表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/20

第20話 白毒大災厄、終結

集まってくる影に、殺気はなかった。


白い海が、どこまでも続いていた。かつて逃げ場を探して彷徨っていた濁りの中とは思えないほど、視界は開け、遠くの影の輪郭までくっきりと見て取れる。この広さを見渡せるようになったこと自体が、原初呼吸という力の証だった。


そんな白い海の広がりの中、種類も大きさもばらばらな命たちが、俺の周りにゆるく輪を描いて漂っている。喰おうとする気配も、逃げようとする気配もない。ただ、寄ってくる。かつてなら、これだけの数に囲まれれば命の危険を疑うところだ。だが原初呼吸を通して見る限り、どの影からも敵意らしい反応が返ってこない。


【外部要素反応:多数(敵性判定なし)】


囲まれてるのに、殺気がない。何だ、これは――そう身構えた俺に、答えはすぐ出た。近づいてくる影は皆、薄い場所ではなく、白毒の濃い側から漂ってきている。逃げ場を探しているんじゃない。ここが、もう当たり前の場所になったから、集まってきているだけだ。かつて古い命たちが一斉に沈んでいったのと同じ海のはずなのに、今はそれぞれのやり方で息をしている影ばかりだ。白毒はもう災厄じゃない。この海に住むための、当たり前の水になった。


近くを漂う影の輪郭を、原初呼吸越しに一つずつ確かめてみる。薄く光る膜だけの命、震えるように蠢く塊、いくつも分かれた細い糸のようなもの――形はばらばらでも、どれも白毒を吸って動いているという一点だけは同じだった。俺が一人で切り開いた道じゃない。同じ答えに、それぞれ別のやり方でたどり着いた命が、ここにこれだけいる。


古き王が支配していた頃なら、こんな数がこれほど無防備に群れることはなかったはずだ。あの頃はみんな怯えて縮こまり、強い者の機嫌ばかり窺っていた。世界難易度が塗り替わり、支配する者が消えたことで、何かのスイッチが入ったのかもしれない。誰かの許しを待たなくても、生きていていい海に変わったんだ。


 


視線を落とすと、海の底の方に、赤黒い層が幾重にも積もって沈んでいくのが見えた。かつて感覚をねじ曲げ、進む先を勝手に決めようとしたあの赤い筋が、今は誰も乗っ取らず、ただの重みとして底へ底へと沈んでいく。


【環境記録:赤層、海底へ沈殿】


赤い海は、もう「今」の脅威じゃない。この海の底に積もる、過去の記録になった。あれほど恐れられていたものが、今はただ静かに堆積していくだけの層になっている。世界は、俺が気づかないうちにもう一段先へ進んでいたらしい。


古き王が沈んだ跡地を見渡す。あれほど大きく、あれほど揺るがなかったものが、今はもう影も形もない。海の色も、流れの向きも、あの日と何も変わらないのに、そこにいた「支配」だけが綺麗に消えている。代わりに残っているのは、変わり続けて、まだここにいる俺だ。


勝った、というより――ただ、残っただけだ。


そう思った瞬間、胸の奥がすとんと軽くなった。奪い合った海じゃない。生き延びた側が、たまたま俺だったというだけの話だ。誇るようなことじゃない。ただ、次へ渡せる形がここにある、それだけで十分だった。


避けて、耐えて、変換して、支えられて――遠回りに見えたその全部が、結局は「勝つ」ためじゃなく「残る」ための道だったんだと、今なら分かる。強さで塗り替えたんじゃない。世界の側に合わせて、形を変え続けただけだ。俺を殺しかけたこの海が、今度は俺を生かす側に回った。


 


薄い流れの跡で、小さな光が寄り添うように揺れていた。以前より迷いのない動き方で、こちらへ近づいては離れ、また戻ってくる。追い立てられていた頃の怯えた揺れ方はもう、どこにも見当たらない。欠片は震えの質を落ち着かせ、そばで静かに輪郭を支えている。誰も何も言わない。それでも、この三つの気配が並んでいることが、今の俺にとって一番はっきりした答えだった。次へ渡すもの、渡す相手、渡す形――第一部の間ずっと探し続けてきたものが、ようやく、ここに定まった気がした。


その静けさの中、ふと視界の隅、薄い方の遠い揺らぎに、見覚えのある輪郭が過ぎった気がした。


意識を向ける。近づきはしない。ただ、目を凝らす。


薄い流れのずっと先、白毒の薄い側を選んで漂う影が一つ。輪郭の揺れ方に、覚えがあった。


【個体反応:類縁性、微弱に検出】


生きてる、のか。あの日、薄い方へ向かった「もう一つの俺」が。


俺なのか、俺じゃない何かなのか――それは、まだ分からない。声をかける手段もないし、近づけば何かが崩れる気もして、体が動かなかった。ただ、生きているという一点だけを確かめて、俺はそっと視線を外した。答えを急ぐ話じゃない。それで十分だった。今はまだ。


 


ふいに、火種タグが強く跳ねた。統合の熱とは違う、これまでとは質の違う反応だった。


同時に、海の一番深い暗がりから、重い気配が押し寄せてきた。原初呼吸が、濃さの向こうにある「速さ」を捉える。俺よりも速い。俺よりも大きい。輪郭の先端に、これまで見たどの命にもなかった硬い突起の列が並んでいる気配がした。牙、というやつだ。そして、まっすぐこちらを見ている――いや、見ているという表現すら生ぬるい。品定めしている。獲物として。


欠片が、これまでで一番大きく震えた。震えではなく、はっきりした言葉になった。


「――逃げろ」


【新規脅威:捕食特化個体】


初めて聞く、欠片の命令だった。震えでも引き攣りでもない、意味を持った一言。俺は反射的に体を翻し、光を庇うように囲い込みながら、原初呼吸の軽さのまま全力で薄い方へ向かおうとした。


一度目、まっすぐ薄い方を目指す。奴の気配が背後で膨らみ、詰められる。二度目、進路を変えて回り込む。それでも詰められる幅は変わらない。白毒を味方につけたはずの体が、今は重石のように感じられた。


だが、間に合わない気がした。奴の速さは、俺の「以前より速い」を軽く追い越してくる。白毒を制した体でも、まだ足りない何かがある――そう悟った瞬間、視界の端に牙の影が閃いた。


【死亡原因候補:捕食】


白毒の海を制したはずの俺の目の前に、まだ持っていないはずの力――何かを「見る力」――が要る敵が迫っていた。気配だけで詰めてくる相手の輪郭さえ、まだ半分もつかめていない。分かるのは、速さと大きさで負けているという、ただそれだけだ。


次の時代のルールは、もう始まっていた。白毒を制した俺は、また最弱の側に戻っている。


第1部最終話です。白毒大災厄が終結し、主人公たちは白毒のある海で生きる側として定着します。赤い海の層は海底に沈み、環境の記録として残るだけの存在になりました。古き王の消えた海を見て、主人公は「勝ったというより、残っただけだ」と静かに受け止めます。そして中間回収として、あの日別れた分裂体が生きていることだけが確認されます。深い正体はまだ分かりません。ラスト、海の奥から現れた牙を持つ捕食者に、欠片が初めてはっきり「逃げろ」と告げます。第2部、新しい時代の始まりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