第33話 一匹見つけたら三十匹?
今日は日の出より早めに起きた。
せっかくの秘湯なので、朝風呂を経験したかった。
「……寒いな!」
テント内は温度自動調節機能が働いているのであまり感じなかったが、外は異様に寒かった。
「う~、寒いです」
『早く寝袋に戻りましょう!このままじゃ全員凍死するわ!』
寒くて動きたくないナナがそんな事を言い出した。
「モコモコ着てたらその内暖かくなるだろう」
「モコモコ♪モコモコ♪」
『やっぱりモコモコには敵わないわね。完敗だわ!』
何なの、このモコモコ推し!?
ただのモコモコした防寒着なんだが…
朝風呂も最高だった。
説明はこの一言で充分だろう。
強いて言うならば、リルが寝不足で溺れてニアが人工呼吸をしたくらいだろうか…
「何故、我がこのような事を…」
本当に嫌々だった。
名残惜しいが出発だ。
転移魔石柱の設置も終わったし、定期的に此処に通って英気を養うとしよう。
来た道を戻っていると、昨日マナさんが落ちてきた場所に何者かが立っていた。
「落下した女の死骸も無ければ、調べに行った一介天使の痕跡も無いな」
どうやら昨日来た天使が戻って来ないので、探しに来たらしい。
「見回りご苦労様です!」
俺達はその横を通りすぎる。
「ああ…って何者だ貴様ら!」
『旦那様、急に大きな声出してどうしたの?』
「いや、そこに天使が居るんだ」
「エアー戦闘ですね!」
『リル、ニア!どこ?』
「右手の方向に三歩ほどじゃな」
「ここですね!」
ルナが滅ちゃんを振り抜く。
「ぎゃああああ!!」
天使は消滅した。
「…………」
『どう?殺ったの?』
「手応えもありません…」
「いや、これはもう何と言って良いか分からんのう」
リルの言う通りだった。
まあ、あの天使が良い奴の可能性は無いに等しいが、問答無用で切り捨てるのは不味いな。
「ルナ、ナナ。一応俺達が対話を試みるから、動き出すのは合図してからにしてくれ」
「どんな合図ですか?」
『サザンアイズ?』
「………そうだな、サザンアイズで良い」
『ごめんなさい…』
ナナが素直に謝ってきた。
ボケる雰囲気では無いのを感じとったようだ。
「戦闘になったら繋いだ手を離すから、それを合図にしよう」
『繋いだ手を離すから、それを合図にしよう……何かの歌詞みたいね!旦那様、ごめんなさい!』
ナナがフライング謝罪をしてきた。
謝るくらいなら言うなよ…
まあ、ルナ達からすれば何をやってるのか分からないのだから仕様が無いか。
「まあ、手を離すまではじっとしててくれ」
「分かりました!」
『了解よ!』
今後の方針を決めていると、上空に更なる人影が。
「権天使の生体反応が消えたから来てみれば…。貴様ら何者だ?」
そこには先程居た天使よりも更に強そうな天使がいた。
「俺達はただの旅の者だ。先を急ぐ旅なんだ、失礼する」
「まあそう言うな。位階六位の能天使様が下位生物に話し掛けてるんだ。光栄な事なんだぞ」
能天使様とやらが俺達の目の前に降り立った。
態度がかなり高圧的でいけ好かない奴だ。
『また居るの?どこからか湧いてくるのかしら』
「一匹見つけたら三十匹のアイツですね」
能天使様のこめかみがピクピクと痙攣している。
「ほう、この俺様を害虫扱いとはなかなか度胸がある小娘だな!」
言うや否や、能天使様が剣を振り下ろす。
「ルナ、目の前だ!」
「ここですか?」
能天使様の剣はルナの体をすり抜け、滅ちゃんは能天使様の胴体を半分にした後、焼き尽くした。
「………」
「ご主人様?」
「ああ、悪い。エアー戦闘だもんな」
俺もエアー戦闘の意識でいかないと不味いな…
「まさか能天使が殺られるとは…。貴方達、何者ですか?」
そこにはまた更に強そうな天使が。
「私は主天使と申します。下位生物が如何様にして高位の存在である我等を倒せるのか興味があります」
天使ってこんなんばっかりなの!?
