Data.90 弓おじさん、獅子の試練
「さて、次の試練……」
と思ったら、もう夕暮じゃないか。
今日は今さっきチャリンに貰った『化け蟹の抜け殻』の使い道と『星域射程』の説明に書かれていた『コントロール』の正体を探ってログアウトするとしよう。
まずは『化け蟹の抜け殻』だな。
これは……ガー坊に『使う』アイテムのようだ。
早速使ってみよう。
――ぴこんっ! ユニゾン『ガー坊』が新たなスキル【エネルギーシザース】を獲得しました。
【エネルギーシザース】
カニのハサミの形をしたエネルギーの塊で敵を切り裂く。
カニ関係のアイテムだからカニのハサミというのはわかるが、ガー坊には腕がない。
いったいどうやってハサミを使うんだ……?
「ガー坊! エネルギーシザース!」
ガー坊の体の周りに、赤く輝く2つのカニバサミが浮遊する。
「ガー! ガー!」
鳴き声と共にガー坊が体をじたばたさせると、2つのハサミが目の前の空間を切り裂いた。
なるほど、謎のエネルギーで作られたハサミだから脳波か何かで操れるのか。
何気に俺たちには貴重な斬撃系のスキルだし、出番は多そうだな。
次は『星域射程』の説明に書かれていた『コントロール』のことだ。
まさか、ここに来て矢に補正をかけて当たりやすくするわけじゃないよな……?
試しに手ごろな岩に向けて矢を放つ。
キリリリリ……シュッ! ザクッ!
特に違和感なく命中した。
というか、『星空の射手』の矢は岩にも刺さるんだ……。
今度は雑に狙ってみよう。
キリリリリ……シュッ! ザクッ!
雑に撃ったので、順当に狙いを外れて他の岩に刺さった。
どうやら、矢の命中に補正をかけることを『コントロール』と呼ぶのではないらしい。
じゃあ、なんなんだろうか?
ネットで調べたって絶対出てこないし、考えるしかない。
そもそも『コントロール』という単語を一番使う場面はどこか?
よく聞くのは……野球関係かなぁ。
ストライクゾーンの四隅を狙えるストレートのコントロールとか、変化球を曲げて空振りを取れるコントロールとか……。
要するに球の軌道を操ることを『コントロール』と呼んでいる。
これを矢に置き換えると……矢の軌道を操る?
つまり、撃った矢を自分の意思で操れるのか?
まさか……。
キリリリリ……シュッ! ザクッ!
曲がった……!
クイッと鋭くは曲がらないが、じわっと曲がったぞ……!
『コントロール』は撃った矢の軌道を操る能力のことだ!
だが、これをどう使えばいいんだ?
曲げて敵に当てるくらいなら、敵の動く先をあらかじめ狙う、いわゆる『偏差撃ち』の方が当てやすい。
死角を狙うにしてもクイッとは曲がらないので、鋭く角度をつけて跳ねる【バウンドアロー】の方に分がある。
曲げることでしか出来ない攻撃は……それこそ射程を活かした攻撃だ。
近くを狙う時はそもそも矢が飛ぶ時間が短いので大して曲がり切らない。
しかし、遠くの敵を狙うと矢が飛ぶ時間が伸び、その分曲がりが強くなる。
敵からすれば矢が曲がるなんて思わないから、俺がどこから撃っているのかわからないかもしれない。
まっすぐな矢を撃つと、当てた敵に俺のいる方角がバレるからな。
他にも使い道はありそうだが、いま思いつくのはこれくらいだ。
流石は特殊第3職。変更点が多すぎる……!
新たな力と積み重ねてきた力、どちらも上手く使いこなさないとバックラーの言っていた『いくらでもいる強いプレイヤー』には及ばないのだろう。
彼らも試練を乗り越えて強くなり続けているはずだ。
何はともあれ、今日はログアウトだ。
明日は残り2つの試練のうち1つ、しし座の獅子迷宮に挑む!
◆ ◆ ◆
翌日、俺は普段よりスッキリと目覚めた。
なんだか、肩の荷が下りたような感じだ。
まだ試練は残っているし、チャリンとの最終決戦もあるんだから気は抜かないようにしないとな。
対人シューティングや格闘ゲームのプロゲーマーがよく言っているが、ゲームを数日遊ばなければ感覚を取り戻すのに時間がかかるらしい。
毎日コツコツ継続が大事というのは万事変わらないのだ。
俺もNSOをコツコツ遊んでいる。
いや、結構ぶっ飛ばしながら遊んでるかな……?
