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1.幸運を手にした少年

少年が試験官から告げられた言葉は些か残酷なものであった。


「厳しいですね。いや、無理とは言いませんよ。ただ正直な話、君には才能というものがない。 飛空士としてやっていくには相当厳しいかと……」


大空を翔け抜け未知の領域へと挑む果敢な存在。人は彼らを飛空士と呼ぶ。

彼ら飛空士の使命は、魔力の供給源である浮遊島へとたどりつく事。浮遊島を手中に収めることができれば、膨大なエネルギー源を占有することが叶う。ゆえに各国は次の時代の覇権を手にするべく、飛空士育成に惜しみなく予算を注ぎ込む。

功績を残した飛空士に対しては国から莫大な報酬、そして名誉が与えられる。


そんな飛空士を志す者たちが一歩を踏み出す為に集った試験会場での一幕。少年に無情な現実が突き付けられていた。


「まぁ私も仕事ですから、最後まで面接を続けますが。君、どこの飛空士科を志望で?」

中央都市(セントラル)の学園です」

「それはまた…… あそこはエリート揃いの場所ですから尚の事、難しいですよ。この事前検査の結果を見る限り……」


筆記試験の類は何ら問題無い。しかし、飛空士を目指す者にとって最も重要な素質が少年には欠けている。

面接前に行われた能力検査は非情にも、彼の夢を諦めさせるに十分な根拠を突きつけていた。

詳細な検査結果こそ開示されないものの、国内で最も威厳ある中央都市の学園に入学するためには実力が足りていないというのだ。


「何も中央都市の学園に拘らなくてもいいんですよ。地方の学校でなら訓練生としてキャリアを始められる可能性も僅かながらあると思いますが」

「ダメなんです! 俺はあの学園でキャリアを積まないと、意味が無いんです」

「いや、だからね。調査結果を見る限り、君には魔力を扱う適正が殆どないんだよ――」


なおも少年は引き下がろうとはしない。分を弁えない少年に、苛立ちを見せ始めた試験官。

飛空士として魔力の扱いに長けているか否かは極めて重要な問題である。それは航空機の動力となるエネルギー源が人間の注ぎ込む魔力であるためだ。


「こればかりは生まれ持って与えられる能力だから、いくら努力をしようが覆らないんだ」

「それでも……」


試験官は少年から預かった志願書を裏返しに伏せ、首を横に振った。


生まれ持った才能の前では努力など意味を成さない。どんなに足掻いたって無理なものは無理。飛空士を目指す者なら普遍的な常識として理解している事柄だ。

もちろん、そんな事は少年だって知っている筈である。


「一層のこと、飛空士を目指さなくたって、空に関わる事は出来ますよ。機体の整備といった類の仕事に就けば、まず食いっぱぐれる事は無いかと――」

「地上で指を咥えて、他人が空を翔ける姿を見ているんじゃ意味が無いんです」

「空へ挑むことが勇気なら、夢を諦め地上に留まることも勇気だと思いますけどね、私は。君は心身をすり減らし偉業に挑む勇者にはなれないが、他人のおこぼれで生きていく賢者にならなれる。君にとっての賢い選択、それは飛空士を諦めることだ」


浮遊島を目指し、散っていった多くの飛空士を見てきたからこそ、若者に与えることができる助言もある。

しかし、それでも彼は大人の言葉を聞き入れず、自分の夢を諦めようとはしなかった。


「お願いします。あの学園に志願させてください」


少年の発言から暫く。試験官はわざとらしく、ため息を吐き、口を開く。


「――分かりました、そこまで言うのであれば良いでしょう……」


試験官は卓上に置かれた志願書を裏返し、ペンを走らせ始めた。


「志願するだけなら何の条件もありませんし、訓練生として迎え入れられるか否かは学園側の判断なので。今日の筆記試験、能力検査、志願書を元に学園側が決めること。加え、単なる試験官の私に志願を拒絶する権利などないですし。ただ、神の気まぐれで運よく訓練生になれたとしても苦労すると思いますよ……」


試験官は志願書に受験番号を記入し検査印を捺し、少年の志を預かった。

少年は微かな可能性にかけ、試験会場を後にした。


――それから多くの月日が流れた後。

少年のもとに補欠要員として入学許可証が届いたのは、入学式をとうに過ぎた頃だった。


「嘘…… じゃないよな」


入学許可証に添えられた書にはこうも記されていた。


『今回、遅れての合格通知を送らせて頂いた理由に関して――』

『なお、編入生向けの式は下記日程にて執り行います――』


学園の新しい試みとして特別増員枠が急遽設けられ、補欠要員を繰り上げ入学させる措置にでたというのだ。

一生分といっても過言では無い程の運を使い切った……

というのは大袈裟かもしれないが、幸運を掴んだことに違いはない。

飛空士のキャリアへと通ずる固く閉ざされていた扉に、僅かながらの隙間が現れた。空への第一歩が開けたのだ。


「編入生向けの式…… って、明日の日付じゃないか! こんな事してる場合じゃない、夜行列車なら間に合うかこれ――」


彼はろくな支度も無しに急遽、学園を構える中央都市へ向かう事となった。

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