ガルが天使を蟻に例えた意味が分かる気がする。
だがこの主天使とか言う奴、実力はかなりの物だ。
上位のドラゴンに匹敵するかもしれない。
『旦那様、また足が止まってるわよ。早く進みましょうよ!』
「もしかしてまた何か居るんですか?」
主天使は文字通りルナ達の眼中に無い。
「ほほう、この私を無視するとは無知とは恐ろしいものです…。せめてもの情けで苦しむ前に殺して差し上げましょう!」
主天使は自分を無視されたと思ったのか、かなりの激おこだ。
そして、指先をルナの方に向けたかと思うとそこから光がほどばしった。
「ナナ、前方斜め45度にガトリング砲だ!」
『イエッサー!『回転式多銃身機関銃』!』
ガガガガガガガガガガガガガ!!!
それはもう弾幕の壁と言って良かった。
一秒間に何発打ってんの?
そう言えばニアの魔力ブーストの事を忘れていた…
主天使は最後の言葉を残す事なく跡形も無く消えていった。
勿論、光はルナをすり抜けているのでルナは無傷だ。
背後の地面だけが抉れていた。
『うわ!何これ?軽くホラーね』
「ナナ、そんな事言うのやめてよ。怖くなるじゃない!」
「…ちょっと彼奴らが可哀想になってきたのじゃ」
「うむ、これは戦いですら無いな…」
リルやニアの言う通り、これ以上来られても無駄死にするだけだから来ないで下さい!
そんな俺の祈りも虚しく、今度は桁違いの奴がやってきた。
「主天使が消えた気配を感じて、興味本意で来てみれば…。人の子よ、我が同胞が大変な失礼を致しましたね。不肖この熾天使が一柱ガブリエルが謝罪致します」
天使の一番上が来ちゃった!?
背中に生えた羽は左右六対あり、性別はあるのか分からないが綺麗な顔立ちと女性の様な体型をしている。
熾天使の周りは光が満ち溢れており、魔力では無い別の物凄いエネルギーを感じる。
今の俺は勿論、リルでもたぶん敵わないだろう。
ガル?あいつは今この場に居ない…
「熾天使様に提案があるんだが、この場は見逃してくれないか?」
『旦那様、また何か居るの?もう本当にしつこいわね!害虫の方がまだマシよ!』
「やっぱり大本を絶たないから増えるんでしょうか?」
熾天使様のこめかみがピクリとした。
『旦那様、もう無視して進みましょうよ!』
「殺してもまた出てきますから、今度来たときに火魔法で巣を一掃しましょう」
ルナの中では黒いアイツと戦っている認識のようだ。
「仮にもこの私が低姿勢で謝罪までしていると言うのに。やはり下位生物は救うにも値しないようですね」
ヤバイ!熾天使様も激おこだ!
「しかし、その存在自体は厄介極まりない。だとしたら私が取るべき行動はひとつ」
熾天使様の周りの光が掌に凝縮したかと思うとそれをこちらに向けた。
「?」
何が起こったのか分からなかったが、急に肩付近から激痛が走った。
「ぐあああああ!」
激痛の中で肩の方を見ると右腕の肩から先が無かった。
ルナと手を繋いだままのそれはぶらぶらと揺れている。
多重障壁を張っていた筈なんだが…
「えっ?ご主人…様…?」
『何これ…』
ルナ達は俺の腕を見て固まっていた。
「る、ルナ。今目の前に…天使達のボスがいる。…俺の事は良いからお前達だけでも逃げろ…」
ルナにはあいつの攻撃が効かないから、逃げるだけなら楽勝だ。
「い、いやーーー!」
『……ルナ!!!しっかりしなさい!!!』
「………ナナ。うん、わかった!」
『先ずは旦那様の回復からね。『再生の炎』!』
物凄い熱量の炎が俺の肩から先を形作る。だが全然熱さは感じない。
一瞬で俺の腕は元に戻っていた。
「ほう、瞬時に再生するとは…。これはいたぶり…もとい教えの説きがいがありそうですね」
熾天使様がニタァ~という感じの擬音が合いそうな笑みを浮かべる。
『害虫か何か知らないけど、旦那様に怪我を負わせた罪は重いわよ!!』
「…絶対に許しません!!」
『ルナ、練習してたアレをやるわよ!』
「わ、わかった!」
練習してたアレ?




