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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第1話 目が覚めたら、俺は最弱生命だった

目が覚めた。


いや、正確には目なんてなかった。まぶたも、光も、手も足も、口も鼻もない。起き上がろうにも「上」がどっちなのか分からない。あるのは、ぼんやりとした温かさと、体の外側を撫でていく流れだけだった。


……なんだこれ。俺、死んだんじゃなかったのか。


最後の記憶は白い天井だ。病院だったのか自室だったのかも曖昧で、誰かの声がした気もするし、ただの機械音だった気もする。そして次に気づいたら、これだ。暗い。重い。ぬるい。あと、たぶん俺はめちゃくちゃ小さい。


「……いや、小さいとかいうレベルか?」


声に出したつもりだった。もちろん声は出ない。口がないのだから当然だ。喉も肺もない。というか、俺の体がどこからどこまでなのかすら分からない。


まずは確かめよう。体があるなら、動くはずだ。


俺は、膜のような自分の内側に力を込めた。……何も起きない。次に、輪郭を探るつもりで外へ意識を伸ばした。……境目すら曖昧だ。最後に、叫んでみた。当然、無音。


三連敗。目覚めて数分(体感)で、俺は移動と発声と自己認識の全部に失敗した。


その瞬間だった。頭の奥に、文字が浮かんだ。


【個体情報を確認】

【種族:未定義生命】

【感覚器:未形成】

【移動器官:未形成】

【捕食器官:未形成】

【防御構造:未形成】


いや、未形成多すぎるだろ。全部ないじゃねえか。


だが、悪い知らせだけじゃなかった。表示は続いた。


【固有スキル:継承進化】

【発動条件:死亡時】

【効果:死亡原因、適応傾向、行動記録の一部を次世代へ継承】


継承進化。スキルだ。転生ものらしくなってきた――と思ったのは一瞬で、発動条件を二度見した。死亡時。さらっと嫌な単語を出すな。もう少し生きている間に役立つやつをくれ。火を出すとか、剣を召喚するとか、せめて鑑定とか。


いや、待て。読み違えるな。これは「死んだら終わり」じゃなくて「死んでも、次に渡せる」ということだ。死に方も、失敗も、全部が次の俺への攻略メモになる。つまりこのスキルの価値は、俺がどれだけ「質のいい負け」を記録できるかで決まる。


……なんて前向きに整理した直後、ステータスが追い打ちをかけてきた。


【現在環境:原初海域】

【世界難易度:測定不能】

【次世代生存率:0.0003%】


ふざけるな。0.0003%。ほぼ死ぬどころの話じゃない。百万回生まれて三回残る計算だ。ゲームならチュートリアルの最初で運営に問い合わせるレベルだ。「すみません、初期スポーン地点が即死エリアなんですけど」って。


もちろん問い合わせ先はない。目も口も手もなく、移動器官も防御構造も未形成。あるのは、死んだら何かを次に渡せるスキルだけ。


どう考えても詰んでいる。それなのに、完全には絶望できなかった。俺の中には「消えたくない」という感覚が残っていた。気合いでも根性でもない。もっと原始的で、みっともなくて、理屈のない衝動。消えたくない。ほどけたくない。流れに溶けて、なかったことになりたくない。それだけが、今の俺の全部だった。


「生きるに決まってるだろ」


声にならない声で言った瞬間、文字が浮かぶ。


【行動傾向を記録】

【生存意志:微弱】


微弱。そこは不屈とか、もう少し盛ってくれてもいいだろ。……いや、そうか。こいつは俺の行動を「記録」している。継承進化の素材集めだ。なら評価が微弱でも、記録されるだけマシだと思っておく。


周囲の流れが変わった。ぬるい海のようなものが、ゆっくりと俺を押し流す。俺の知っている海とは何もかも違う。暗く、熱く、濁っていて、すべてが混ざりかけている。世界がまだ、何になるか決めていないみたいだった。その中で、俺だけが先に答えを求められている。生きるのか、消えるのか。


答えは決めた。なら、やることは一つ。0.0003%を、少しでも上げる材料を集めることだ。


俺はもう一度、体を動かそうとした。今度はやみくもじゃない。流れが撫でていく感触を頼りに、流れの「来る側」と「行く側」を区別しようとした。……分からない。感覚器:未形成は伊達じゃなかった。それでも、熱の濃い方向と薄い方向くらいは、ぼんやり分かる気がした。収穫ゼロよりはいい。


【行動傾向を記録】

【感覚傾向:熱勾配の知覚】


……お、おお? できないなりに、もがいた分だけは拾ってくれるのか。だったら、もがき損ってわけじゃない。


その時だった。外側を撫でる流れが、不意に乱れた。


均一だった温かさに、違うものが混じる。圧。いや、気配。見えない。聞こえない。それなのに分かった。何かがいる。俺より大きい何かが、近くを漂っている。岩のように無関心ではない。流れに任せているだけでもない。ゆっくりと、こちらへ寄ってくる。


体の内側が震えた。人間だった頃の恐怖とは違う、もっと単純な、命そのものに刻まれた警報。


喰われる。


【警告】

周辺環境に捕食反応を確認。


捕食。もう一度言う。捕食。俺はまだこの体で一歩も動いていない。一歩どころか足がない。攻撃手段も防御手段も逃走手段もない。なのに、敵だけはいる。この世界、難易度設定を間違えていないか。生存率0.0003%は、脅しでも誤植でもなかったわけだ。


何かが近づいてくる。俺の周囲の流れが、そいつの動きに引っ張られて歪む。大きい。速い。あれは俺を、世界の一部としてではなく餌として認識している。


【死亡原因候補:捕食】


候補じゃねえ。ほぼ確定だろ。


それでも俺は、あがくだけあがいた。内側に力を込める。動かない。流れに逆らおうと体を傾ける。流されるだけ。膜を縮めて小さくなろうとする。何も変わらない。


三回試して、三回失敗。逃走手段、なし。確認完了だ。


最弱。その言葉が、やけにはっきりと浮かんだ。俺はこの世界で、たぶん一番弱い。少なくとも今この瞬間、俺は何もできない。何もできないまま、何かに喰われようとしている。


それでも、俺の中の小さな震えは、まだ消えようとしなかった。


死んだら終わりかもしれない。でも、あの文字は言っていた。死亡時に発動する。死亡原因を、適応傾向を、行動記録の一部を、次世代へ継承する。


なら。もし本当に死ぬしかないなら、せめて、ただでは死なない。


この死に方を覚えろ。逃げられなかったことを覚えろ。喰われる前に震えたことを覚えろ。何もできなかった悔しさを、次の俺へ渡せ。


見えない何かが、俺のすぐそばまで来た。暗い海が、大きく歪む。俺は目もないまま、それを睨んだ。たぶん、睨めてはいない。でも、気持ちだけはそうした。


生き残る。どんな形になっても。


【行動傾向を記録】

【抵抗意志:微弱】

【継承候補に追加】

【次世代生存率:再計算中】


また微弱かよ。最後くらい、強めに評価しろ。


……再計算中? 何を今さら。


そう思った瞬間、俺の全部が、巨大な流れに飲み込まれた。

本エピソードは、原始の海と初期生命をモチーフにしています。主人公が「何も持たない最弱生命」として世界に放り込まれるところから物語が始まります。

「巨大な流れ」の正体とは、、?第2話にご期待ください。

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