今日の試練はしし座の獅子迷宮。
他の迷宮に比べて非常に名前が覚えやすくて助かる。
『おうおうおうっ! 獅子の試練はこちらからだにょん!』
ここのチャリンは……あの有名なライオンのミュージカル風だな。
頭には獅子のたてがみのような被り物、手には木の杖、体には布を巻き付けただけの質素な服。
でも、見せちゃいけない物は見えていない。NSOは健全なゲームだ。
『ここの試練は超王道! 洞窟のようなダンジョンの中を松明片手に冒険してもらうにょん!』
しし座の神話の通り、獅子は洞窟に住むというわけか。
松明片手にということは暗く、狭い場所での戦いが予想されるな。
『メダル獲得の条件も王道! ダンジョンの奥に住むボスを倒せばいいだけ! でも、ご褒美も欲しいって人は裏ボスを倒す必要があるにょん! 裏ボスは通常のボスとは違う場所にいて、そこにたどり着くには『裏ボス部屋のカギ』が必要だにょん! そのカギもまたダンジョンのどこかにあるにょん!』
とにかく足を使った探索を要求されるというわけか。
通常ボスを倒すとメダルだけ、裏ボスを倒せばメダルとご褒美の両方との補足があったので、俺は裏ボスだけを探し出し倒せばいいわけだ。
『松明はすでにアイテムボックスに入れてあるにょん! 燃え尽きないし壊れないけど、熱くもないから武器としては使えないことは覚えておくにょん! それでは冒険の王道、洞窟探検にレッツゴー!』
松明をアイテムボックスから取り出し、俺はガー坊を引き連れて洞窟の中に入る。
明かりがなければ何も見えないくらい真っ暗だ……。
しかも、結構狭いな。天井に頭がぶつかりそうということはないが、敵に挟み込まれると横をすり抜けて逃げるのは難しそうだ。
戦って道を切り開かなければならないな。
なんにせよ、片手に松明を持っていると矢が撃てない。
松明はみずがめ座の試練で使ったグラスのように体に引っ付いてはくれない。
熱くないらしいし、口にくわえておくか?
「あ、ガー坊にくわえてもらおう」
機械の体に熱を与えるのは問題だが、この松明は熱くない。
ガー坊に『くわえる』という動作が理解できれば可能なはずだ。
「ガー坊、これを口にくわえてくれるかい?」
松明を横に倒して、くわえやすくしたうえでガー坊の口に持っていく。
ガー坊はパクっとくわえてくれた。
鋭いギザギザの歯が見えたので噛み切ってしまうのではないかと一瞬焦ったが、この松明は壊れることもないんだったな。
「偉いぞガー坊! よし、行こうか!」
ガー坊に少し前を進んでもらい、前方を警戒してもらう。俺は背後を警戒する。
この洞窟は分かれ道が多い。今も1つ分かれ道があり、左の道を選んだ。
もし、右の道にモンスターがいたら、そいつは俺たちを追ってくるかもしれない。
真っ暗な洞窟で背後から襲われるなんてごめんだ。
数秒おきに矢を撃って洞窟を照らす。
そう、『星域射程』の効果で俺の矢は光のオーラを帯びている。
矢は飛んで行ってしまうので照らしてくれるのは一瞬だが、それでも敵がいるかいないかは判断できる。
逆に言えば、俺はこれから暗いところで戦う時、攻撃の度に光る矢を撃って自分の位置を知らせることになる。
コツコツコツコツ……
洞窟の中に足音が響く。
俺の物ではない。足袋はこんな硬そうな足音を出さない。
何かが洞窟の中を動き回っている。
それも動物って感じではない。四足歩行の足音のリズムとは違う。
二足歩行、それも足が短く、せかせか走っている。
音が近づいてくる……。
「グー! グー!」
ガー坊が鳴く。
口に松明をくわえているのでくぐもっているが、これは威嚇の鳴き声だ!
「ガー坊! 攻撃だ!」
前方は任せよう。
洞窟の中で反響していたので気づかなかったが、背後からも何か来ている!
キリリリリ……シュッ!
矢が飛んでいく刹那、その光が敵の正体を照らし出す。
緑の肌を持つ醜悪な小人。それもたくさん!
ファンタジーにおける敵モンスターの王道……!
「ゴブリンだ……!」
無数のゴブリンに挟み撃ちにされている!
だが、今の俺たちにとってはなんてことのない敵のはずだ。
狭苦しい暗闇の中だからといって怖気づくな。
今、光の矢で敵を撃ち抜く……!








