鴉
池袋。
路上、相対した石階段に超能力者が座っている。
何故、彼れが超能力者と分かるかと言うと、―
―私が超能力者だからだ。
―其れは今風に色付きの、黒いマスクをした金髪の少年だったが。
マスクと揃いの色の、黒いフードパーカーを身にしている。
細身なので、鳥類の様にも映る。
其奴は迚もイヤな顔をした。あからさまに顰めたのだ。
分かる。私も同じ顔をしていたろうし。
超能力者同士の遭遇に良い事は無い。
対消滅と言う現象がある。
同等のエネルギー同士が正面衝突すると、凄まじい爆発力が湧出して、周囲空間さえ滅す。
此の事の為に街二つ分くらいの加速器を、地下に設けて観察している国さえある。
人工地底湖や地底都市なみに大仰な伽藍をもうけ、ちいさな陽子同士の相撲を観測している。
然も其の『立ち合い』は未だに観測されてはいないが、我々の蔵している思念エネルギー同士なら話は別で、掠り合う程度でも東京都全体が滅壊するだろう―、
がっぷり四つに組まぬ道を選ぶべき―
―鴉は互いの餌場を荒らさないものだ。
無言のうちに私が折れてやり、踵を返した。
平和的解決。
生存権は『正気である』事で保全されるのだ。
―処で、私の持論・自論だが、狂気とはウイルスである。
或る時に、私が冷蔵庫から納豆を出して食そうとしたら、その中身が発酵した大豆の球体ではなくして、小さな小さな眼球の蝟集だった事がある。
其れは糸を引いて粘ついていた。
私は自分が狂ったのを感じた。
だが、直様、其の狂気は私の妻に伝染し、妻は傍にあった手鏡を握って押っ取り刀、出奔して、其の儘、二度とは戻らなかった。
私の方はケロリと治癒した。
風邪と一緒なのだ。うつせば、なおる。
―妻の事を追想した為か、やや韜晦と感傷を孕みながら、立教大学の通りをあゆんでいると、目前に鴉が飛来した。
あっと思った。
汗が流れる。
冷たい汗だ。然し同時に爆発寸前の爆弾が液化した様に。
熱い。
鴉の正体を思う。
さっきの超能力者のワカゾウが化けているのではないか。
超能力者ならばオチャノコだろう。
現に奴は黒尽くめのナリをしていたではないか―、
―邪推だろうか。
私は其の道から動けなくなった。
永遠に釘付けだった。
―其の儘、三千年が経過した。




