気づかれぬうちに頭を撃ち抜いてしまえばいい。
そうと決まれば早速……。
「いや、待て……」
曲がり角から飛び出かけて足を止める。
ちょっと試してみたい融合奥義がある。
そっちにプラン変更だ。
「跳ねる矢の嵐!」
壁に当たって跳ねる矢を放つ【バウンドアロー】と無数の矢を放つ【矢の嵐】を組み合わせた融合奥義だ。
今の俺の矢は『星域射程』の効果で光っているので、光の線が乱反射しながら敵を全方位から撃ち抜くように見える。
狭い洞窟内なら矢が跳ねまくってすごい光景が見られるのでは……という思いつきで使ってみたが、想像以上に派手な物が見られた。
オーガの盾は分厚くても1枚しかない。
跳ね回ってあらゆる方向から飛んでくる矢のすべてを防ぐことは出来ないので、攻撃方法としても正解に近い。
ものの数秒でオーガは倒れ、光となって消滅した。
この融合スキル……狭い場所での戦いでは切り札になるレベルだ。
また新たな組み合わせを見つけたことに満足しつつ、オーガの背後にあった輝く宝箱を開く。
中から出てきたのは予想通り『裏ボス部屋のカギ』。
紫色で毒々しく無駄にトゲが多いデザインだ。
危険な戦いの扉を開くための物だと見ただけで伝わってくる。
「あとはそのボス部屋がどこにあるのか……だな」
ふぅ……と息を吐く。
敵は強くないが、人間暗くて狭いところに長時間いると気が滅入る。
早く太陽の下に帰りたい。
だが、焦って駆け足になってはいけない。
俺が音で敵の位置を把握しているように、モンスターもまた俺の位置を音で把握しているようだ。
出来る限り音を立てないのが、デキる冒険者の洞窟探検だ。
それをガー坊も理解しているのか、俺に話しかけられるか敵に出会うかしないと鳴かない。
静かに先に進んでいると、また壁の色が変わった。
出くわすゴブリンたちも武器や防具が良い物に変わり、体も大きくなっている。
だが、安易な巨大化は弱体化だ。矢を当てやすくなるからな。
融合スキルとガー坊の助けで立ちふさがる敵を倒し、俺はついにボス部屋の扉を見つけた。
喜んだのもつかの間、その扉には鍵穴が付いていなかった。
つまり、これは通常ボスの部屋だ……。
ここに入ってボスを倒しても、メダルしか手に入らない。
俺はご褒美も狙っているので、倒すのは裏ボスだけでいい。
扉に背を向けて探検を再開する。
おそらく、裏ボス部屋も近くにあるはずだ……と思っていたら、壁の色が真っ黒な通路を見つけた。
光を反射して黒光りしない本当の『黒』だ。
臆することなくその通路を進み、今度こそ俺は裏ボス部屋の扉を発見した。
カギと同じく毒々しい紫で、無駄にトゲトゲした扉だ。
今度はカギ穴がちゃんとある。
カギを差し込み回すとカチャっという音がした。
道中で使った奥義のクールタイムは終わっている。
今はすべての奥義が使える状態だ。
「行こう! ガー坊!」
「グー! グー!」
俺はボス戦も暗闇の中で行うと思って、ガー坊に松明を預けたままだった。
しかし、扉の先で待ち受けていたのは、照り付けるような太陽の日差しだった。
「うぅ……!」
目がくらむ……!
まずい、この状況ではボスに……。
しかし、予想に反して攻撃を仕掛けられることはなかった。
目が光に慣れてくる……。
ここは人工的に再現されたサバンナのようだ。
周りをぐるりとコンクリートの壁で囲まれているので、俺は幼い頃に行った動物園を思い出した。
ボスは……あいつか。
しし座の試練のボスにふさわしい巨大ライオンが高い岩山の上でくつろいでいる。
べたっと地面に体をつけ、臨戦態勢をとることもなく、ただ俺を見下ろしている。
まるで王様だな。ライオンの王様、ライオンキン……やめておこう。
無言で弓を構える。
高いところといっても俺の射程の範囲内だ。
一撃で頭を撃ち抜いて……。
「……っ!?」
眉間を撃ち抜こうとしてライオンと目が合った瞬間、俺の体が動かなくなった。
これはまるで……【威圧の眼力】!
ガオオォォォォォォーーーーーーッ!!
ライオンが吠える。
すると、草陰からメスライオンが姿を現した。
そういえば、ライオンの狩りはメスがすると聞いたことがある。
そして、ライオンは群れで狩りをするとも……。
敵は孤高の百獣の王ではない。
RPGの中でも厄介な『仲間を呼ぶ』系ボスだ……!








